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進化する翼レグナ  作者: 影絵企鵝
十一章 進化
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後編

 衛士は白バイを駆り、ミハエルと共に、怪物が現れたという現場へ向かっていた。彼が身に纏うプロテクターはもはやどれもこれもヒビや割れだらけである。ヘッドホンからは倫香の忠告が絶え間なく響く。

『いい? 絶対に無茶なんかしたらダメなんだからね。今度自爆でもしたら、死ぬほど痛いじゃ済まないんだからね』

「わかっている。ちゃんと帰る。だからそうくどくどと説教するな。冬木の説教が厳しくて神原が可哀想、と言っていたのはどの口だ」

『へぇい。じゃあちゃんと帰ってきてね! そしたらご褒美あげる。だから絶対帰ってきてね』

「む? ……一体何なんだお前は……」

 衛士は溜め息をついてしまった。それを聞いた隣のミハエルは、鎧の隙から覗く耳を震わせながら尋ねる。

「また早乙女か。一々衛士殿に付き纏い、何様のつもりか。帰ったら私が成敗致します」

 ミハエルが歯を剥き出しにしながら呟いた。さりげなく近づこうとする彼女の存在を腹に据えかねているらしい。衛士は微かに笑うと、首を振った。

「いい。彼女のお陰で余計な緊張が取れた。これで銃火器の命中向上につながる」

「は、はあ……ならば良いのですが……」

「気を引き締めろ。もう血の臭いが漂ってるんじゃないか?」

 急に声のトーンを低くして衛士は忠告する。ミハエルは鼻をひくつかせ、そして静かに頷いた。

「……はい。後一キロ程かと」

「ならば」

 衛士はバズーカ砲をバイクから引き抜き、打てる準備を整える。そして、地獄の中へと突っ込む。火の手が上がる車や建物、血溜まりの中に倒れる人々。衛士は歯を食いしばりながらその中をすり抜け、今まさに炎上するビルの中から飛び出そうとする鷲の化け物を捉えた。

「まずは一発」

 弾頭が飛び怪鳥に炸裂する。不意打ちに遭った怪鳥は吹き飛び地面に叩きつけられる。

「ぬおっ! これは、これはあの時の奴か!」

 怪鳥は起き上がると、その赤い目で衛士達を捉える。衛士はライフルを構え、ミハエルはサイドカーから飛び降りた。ミハエルは鎧の隙から覗く毛を全て逆立て、その鋭い爪が生える指で怪物を指差した。

「人の心を持ちながら外道に堕した者よ! この獣でありながら人道に目覚めし私が成敗してくれる!」

「……ほう。貴様も私と正反対というわけか……ならば死ぬがいい!」

「話にならぬか、狂人! ならば全力で行く!」

 ミハエルは叫ぶと、飛び出してきた怪鳥と組み合った。怪鳥はその嘴でミハエルの兜を突こうとする。首を捻ってそれを避け、その爪で怪鳥の胸を切り裂いた。

「しゃがめ!」

 ミハエルが屈むと、一発の銃弾が怪鳥の胸に突き刺さる。その威力に怪鳥は軽く後退りした。そこへさらにミハエルが追い打ちを加える。

「おおっ!」

 ミハエルの爪が、怪鳥の肩から腰を一気に切り裂く。血が噴き出し、怪鳥は仰け反った。そこを突いてミハエルがその胸に爪を突き立てようとする。しかし、その腕は怪鳥に押さえこまれてしまった。

「フフフフフ……所詮はただの獣よ!」

「ぬうっ!」

 爪が突き立てられ、ミハエルの腕から血が滴る。それよりもさらにミハエルに衝撃を与えたのは、すでに塞がった怪鳥の傷だった。

「何故だ。私は深手を与えたはず……」

「フハハハハ! 私は祝福を受けたのだ! 絶望をもたらす使徒としてな!」

「何だと……? うぐぁっ」

 怪鳥は腕一本を振り回し、ミハエルを投げ飛ばした。その弾みでミハエルの肩が外れてしまう。歯を食いしばりながら起き上がり、ミハエルは呻く。

「おのれ、貴様!」

「ハハハ! 絶望しながら死ぬがよい!」

「くそっ」

 勿体つけてミハエルへと迫る怪鳥に向け衛士は何発もライフルを撃ち込む。しかし、当たったそばから傷口から銃弾は追い出され、傷が塞がっていく。全く通用していなかった。衛士は唇を噛み、絞りだすように呟いた。

