第三戦
路地を進みながら通りを二本程越えた時、一際大きな道路に出た。
「ここがジブニエス王国首都ガルデンの中央通りよ」
アリカは言って右手を挙げる。すると馬車が一台寄ってきた。
「遅かったですね、元帥。そちらは……?」
「ああ、強盗にあってな。この人たちは……えーと……私の客だ」
近づいて来た馬車の御者がアリカにそう声を掛けて来た。
「強盗ですか!?聖剣は大丈夫だったんですか?」
「ああ、問題ない。このまま城に戻り国王に報告しよう」
アリカはそう言うとようやく僕の腕を話してくれた。
「ここからは馬車で移動しよう。城までは少し距離があるからな」
アリカは慣れたように乗り込んで、こちらに手を差し出してきた。僕はその手を取って乗り込み、アニキは「助けなぞいらん!」と自力で乗り込んだ。
「でも、元帥良いんですか? まだ自分たちは担い手を見つけていないんですよ?」
御者がそう言いながらアリカに顔を寄せて話しかけてきた。
「心配するな。担い手は確保した」
そう言ってアリカがこちらを見る。御者もそれに習ってこちらを見るのでどうしていいのか分からずに取り敢えず笑っておいた。自然にスルーされた。
「とにかく城に急げ。あのバカの使いで私の仕事は山のようにあるんだからな……」
アリカは少し不機嫌にそう言うと椅子に深く腰掛けた。
「よう、アリカさんよ、いい加減どういう要件で俺様たちを連れ回しているのか教えてくれねえか?」
アニキは威圧するようにそう言った。いつもはとても頼もしいんだが、今はなんか偉いかもしれない人相手に滅茶苦茶な喧嘩を売っているような気がして……正直生きた心地がしない。
「ああ、そうだな……」
アリカはなんでも無いようにそう答えると姿勢を正した。
「私はジブニエス王国軍事最高責任者アリカ・グラン・ジブニエス元帥です。今回は王の命令で聖剣の担い手を探しておりました」
そう切り出したアリカ本人はいつもの名乗りと任務内容を言っただけなので疑問はなかったのだろう。しかし、僕らは違う。
(あ、アニキ、軍事最高責任者って言ってますよ?)
(おう、強そうだな!)
(そうじゃなくて、軍事最高責任者ってことは正規軍で一番偉い人ですよ!)
(…………よっしゃ、こいつ倒して俺がトップだ)
「馬鹿だろ、アンタ」
ヒソヒソ話の最中に叫んでいた。
「確かに軍事最高責任者である私がこんな任務に着くのはバカみたいだが、しかし、王の勅命では致し方なく……」
「そうだよな……王様の命令じゃ仕方ないよな。それをバカ呼ばわりとはかわいそうだろ!?謝れカルロ!」
「なんでだよ!?さっきのはアリカさんに言ったんじゃなく、アニキに言ったんだよ」
立ち上がり怒鳴るアニキに僕も立ち上がり負けじと返す。
「あの……大人しくしてください。馬車が壊れますんで……」
「すいません、連れが騒いじゃって……」
御者の言葉にアニキが反応して僕の頭を手で強引に下げて謝罪の姿勢を取った。
「……すみません、アリカさん。続けてください」
「はい、それでは……こほん。ええ、私たちは自国の領土の隅々を探して歩き、聖剣の担い手を探したのですが遂に見つけられませんでした。そうしているうちに盗賊団に目をつけられてしまい、さっき襲われてしまったのです」
そこで話を一旦止めてアリカは聖剣を取り出した。
「この聖剣は担い手でなくては抜くことの叶わぬ強力な宝具です。私では抜くことができませんでした」
そう言って鞘から抜くような素振りを見せる。しかし、剣が抜かれることはない。
「そんなわけねぇだろ。さっきカルロが使ってたじゃねぇか」
アニキはそう言ってアリカの手から聖剣をひったくると剣を抜きにかかる。しかし、剣は少しも抜ける気配がない。数十秒後に大きなため息と共に聖剣はアリカに返された。
「ですので、聖剣を抜くことのできたカルロさんが聖剣の担い手なのです」
アリカはそう言って聖剣を僕に渡してきた。
柄に手を掛け、鞘から剣を引き抜く。一切の抵抗なく剣は鞘から抜き放たれ、白銀の刃が三人の前に姿を現した。
「お前、知らない間に成長してたんだな」
アニキは感動したようにそんな事を言いながら僕の方をガシガシ叩いてくる。痛い。
「聖剣を抜けるということが何よりの証拠です。お願いします、私たちと共に王の御前まで来てはもらえませんか?」
アリカの真剣な表情を見て少し困りながらアニキにお伺いを立てた。
「よし、行こうぜ。もともと、俺たちは暴れるだけで金が稼げる仕事をする為に来たんだ。これで入隊できるなんて好都合、ご都合じゃねぇか」
アニキはそう言って僕の頭をゴシゴシする。やめてくれ、ハゲるじゃないか……
こうして僕らは当初の目的であった暴れるだけで金の稼げるお仕事、正規軍への入隊が決まった。