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第一戦

「おいカルロ、早くしろ」


 前を行くアニキ、カイスがそう叫んで早く来るように身ぶりで示す。その様子は旅行先ではしゃぐ子供のようで、しかしアニキにはピッタリと合ったそんな感じの姿だった。


 「待ってよ、アニキ。僕らは入門許可証がないから正面からは入れないよ」


 僕は駆け寄りながらアニキにそう言った。


 「なんだと!?それじゃどうやって国の正規軍に入れてもらうんだよ?」


 アニキが眉間に皺を寄せて僕に顔を寄せてくる。


 「だから先ずそれを考えてから行こうって言ったじゃないか!」


 僕は溜め息混じりにそう呟く。しかし、アニキはそんな事は忘れたと言うように鼻歌混じりに望遠鏡を取り出す。直感した。きっとアニキはロクな手段であの街に入る気がないということを……


 「お、カルロ。あそこから入れるみたいだぞ」


 その言葉と共に走り始めた。


 「え?ど……?ま、待って、アニキ!!?」


 何処から、どのように入るのか聞くことも出来ずに僕は着いていく。いや、ホントはもう分かっていたのかもしれない。だって、彼がこういう行動に出るときは必ずロクな事は起こさないのだから……


 「……アニキ……」


 「さあ、急ごうぜ!」


 アニキは枯れ葉や土で隠されていた隠し通路の入口に手をかけてそう促してきた。


 「……これどうやって見つけたんだ?」


 「さっき望遠鏡で見てたら黒ずくめの集団が入っていくのを見たのさ」


 胸を張るアニキ。


 ああ、凄いともさ、アニキ。よくあんな遠くから見て、短時間で場所を記憶して、そして……


 「見張りの仲間を気絶させて街に潜入って……アニキの行動力はとてつもないよ……」


 「褒めったって金が稼げるまでは奢らねえぞ?」


 「密入国なんてしたら稼ぐ前に不味い飯が出てくるよ!?」


 僕はそんな文句を言いながら、思う。ほら、やっぱりね。


 仕方なく僕は急いでアニキの後を追い、隠し通路を進んで行く。


 真っ暗で何も見えないが「こういうとこは大抵一本道になってんだよ」と言って壁伝いに進んで行くことになった。


 ハッキリ言って怖い。「実は誰か後ろに居るんじゃないか?」とか、「横から槍が出てくるんじゃないか?」って……


 一五分くらい歩いた頃、アニキの足が止まった。


 「アニキ?」


 不安になり声をかけてみる。


 「しっ、誰もいないか確認してんだ」


 アニキはそう言って息を潜めた。なるほど梯子に登っているのか……通りで声がいつもよりも上から聞こえてくると思った。


 「よし、どうやら誰もいないみたいだな」


 アニキはそう呟くとゆっくりと天井を持ち上げる。天井は大して高くはなかった。


 「いいぞ、カルロ」


 「うん」


 僕はアニキに引き上げられてその小屋に入った。そこはとても殺風景な場所だった。生活感もなく、倉庫として使われている風でもなく、まるで……

 「まるで、ゴロツキの隠れ家だな……」


 アニキも僕と同じことを思っていたようだ。小屋の中央には大きめのテーブルがあり、そこに地図が一枚広げられていた。どうやらこの街の地図のようだが……


 「こいつは……」


 「どうしたんだ?」


 アニキが紙切れをジッと睨んでいた。

 「なんて書いてあるんだ?」


 アニキは字が読めなかった。


 「……きっと宝のありかですよ、アニキ」


 僕も字が読めなかった。仕方ないんだよ。僕らはゴロツキ性悪少年なんだから……


 「なるほど、じゃあこのバツ印が宝のありかに違いねえ」


 アニキはそう言うと紙切れを投げ捨てて、地図を見だした。


 「……取り敢えずこの赤マルが今の俺たちのいる場所だ。そしてこのバツ印が宝のありかと予想されている場所だ。奴らはきっとこの宝の地図を見つけてこの街に潜入し、この宝を掘り当てる算段だったに違いねえ」


 アニキはそう言って出口と思われる扉に向かっていった。


 「でも、アニキ。これのどれが本当の場所なんだ?」


 「そんなもん、片っ端から掘ってきゃわかるハズだ!」


 アニキはいつもどおりだ。ああ、なんて気楽なアニキなんだろう……バツ印……二〇個あったんだが……


 本日何度目かという溜め息を吐きながら外に出た直後の事だった。


 耳をつんざくような女の悲鳴が聞こえてきた。


 「行くぞ、カルロ」


 「うん」


 アニキは悲鳴の聞こえてきた方向に駆け出した。「奪わず、いじめず、偽らず。弱きを助けて、強きをボコボコに」がアニキの信条だ。ゴロツキの癖にそんな事に拘わるアニキが僕は好きだ。


 悲鳴の聞こえたと思われるところに行くと既に野次馬が出来ていた。


 「悪ぃ、どいてくれ!」


 「す、すいません!」


 アニキと僕は野次馬をかき分けて先に進む。野次馬の先に出てみるとそこには黒ずくめの集団がいた。どうやら問題を起こしているのはこの人たちのようだ。


 「おい、何やってんだ?」


 アニキは極普通にいつも村の仲間に話しかけるように黒ずくめの一人に話しかけた。


 「あ?部外者は黙ってろ、カスが!」


 しかし……いや、やはりというべきだろうか。アニキは相手にして貰えなかった。


 「あ、アニキ、ここは落ちつ……」


 「俺はカスガじゃねぇ!!」


 その叫びと共にアニキは男に蹴りを入れていた。しかも、全くの手加減をしていない蹴りは黒ずくめの分厚い壁に一本の道を作り出していた。


 無事だった黒ずくめの男たちも何が起きたのかわからないというように放心状態になっている。無理もない。なんせいきなり隣の人間が壁に突撃していったのだから……


 「カイス様と呼べ」


 そう言ってさっきの男の頭を見つけると踏みつけてそう言った。アニキ……いつもいじめずの信条だけ守ってないっす……


 やれやれと後に着いて行き、振り返ると全員の視線がこちらに向いていた。


 そんな中に銀の鎧に身を包んだ少女がひとりいた。どうやら連中はこの少女を襲っていると思われる。



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