「……くっ。無理なのか……!」

「絶望だ。絶望するがいい。そして生への意志を捨てるのだ!」

 刃物のように鋭いその爪を、怪鳥は高々と振り上げた。


「絶望するのはてめえだ! 荒俣ぁッ!」


 その時、白い閃光が怪鳥を吹き飛ばした。怪鳥は受け身も取れないまま道路を激しく転がっていき、燃える車に衝突した。

「ぐっ! き、貴様は!」

「確かに……篭手が無くなったのには俺の責任もあるかも知れねえ。……だったら、なおさら俺はお前を許さねえ。それが、俺の責任だ!」

 そこに立っているのは、紛れも無く白い鎧を身に纏った典史だった。衛士は目を見開き、典史に向かって叫ぶ。

「お前、本当に来たのか!」

「ああ。誰かが助けを求めてるのに、無視なんて出来ねえよ」

 典史は衛士を一瞥すると、左手を前に突き出し、右手を天に突き上げた。怪鳥は炎を振り払って起き上がる。

「フフフ……来おったか。ならば貴様も、絶望のうちに死ぬがいい」

「死なねえよ俺は。約束したからな……お前に引導渡して、必ず帰るってよ!」

 その時、典史の身体を光が包み込んだ。突撃する怪鳥を吹き飛ばし、その光は典史の右手に集まり、彼の手で一枚のプレートと化した。見れば、そこには四つの翼を広げて舞う天使の姿が描かれていた。

「もう一度、変身!」

 典史は叫ぶと、左手に嵌っているプレートの上から新しいプレートを嵌め込んだ。途端、彼の身体が光りだす。青く光る目が白と変わり、上腕や太ももを覆う鎧が吹き飛ぶ。そして、鎧の両肘、両肩、背中、そして胸に、目を思わせる印が刻み込まれる。そしてもう一対の翼が、その背中に生えた。

「……智天使……」

 荒俣は豹変したレグナの姿を見て呟いた。そこに立つは、多くの目を持ち、多くの翼を持つ、神の御使いそのものだった。

「さあ、行くぜ?」

 典史は右手を突き出す。すると光が集まり、一振りの剣となった。典史は翼を広げて一気に飛ぶ。そして荒俣の身体を袈裟懸けに斬った。

「ぬおぁっ!」

 その一閃は鋭く、彼の身体をほぼ真っ二つにする。しかしそこから荒俣は一気に治癒する。嘴を大きく広げ、荒俣は高笑いした。

「ハハハ! 案ずるまでも無かったか! 祝福を受けた私は死なぬ! 死なぬのだ!」

 翼を広げると、怪鳥は空へ飛び上がる天使を追った。ビル街よりもさらに高く、刺すように寒い夜空へ飛び上がる。

「喰らえっ!」

 もう一振り剣を取り、典史は怪鳥に切りかかる。一本を受け止めさせ、もう一本でその腹を突き刺す。血飛沫が舞い、怪鳥は呻く。典史は剣を突き刺したまま怪鳥を蹴り飛ばす。

「ぬううっ!」

 荒俣は叫びながら剣を腹から抜き、傷を癒やす。そして、そのまま憎き天使に向かって飛び出した。そして乱暴に剣を振り回す。だが、一向に天使がその刃を受ける気配を見せない。はっとしてその手を見れば、剣はいつの間にか消えていた。

「何っ!」

「甘いんだよ! この野郎が!」

 典史は空から巨大な斧を取り出すと、両手に持って横へと薙ぎ払う。それは飛び上がる怪鳥の足を捉え、刎ねた。

「ぎゃぁあっ!」

 怪鳥は血を大量に噴き出し、そのまま身体を縮こまらせて地へと落ちていく。典史は斧を死神が持つような鎌へと変え、怪鳥を追いかける。

「ならん! ならん! こんなことはぁ!」

 荒俣が叫ぶと、断たれた跡から新しい足が生える。典史は思わず目を見開く。そこへ荒俣の蹴りが胸に決まった。しかし、鎧の硬さも桁違い、傷など全くつかない。典史は足を払い除けると、鎌で腹を切り裂いた。怪鳥は地に頭から落ち、典史は翼を羽ばたかせて悠々と地に降り立った。

「さあ、年貢の納め時だ!」

「……ぬううっ!」

 怪鳥は叫んだ。途端に砕けた骨は元通りとなり、腹の傷は塞がり、全快して立ち上がる。怪鳥は典史を睨みつけて得意気に叫んだ。

「無駄だっ! 私は祝福されたのだ! どれほど傷つけられようと、私は蘇るのだ!」

「ふん。つくづく哀れな奴だな……さっさと地獄に送ってやるよ。レグナがエンジェルだってんなら、それが俺の役目だ!」

 典史は鎌を巨大な剣に変え、振りかぶって飛びかかった。怪鳥は目を見開き、自信満々に受ける。その一撃は肩から腰を一気に切り裂く。典史はそのままその傷口に手を突き入れると、心臓辺りのプレートを探り当てた。それを握り締め、典史は哀れみの目を狂った老人に送る。

