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第四戦

 あれから一ヶ月が経った。


 僕らは基本的な教育から始める事になっていた。


 そもそも、「自分たちの住んでいる国がなんという国なのか?」というところから分かっていなかった僕らは、アリカの連れてきた「ステキなマダム」の指導の下に必要最低限の教育を受けた。まさか本当に一ヶ月で終わるとは思っていなかったが、言えることはただ一つ……もう二度とマダムの教育は受けたくない

 なんせあのアニキが大人しく教育を受けることになるほどなのだから。


 「……やっと終わった」


 「長い道のりだったぜ……」


 僕らはそう零しながら市場を歩いている。


 「まあまあ、今日は難しいこと考えなくていいから楽しんで」


 アリカがそう言って僕らの背中を押して急がせた。


 「……取り敢えず飯だな。アリカ、美味い飯屋を紹介してくれよ」


 アニキは一気にいつもの状態に戻ってしまった。しかも自分の上司を呼び捨てとは……流石だ。


 「飯やって……一ヶ月もここに住んでるんだからそれくらい自分で見つけてるんじゃないの?」


 「えーと……あの……」


 「…………なかったんだよ」


 僕は恐怖の記憶から言いよどみ、アニキはボソボソと呟いていた。

 「へ?何?聞こえない」


 

 「外出なんざしてねぇんだよ!!」



 アニキがブチ切れた。


 その大声はとてつもなく、あたりの露店の店員や通行人の動きが、声が、音が止まるほどに……うん、違う。僕の耳がい聞こえない。


 「…………!!…………!!」


 アニキは口をパクパクさせながら僕の肩を叩く。僕はそれに答えようとするが声が出てるのかどうか分からない。




 「ひどい目に合った……」


 「全くだ。この街に来てからロクな事が起きてねぇ……」


 アニキは僕に賛同して椅子にもたれかかる。


 「いや、ほとんどアニキのせいだぜ?」


 「いいじゃない、命があるんだから」


 「凄い大雑把なフォローですね!?」


 僕の扱いに少し疑問と不満を持ちながら僕は席に着く。


 入ったのはピザ屋だ。アニキが「凄くコッテリしていて、味が濃くて、全体的に体に悪そうな食べ物が食べたい」といったからだ。


 まあ、言い方はともかくとして、あんな質素な食生活を一ヶ月も続けられたのだから僕もアニキの提案に賛成だ。


 「あなたたちこの一ヶ月何してたの?」


 アリカはそう聞いてきた。僕らはそろって「マダムの拷問だ」と答えた。


 「アイツ教育係じゃなくて拷問係だぜ?なんだよあれ……チョーク当てられただけで永眠しそうになったぞ?」


 「そうだよ……夜の就寝なんていつも後ろから手刀入れられて落ちてただけだったよ」


 アニキの愚痴に合わせて僕もボヤく。


 「すごいでしょ。街で苦労して探したのよ?強い教育係」

 「教育係に戦闘力なんていらねぇだろ!?」


 アニキがまともなツッコミを入れる。さっきもそうだが一ヶ月経つと人って成長するんだな……


 「どうした?アホな顔して……」


 「へ?なんでもないっすよ」


 「ほら、料理来たわよ」


 コントをやっているうちにどうやら料理ができたらしく、僕らは息つく暇もないくらいの勢いと速度でピザを平らげる。三、四人前くらいの量を僕とアニキは一枚ずつ平らげていた。我ながら恐るべき食欲だ。


 「もう食べたの?もう少し味わいなさいよ?」


 「飢えていたんだよ……あの、マダムの……」


 「わかったわよ」


 アリカは聞き飽きたと言うように手でアニキの話を制した。


 「まあ、でも訓練お疲れ様。いよいよこれから働いて貰うけど、二人には私の直属部隊に配置して貰うつもりなの」


 アリカはそう言ってナプキンで口を拭く。


 「へ~」


 アニキは全く興味が無いように返事をした。恐らく、いや絶対自分が暴れて食べたい物を食べられればそれでいいと……


 「俺は別にどこだろうが暴れて食えればそれでいい」


 思っていた。


 「……そんな気がしていたわ」


 「でも、なんでわざわざ今言うのですか?」


 僕はそう聞いた。なんせ何処そこの配置だなんだは上が決めて、下はそれに必ず従うのだからもっと簡単に紙にでも書いて貼りだしたり渡したりすれば済むことだ。それをしないのは……


 「実は内密に話しておきたい事があって……」

 アリカは声のトーンを少し抑えて話し始めた。


 今、王位に就いている愚かな自分の兄による国庫の無駄遣い。


 その王を誑かしている毒婦。


 敵軍の最前線拠点への集結など……


 抑えられたトーンと暗い話題に僕らの顔も暗くなっている。


 「私は別にクーデターを起こすのに加担してくれとは言っていない。そもそも、今それをすれば国が滅びるのは確実……」


 「じゃあ、どうしたいんだ?」


 「とにかく敵軍は倒したくて……私の直属だけでも強くしたいのだ。力を貸してくれない?」


 縋るような表情だ。聖剣の力を使える僕をその僕が動く理由であるアニキをどうしても手に入れたいという感情が隠れるのを忘れている。


 「ひとつ聞く。お前は敵を倒してどうしたいんだ?」


 アニキはいつもの勢いに任せた顔ではなくしっかりとした真面目な表情でアリカに聞いた。


 「私はこの国の人を守りたい。自分は王族出身だからその責務がある」


 アリカはそう答えると。真っ直ぐに僕らに目を向けた。


 「アニキ……」


 「わかってるよ。俺は奪わず、いじめず、偽らず。弱きを助けて、強きをボコボコにが信条だからな」


 アニキのその返答に僕はホッとひと安心する。


 「なんとかなりますよ。だって流石にバカ王だって自分の国が滅びることを望んでいるわけじゃないでしょ」


 僕もそう言ってアリカに笑顔を向ける。


 「……そうだといいですけどね」


 その話とともに食事を終えた僕らは何するでもなくその日は一日中街をぶらついた。


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