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進化する翼レグナ  作者: 影絵企鵝
九章 OO
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前編

 身を刺すような秋雨が降りしきる中、典史と衛士はバイクで道路を疾駆していた。今朝方いきなり助けを求める声が典史の耳に響いたのである。ハヤブサに跨る典史は、後ろを走るサイドカー付きの白バイを一瞥して尋ねた。

「衛士! もっとスピード出していいか?」

「……一瞬待て」

 衛士はアクセルをさらに回し、典史を追い抜いた。サイレンの音を聞いた車は路肩へと避ける。

「これなら大丈夫だ。行くぞ」

 二人は車の間をすり抜け、猛然と道路を走り抜けていった。


 その頃、市街地の中心にある公園では二体の魚の怪物、そして数体のネズミが暴れていた。通行の激しい朝を襲われた人々は、その場を離れることも出来ず、這々の体で近くの建物に逃れていた。

「イビルオットナウ、イ!」

 逃げ遅れた人々に鱗に包まれた怪人が襲い掛かる。その手で押さえつけると、大きく裂けたその口で首元に噛み付き、切り裂く。

「ギギィ……」

 さらに、ネズミ型の怪人も逃げようとする人々を捕まえ、その背を切り裂く。そしてその前歯を心臓に突き刺すのだ。

「あぁ……」

 人々はそんな無残な光景を見つめ、息を呑む。鬱々とした陰惨な景色が目の前に広がる。そんな時、人々は都市伝説を信じ、祈るのだ。圧倒的な暴力に突如現れ立ち向かう、正義の存在

の登場を。

「このっ!」

 魚が車の中の人を引きずり出そうとしたまさにその時、その頭が何者かに掴まれ、道路に叩きつけられた。人々はハッとしてその白い影を凝視する。そこにいたのは、兜の奥で青い眼を光らせる、正義の味方の姿だった。

 典史は魚を手で持ち上げると、その腹に鋭いストレートを食らわせて吹き飛ばす。そして街路樹にその右手を伸ばすと、緑のプレートを手に取り、典史は全身を分厚い緑の鎧に包まれた戦士へと変貌を遂げる。

「水には草だってな!」

 典史は叫ぶと、茨を伸ばして魚を縛り付ける。典史は黄色の目を鋭く光らせると、魚を一気に引き寄せた。腰から手斧を抜くと、その肩に一撃を見舞う。しかし、その硬い鱗に阻まれ刃が通らない。

「何っ」

 魚はその巨大な目を光らせ、典史の腹を蹴りつける。こちらも厚い鎧で弾くが、魚は茨の拘束を逃れてしまう。

「くそっ……」


 一方、衛士は細身な魚の怪物と向かい合っていた。

『行けっ! 頑張れっ!』

『うるさいよ、倫香くん。最初に火力を集中するんだ。今の君の武装では、あの固そうな鱗を破るにはそれしか無い』

「了解です。ならば……」

 衛士はバイクからバズーカを取り出し、突っ込んできた魚の腹に撃ちこむ。爆発とともに魚は吹き飛ぶ。腹の鱗が剥がれ、肉が顕になる。しかし、未だ魚は戦意を見せ続ける。

「まだ止めは早いか……」

 衛士はアサルトライフルを取り出すと、飛びかかってきた魚に弾丸を浴びせる。しかし、弾丸は通用せず、衛士は魚に組み付かれてしまった。衛士は銃身で突き飛ばし、拳銃を引き抜いて腹に数発撃ちこむ。魚は苦しみ、エラを震わせる。衛士は機械の短剣を抜くと、魚に向かって駆け出した。