「じゃあな。あの世でせいぜい後悔しろ」

「ぬ、あ、あああっ!」

 典史は一気にプレートを抜き取る。怪鳥は突如おぞましい断末魔の叫びを上げた。そして、一気にその全身を白い砂と変え、血に染まった道路に崩れ落ちた。

「悪かったな、教授……」

 典史はプレートを握り締め、人々を蹂躙するその鷲の姿をしばし眺め続けていた。


「……もはや訳がわからない……」

 衛士は呆然と呟いた。ミハエルは外れた肩をかばいながら起き上がり、静かに呟く。

「凄まじい力を感じる。今までとは比べ物にならない、凄まじい力を……」

 四枚の翼を二枚のマントへと変え、典史は二人の方を振り返る。その鋭い眼光を見れば、衛士にも彼の手に入れたそら恐ろしくなるほどの力はわかる。衛士は思わずその視線から目を背け、唇を噛んでしまった。

「神原……お前は……」


 そんな光景を、ビルの屋上からローブの男は見下ろしていた。その視線はついにケルビムと覚醒した天使の姿から離れない。

「ふふふ……ついにここまで来たか。私の力も増してきた。神の計画が成就する日も近い……!」

 天を見上げ、両手を広げてローブの男は低く笑う。その声は、深い闇の中へと溶けこんでいった。


 夜が明ける。朝日を見つめ、冴子と倫香は病院の前でじっと三人の帰りを待ち続けていた。期待に顔をほころばせていた倫香は、いきなり素っ頓狂な声を上げて朝日の方角を指差した。

「あ、あれ!」

 冴子は慌ててその方角に目を凝らす。朝日を背にして、サイドカー付きの白バイが一台やってくる。衛士がハンドルを握り、典史がサイドカーにのんびりと乗っている。そして、その上にちょこんと警察のコスプレをしたシェパードが乗っていた。それを確かめた瞬間冴子は青くなって顔を背ける。

「衛くん! 典くん!」

 倫香は叫んで手を振る。衛士も典史も軽く手を上げ、二人の前にバイクを止めた。典史はミハエルを座席に残し、ゆっくりと降りる。そこでミハエルは人間の姿に戻った。

「ふう。ただいま」

「お、お帰り」

 冴子は背を向けたまま震えている。典史は溜め息をつくと、肩を静かに叩いた。

「そろそろ治せよ、ちょっとくらい。ミハエルは俺の命の恩人、いや恩犬なんだから。それに、もう振り向いても大丈夫だぜ」

「あ、うん……」

 冴子は振り向くと、突然典史に抱きついた。

「良かった。無事で……」

「……悪い。また心配させちまったな」

「うん。うん……」

 冴子は肩を震わせている。典史は微笑み、その背をそっと撫でた。

「ありがとう。冴子」


「う、うぁっ!」

 いきなり悲鳴が聞こえて二人は振り返る。そこには、衛士に思い切り抱きついている倫香がいた。

「な、いきなりキスをするな! お前は!」

「言ったでしょ! ご褒美あげるって!」

「だ、だが、それはどうなんだ! いきなり、口と口でなんて! ……神原!」

 倫香を引き剥がして衛士は悲痛な声を上げた。典史はにやにやして首を傾げる。

「おや、どうしたのかな?」

「どうしたもこうしたもあるか! アプローチはしばらく無いって、あの時言っていたろうが!」

「あららら。アテが外れちまったなあ。こいつぁ参った」

「ふざけるな! バカ!」

 衛士は倫香を典史たちの方へ押しのけると、耳まで真っ赤にして再びバイクに跨りヘルメットを被った。

「お、俺はもう行く。上に、上に報告があるからな。失礼する」

「早乙女、後でこのミハエルが成敗してくれる!」


 捨て台詞を残して走り去った二人を見送り、倫香は一頻り笑った。

「やだねえ、照れちゃって。格好いいだけじゃなくて可愛いところもあるなんて、最高」

「お前はもう少し恥じらいを覚えたらどうなんだ?」

 勝手に惚れ直している倫香に典史はさすがに呆れてしまった。冴子は微笑むと、倫香の肩を叩く。

「まあいいんじゃない? 私は応援するよ、ミチ」

「へへ、ありがと」

 そうして三人が笑っていると、いきなり背後で大声がした。

「神原さん!」

「はひっ」

 典史は情けない声を上げて振り返る。そこには、恰幅のいい看護師がいかにも機嫌の悪そうな顔で立っていた。

「ダメじゃないですか! 病院抜けだしたら! どれだけ探したと思ってるんですか!」

「い、いや、それが大丈夫になったんですよお。ほら、確かめてくださいよ。傷口塞がってますから」

「何馬鹿なことを言ってるんですか。戻りますよ」

「は、はい……」

 とことん情けないいつもの典史の姿に、冴子と倫香は肩を竦め、小さくなって看護師の後をついていく典史の背中を追って病院へと入っていった。


 こうして優しい一人の青年は、試練と出会いを経て天使へと目覚めた。しかし、まだ戦いは激しさを増していく。神の計画が発動する、運命の日へと向かって……


第一部 完


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