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進化する翼レグナ  作者: 影絵企鵝
九章 OO
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後編

 数日後、例の地下空間の中、笹倉教授達は倫香に指示されるまま実験器具を設置していた。と言っても、笹倉も典史も冴子も首を傾げるばかりである。倫香の才能は笹倉すら軽く凌ぐのだが、常に行動が直感的なため周囲は振り回されるのである。

「狼プレート設置完了。ミチ、そしてどうするの?」

 電極の繋がったボックスの中に狼のプレートを嵌め込み、冴子は機材室でパソコンを操作する倫香に尋ねる。彼女は満足気に頷くと彼女を手招きした。

「いいよお。戻ってきて。後は教授と典くんに任せておけばいいよ」

「倫香、これでいいのか?」

 丁度典史が顔を上げて倫香に尋ねる。そこには、ネズミのプレートをまるで人工衛星の太陽電池パネルのように繋いだ機材が台に置かれていた。さらにそれらの周囲には様々な計器が置かれていた。機材に繋がれた電流計電圧計はもちろん、温度計に湿度計、果てにはガイガーカウンターさえ設置されている。

「うん! オッケーオッケー。戻ってきて!」

 倫香の意図がわからず、典史と笹倉は首を傾げたまま戻ってくる。機材室でその様子をじっと見つめていた衛士は倫香に尋ねた。

「あの……これは何をしているんだ?」

「これ? まあ見ててよ」

 倫香は茶目っ気たっぷりに笑う。大きな瞳、つやのある唇が可愛らしい。衛士は目を一瞬丸くし、小さく頷いて一歩退いた。倫香は顔をガラス越しの空間に戻すと、軽くパソコンを操作し、エンターキーを押した。

「さあ、始まるよ」

 狼のプレートを繋いでいる電源装置が光り、プレートに電気を流していく。その時だ。いきなりネズミのプレートが光り出し、機材を繋ぐ計器が反応を示したのである。その結果に倫香は勝ち誇った笑みを浮かべる。

「私の思った通り!」

「え? 何が?」

「ふふん、聞いて驚け。私達は今、未知のエネルギーを発見しようとしてるんだよ。オーエネルギーとでも名付けようかな」

「未知の?」

「オーエネルギー?」

 腕組みをして自慢気に答えた倫香に、典史と冴子は首を傾げる。警察の衛士達はもちろん、笹倉教授も訝しげな顔をしている。

「これを見て。こっちは狼のプレートを繋いだ電源装置の周辺の計器なんだけど、どれも全く反応してないでしょ? 特に、温度の上昇が見られないってことは、この回路を流れてるエネルギーが一切熱として発散してないってわけ。つまり、この狼プレートがこっちのプレートにエネルギーとして干渉する余地は無いってことよ。理解できる? (えい)くん」

「エ、エイクン?」

 思わず衛士は倫香にオウム返ししてしまった。倫香は満面の笑みで頷く。

「うん。衛士だから、衛くん。いいでしょ? そう呼んでも」

「う、まあ……」

 マイペースな倫香に衛士がどぎまぎしていると、仏頂面のミハエルが身を乗り出して倫香を見下ろす。

「早乙女。あまり衛士殿を困らせるな」

「はん。何さ犬っころのくせに」

「何たる態度だ貴様!」

 プライドの高いミハエルは眉間にシワ寄せ歯を剥き出す。倫香も負けじと睨めっこを繰り広げる。笹倉は溜め息をつき、二人の間に割って入った。

「止めてくれ。話が進まないよ」

「へぇい。じゃあ続きに行きますよ。ともかく、この二つの装置の間にエネルギーのやり取りが無いはずなのに、あたかも一方がもう一方が影響を与えているかのような結果を呈しているんですよ。じゃあ、その因子は一体何なのか。こっちのモニターを見れば、熱、静電気、放射線、水分の発生は検出されない。影響を受けているのはたった一つ。このネズミちゃんのプレートだけ……私は、これは未知のエネルギーなんじゃないか、ってそう思うんですよ」