 そして、鎧を纏う獣へと変身したミハエルは、爪を剥き出しにして周囲で暴れるネズミへと襲いかかっていた。

「覚悟せよ!」

 歯を剥き出して野生に猛り、ミハエルはその爪でネズミの身体を切り裂いていく。心臓を突き破られ、プレートを抜き取られたネズミは砂へと還っていく。

「キィッ!」

 悲鳴のように高い叫びを上げながら、ネズミは突如現れた猛獣を押さえようと群れをなして襲い掛かる。ミハエルは彼らのそんな姿を睨み、全身でその体当たりを受け止める。

「……お前達も未練を持つか。しかし、その未練を人に向けるなら! 衛士殿の敵として、私が敵として! お前達を成敗する!」

 ミハエルは叫ぶと、その爪を振り回し、ネズミの首を掻き切り、さらに胸を引き裂き、そこからプレートを抜き取っていく。

「恨まば恨め……」


 衛士は短剣で鱗を引っ掛け、剥がしていく。血が滴り、魚は悲鳴を上げた。しかし衛士は眉根すら動かさずにその傷口に向かって剣を突き刺した。

「グギッ……」

 血が噴き出し、衛士の顔にも飛び散る。しかし彼は動じること無く怪人の身体を切り裂く。そうしてふらふらになった怪物の身体に引き抜いた爆弾を突き刺し、ピンを抜き取る。

「……これで終わりだ」

 途端に怪人は吹き飛び、プレートが宙を舞った。


 典史は蒸気を上げながら魚を睨みつけていた。その右拳を、両足を青白く光らせ、一気に駆け出す。

「切り裂くことが出来ないってんなら!」

 魚は腕の鰭を広げ、典史の鋭い拳打を受け止める。しかし、その拳は青い炎に包まれ、魚の鰭を焼き尽くそうとする。

「グッ……!」

 魚は燃え上がった腕を見て呻き、慌てて地面を転がり火を消そうとする。その隙を逃さず、典史は魚に燃える右足を叩き込む。魚は飛び上がり、もがいた。

「止めだ!」

 典史は右手を白く輝かせ、立ち上がろうとした魚の胸に叩き込んだ。魚はもんどり打って道路を吹っ飛んでいく。その間に鱗の隙間から光が溢れだす。

「レグナ……レグナァア!」

 公園の噴水に叩き付けられ、魚はそのまま爆炎に飲まれる。その姿を、典史はじっと見つめていた。


「終わったか」

 典史が立ち昇る黒煙を見つめて思考にふけっていると、ヘルメットを外した衛士がやってきた。典史は頷き、腕組みして呟く。

「ああ。……最近どうなってるんだろうな。一気に怪物が増えてる……」

「素体となる人体が潤沢に供給されているからだろう。怪物が暴れることで死者が出る。その死者に核となる動物の魂が溶けこむことで、こうして蘇るのだ」

 ミハエルが典史の疑問を引き受ける。それを聞いた典史は舌打ちした。拳も自然と握りしめられる。

「悪循環ってことか。……やっぱり、被害が発生する前に怪物を捉えるか、そもそも怪物を生まないようにするか……」

「なら黒幕を探すしかないだろう」

 ミハエルは呟いた。彼は目を閉じ、彼が正気を取り戻した時に響いた声を思い出す。低く、厳かな雰囲気を漂わせる声だった。

「『原理の力に目覚め、神に従え……』。頭の中でそう声が響いた。ただ、私にとって神とは衛士殿を始めとする、私を愛してくださった方々である以上、ぽっと出た神に従う気など毛頭なかったのだ」

「お前の飼い主で良かった。ミハエル」

 じっと見つめるミハエルに向かって衛士が微笑んでやると、ミハエルは鎧の奥の目を輝かせ、軽く尻尾を振った。

「私もです、衛士殿。……ともかく、私は人に付くことを選び、人の頭脳によって思考し、ここに立つことを選んだ。しかし、私に翻意を促した声があった。それは紛うことなき事実。おそらくその声の主こそが、私を、そして他にも大勢の生き物を化生の者として蘇らせた黒幕だ」

「黒幕か……一気にきな臭い話になってきたな……」

 典史は呟くと、左手の篭手を見つめる。真紅に染め抜かれた篭手は、暗い空の下で鈍く陰鬱に輝いていた。


 その時、ビルの屋上から彼らを見下ろす影があった。ローブの男である。彼はフードの影から覗く赤い目でレグナを見下ろし、低い声で呟いた。

「フフフ……天使よ……」

 雲間から光が差し、ローブの男に当たる。男の身体は薄れゆき、光の中へと消えていった。


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