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第五戦

「ダメだ、ダメだ」


 王様は首を横に振る。


 何がダメなのかというと去年の春に奪われたジブニエス領の奪還の為に西伐軍を立ち上げる話のことである。


 「今は軍備に予算を割く余裕は無いんだ」


 王様はずっとこの言葉を繰り返すばかりで一向に話が進まない。


 「そんな事はありません。実際に去年の敵方の奇襲作戦で失ったのは攻略された三つの城とそこの兵たちです。この本国に残していた本隊は全くの無傷。それを一年も出撃命令を出さず、逆に止めて何をするつもりなのですか?」


 アリカは半ばキレながら王様に喰らいつく。もう我慢の限界のようだ。


 僕はアリカの後ろでヒヤヒヤしながら、アニキはニタニタしながら様子を伺っていた。


 実際には話を通す必要は無いとアリカは言っていた。なんせあの王様だ。


戦は国の大事であるとは言うものの、敵の橋頭堡にされた自分たちの城に敵の戦力が集まりだしているのに先手も打たずにただ眺めているのは凡愚のすることだ。


 「……兄上はどうしても私の言葉を聞いてくれないのですね?」


 「僕はお前の事を考えてこう言っているんだ」


 二人共もはや主と家臣の立場を忘れている。そろそろ頃合だろう……


 「アニキ、お願いします」


 僕は隣の兄貴にそう言って手はず通りに行動を起こしてもらおうと……あれ?


 「アニキ?」


 僕の隣にいるはずのアニキがいなくなっていた。何処に?そんな考えが過ったのも束の間だった。


 「お前いい加減にしろよ?」


 アニキは玉座に剣を突き刺していた。刃は王様の首近くスレスレを通り、王様を威嚇する。よく目にする光景だ。あの…………


 「調子こいてると全裸で縛り上げたあと街に放り出すぞ?」


 チンピラの脅しだ。いつもアニキがやってみたいと言っていたアレだ。アニキはいつも脅す前に殴るからな……


 「アニキ、手筈が違う……」


 「俺はなんと言われようと出陣する。てめぇの指図を受ける義理はねぇからな」


 そう言って唾を吐き捨ててアニキは僕らの横を通り過ぎて玉座の間から出て行った。


 後に残された僕らは微妙な空気が流れた。なんせ、王様はビビってるし、衛兵は反応できないし、アリカは口を開けて真っ白になっているんだから。


 僕は僕でこの状況を整理しながらどうすればいいか考えるので精一杯だ。


 「……とにかく、聖剣の担い手として僕も国の為に戦います。必ずや戦果を上げ、国王様のお役に立つことをお約束します」


 僕はそう言って一礼するとアリカの肩を叩いた。それでようやく正気を取り戻したのか一礼して玉座の間を後にした。




 「……遅かったな」


 玉座の間から出るとすぐそこにアニキの姿が合った。


 「あんた、段取りと違うじゃない!?」


 「そうか?大体あんな感じだったろ?」


 「そうだけどあそこまで過激じゃなかったよ、アニキ」


 僕とアリカは肩を落としながらそう呟く。


 「いや、カッとしてさ……もうスッキリだぜ?」


 「そうでしょうね!!こちとら心臓バクバクしすぎて落ち着いて話すことができねぇよ」


 僕はそう叫ぶがアニキは悪びれた感じがしない。


 「まあ、いい。取り敢えずこれで我々が戦場に行くという事を国王に認知させることができた。敵の橋頭堡を砕き、逆にこちらの橋頭堡を確保する事ができるかもしれない。そうやって勝っていけば無能な王様の力を借りれなくとも、民衆を味方につけることができる」


 アリカはそう言いて握りこぶしを握った。


 そう簡単に事が運ばないとは思うものの、叶わないシミュレーションをするよりも叶えられるとシミュレーションした方が成功確率が上がるに違いない。


 「そうですね。本番はここからですよ、アニキ」


 「は、当たり前だ。俺様の舞台がようやくらしくなってきた」



 

 それから一週間後、僕らは作戦行動を開始した。




 「まずは鉱山採掘地付近のハンデル城を奪還するわ」


 アリカは最初の作戦目標をそう伝えた。


 鉱山採掘地。ジブニエス王国の正式な作戦行動ではない以上、僕たちは武器の調達から、食料の調達、人員の確保などを全て自分たちでこなさなければならない。その中でも深刻なのは食料だがそこはとにかく現地調達に頼るしかない。次に問題なのは武器だ。


 武器は材料の鉄が手に入らなければ作ることが出来ない。これも現地調達……とは流石にいかない。なんせ相手も戦争をする為に軍備を整えているのだ。彼らを撤退に追い込んでも、武器を置いていってくれるとは限らない。


 そこで鉱山を最初に取り戻そうというのがアリカの作戦だった。


 「やっぱりメインはカルロ君の聖剣で火力で押していく感じかな」


 アリカはそう言う。でも……


 「出力は出せるけど肝心の扱い方は僕素人も同然なんだけど……」


 僕は自分の戦闘レベルについてそう伝える。


 「そうだな。カルロはまだスペックだよりの自称最強設定主人公みたいなもんだ。俺でも勝てる」


 アニキはそう言ってうんうんと頷く。確かに初めは勝てていたのに最近の訓練じゃ全く刃がたたない。


 「それに敵さんがもし、大規模な作戦準備をしているんなら、準備が出来ていない時期に攻めてきた俺らに正面から野戦を仕掛けてくるとは思えない」


 アニキは腕を組んでそう言った。アニキがなんかアニキじゃないみたいだ。


 「すごいわ。あなたがそんなまともなことを言うなんて……」

 アリカも相当驚いているのかついつい本音をこぼしてしまっている。

 「でも、確かにその通りだわ。それに防衛は消極的な作戦行動ではあるけども最も効率的な作戦行動。相手に大してこちらが不利になるのは必至ね」


 僕らは意気消沈した。あれ?僕らは勝算がないのに出てきたの?


 「アリカにとっての勝算はカルロだったということか……」


 アニキは僕の疑問を読んだようにそう言っていた。アリカはそれに同意するように俯いている。


 「でも、確かにカルロが勝算なのは間違いない」


 アニキは胸を張ってそう言った。


 「どういうこと?」


 「カルロは戦闘技術は全くついていないが、出力……力だけならとんでもないものが出せる。それを使うのさ」


 アニキはニタリと笑った。これはまたロクでもないことをやらかし……


 「甲羅に篭った亀は甲羅ごと踏み潰せば殺せるんだぜ」


 「は?」


 「だから、城にこもってる奴は城ごと潰せば解決だ」


 ガハハと笑うアニキに口を開けたままの僕ら二人はお互いの顔を見つめ合いながらどういうことを言っているのか言葉を吟味していた。


 「ここの城はもう落ちたな」


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