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進化する翼レグナ  作者: 影絵企鵝
六章 仲間
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後編


 典史がビルの地下室に戻ってみると、笹倉と冴子が猪のプレートを見て首を傾げていた。

「どうしたんですか?」

「うん……プレートの二枚目が手に入ったから色々と化学的性質を調べる実験をしてみたんだけどねえ……色々ととんでもない結果が出てきて参ってるんだよ」

「とんでもない結果?」

 典史は頭を掻きながら笹倉に手渡されたメモに目を通していく。その目はみるみるうちに大きくなっていった。

「何々? 王水に溶けない、ダイヤモンドカッターで削れない、展性延性が見られない。耐熱性は少なくともイリジウムより上……少なくとも? どういうことですか」

「どういうことも何もない。そのまんまだよ。耐熱性に関しては一応調べる余地がまだあるけれども……ヘタすると現存する工具でこの金属を加工出来ない、なんてオチが待ってるよ」

 典史は机の上のプレートを手に取り、まじまじと見つめる。凶暴な猪を描き出すそのレリーフとそれを囲む金字の彫刻は、機械などでは生み出せない精緻さがある。

「じゃあ……この加工品はどう説明するんです」

「そこが問題なの。何も受け付けない。まるで変わることを拒んでるかのようなこの金属をどう加工したのか。そしてこれがどうしてあの怪物の身体に入っていたのか、ってとこがさらに大きな問題なの」

「ふうん……」

 冴子の話を聞きながら、典史は左手を突き出して念じる。すると、赤い光に包まれ篭手が姿を現した。右手を天井に突き上げると、例のごとくプレートも発生する。

「もしかしたら、こういうことなのかもしれないですね」

「……レグナに変身する際生み出されるプレートと、今この目の前にあるプレートには共通点があるんじゃないか、と?」

「ええ。前に戦った怪物が言っていたんですよ。『自分は人間だ』って。……もしかしたら、外部からそのプレートを体内に組み込まれることで、人間が化け物に変身してしまうのかもしれません。僕がレグナに変身するように」

「なるほど……興味深い仮説だねえ。ちょっと見せてくれないかな」

 典史の話を深々と頷きながら聞き、笹倉は天使が描かれたプレートを手に取ろうとする。しかし、典史がそのプレートから手を離した瞬間、プレートは光にまかれて消えてしまった。

「あっ! 消えた……」

「好き勝手に変身できるようにはなったんですけど、相変わらずそういう点は融通が利かないみたいです」

 そう言いながら篭手を外すと、これまた赤い光となって虚空へ消えてしまった。その様子を見て笹倉は唸る。

「うーん、残念。それの詳細を調べられれば、もっと色々な事が分かりそうなのに……このプレートが持つエネルギーの正体とか……」

「まあ、気長に行きましょうよ」

「そうだねえ」

 その時、基地のドアが開いて仏頂面の衛士が現れた。機動隊の隊服が相変わらずの威圧感である。

「只今帰参しました。重傷者は数名出ておりますが、死者は今回出なかったようです」

「おお。そうか。これは大きな成果と言えるね」

「はい。……では私はトレーニング室におりますので、用があればお呼びください」

 そう言うと、衛士はそのまま隣の部屋に篭ってしまった。一度も表情が変わらなかったその様子に、典史は顔をしかめる。

「んだよ。愛想ねえ野郎だな」

「それでも頼りになる。愚直なまでに誠実な男だよ、彼は」

「確かに悪い奴じゃないんでしょうが……」

 しばらく唸っていたかと思うと、やがて典史は笹倉に尋ねた。

「そこってトレーニングルームなんですよね。使ってもいいですか?」

「ああ、構わないとも。でもまずは私達の話が一段落してからにしてもらおうかな」

「はい」


「もしもし、ミハエルの事か?」

『そうよ。今朝からずっと苦しそうに唸ってるのよ。そろそろお迎えが来るのかしらねえ……』

 携帯越しに少々年老いた女性の声を聞きながら、衛士は溜め息をついた。

「……そうか。あいつもいい加減歳だからな。とりあえず週末には帰る。俺が帰ってくるまでは死ぬなって言っといてくれ」

『でも、何だか今日が山かもしれない感じよ』

「ミハエルならやってくれる。ちゃんと声をかけ続けてやってくれ。最後会えないのはいくら何でも辛い」

『分かったわ』

 電話はそこで切れた。衛士は溜め息をつき、携帯の待受画面に映るシェパードを見つめる。凛々しいながらも愛嬌のある顔立ちだ。再び衛士が溜め息をついた時、いきなり携帯に影が差した。

「へえ、シェパードか。飼ってんの?」

「なっ! お、お前は!」

 衛士は飛び上がらんばかりに驚き、慌てて振り返った。そこには、衛士の態度に面食らった様子の典史が立っていた。

「何だよ。人を化け物みたいに……それ飼ってる犬か?」

「……実家の犬だ。それがどうかしたのか」

「いや、お前って結構怖い顔してるからさ。犬の写真を携帯の待受けにするなんて、意外だと思って」

「余計な世話だ。誰が何を好こうと勝手だろう」

 衛士は静かに噛み付くと、黙ってベンチプレスを始めてしまった。その様子を見つめながら、典史はバツが悪そうに肩を竦める。

「はいはい。そりゃあごもっともな話で……」


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