「それが、ミチの言うオーエネルギー?」

 冴子が顎に手を当てながら尋ねると、倫香は力強く頷いた。

「そう。時代錯誤異物、オーパーツに倣って、オーエネルギー。中々イカしてるでしょ?」

「確かに格好いい感じだけどさ、何で時代錯誤のエネルギーになるんだ? ついでに言うけどさ、オーパーツってアウト・オブ・プレイス・アーティファクツの略で、パーツはそのままパーツって意味じゃないぜ」

 典史が首を傾げると、倫香は一気に頬をふくらませた。

「む。そういうマジレスは無いわ。それだから典くんは典くんなのよ」

「どういう意味だよ」

「ふん。ともかく、私の見立てじゃ、そのオーエネルギーは遥か昔の十五、六世紀、宗教革命の嵐が吹き荒れて、異端審問が再び活発化したその時代の廃墟から見つかったオーパーツ、典くんが手に入れた真紅の篭手にもその存在が強く関わってると思うのよ」

「これが……か?」

 洒落た言葉を選びながら倫香は典史を指差す。典史は左手を強く睨みつけた。途端に赤い光が彼の左手を包み、真紅の篭手が現れる。突然の超常現象を目の当たりにし、倫香は目を丸くする。

「わお。そうそうそれそれ。向こうの研究チームでもね、大きな魚を逃したもんだって悔しがってたよ。ここにあるとは言わなかったけどね」

「……全く動じないな……」

 興味津々に篭手を見つめる倫香に、典史はこっそり溜め息をついた。見た目とは裏腹にかなり肝が据わっている倫香。今日こそ多少びっくりさせられると思ったが、典史はがっかりしてしまった。

「これで変身するんでしょ、典くん」

「お、おう……」

 典史がぎこちなく頷くと、倫香は目を輝かせながらプレートが置かれた部屋を指差した。

「じゃあ変身してみて! そこの中で!」

「はいはい。分かった分かった」

 典史は頷くと、部屋の真ん中に立って右手を天に突き上げた。その手に光が集まり、プレートが現れる。

「変身!」

叫ぶと、典史はそのプレートを篭手に嵌め込んだ。一瞬で彼はレグナに変身した。その時である。彼の両脇の装置に嵌めこまれたプレートが光を発し、それどころか、そのプレートが繋がった機材に変化が起きた。

「こ、これは……」

 笹倉は呆然と呟く。狼につながる電源装置は犬の頭のような形に変わり、ネズミに繋がっている機材がまさにネズミのような形に変貌したのである。そんな中でも、倫香は相変わらずだった。

「おお! これで私の仮説は立証されたね。典史はオーエネルギーで変身したの。そして、そのエネルギーは、物質に何らかの変性をもたらす力を持ってるのよ。そこの犬っころが人間になったり犬になったりするのも、多分中に埋め込まれたっていうプレートが持つオーエネルギーによるものよ」

「また犬っころと言ったな……が、そんなことがどうでも良くなるほどに、お前の話は興味を引かれる。それは……おそらく、私の伝え聞いた原理の力だ……」

 ミハエルはじっと変貌してしまった機材を見つめる。笹倉はおもむろに扉を開き、電源装置をそっと撫でる。

「物質に変性をもたらすエネルギーか……これの応用が出来れば、科学界に革命が起きてしまうかもしれないねぇ……」

 笹倉は真剣な顔で電源装置に手を伸ばし、金属化した外装の一片を剥ぎ取った。僅かに犬の顔が歪む。

「なあ、そろそろ元に戻ってもいい?」

「うん。もういいよ!」

 典史はプレートを篭手から引き剥がす。典史が元の人間に戻る。それと同時に電源装置が光り出し、元通りの姿に戻ってしまった。

「お……これは」

 しかし、その手にある金属はそのままである。笹倉はそれを見つめながら呟いた。

「これを応用して、色々なシステムが構築できないものか。さて……」


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