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夏輝の話を、豪はずっと眉間に皺を寄せて聞いていた。夏輝はできるだけ簡潔に、それでいて迅速に妖怪の話を彼に伝えた。豪は頷きもせず言葉も発さず、ただ夏輝を見て話を聞いていた。
「…そういうわけなんだ。でも、信じるか信じないかはお前次第だ。別に信じなくてもいいし…嘲笑ってもいい」
夏輝が悲痛な思いで目を伏せて言うと、豪は溜息をひとつついた。夏輝は覚悟して、顔を上げた。
「そんな話、信じらんねーよ」
あまりにも予想が当たった答えに、夏輝は何も言えなくなった。これで、終わり、だ。
「お前が言わなきゃな」
「…?」
夏輝の頭に、クエスチョンマークが浮かぶ。彼は今、何を言わんとしているのだろう?
「お前の口から聞かなきゃ、到底信じらんねーよ。けど、お前がそこまでマジな顔して言うってことは、本当なんだろ?」
「豪…」
「夏輝、オレに誓え。今言ったことは本当だと」
夏輝は目を丸くして、頷いた。豪を見て、確かに頷く。
「誓う。嘘じゃない。本当だ」
それを見て、豪は力強く一回頷いた。
「んじゃ、その輩を捕まえねーとな。枢要院とか、小難しい話もあるが、とりあえず、さっきの二人組はハルを襲おうとしてるお前の敵なんだろ?なら、オレがぶっ飛ばしてやる」
夏輝は自分を恥じた。少しでも豪のことを疑った自分を。飛んだ取り越し苦労だったのだ。そういえば、昔からそうだった。昔から、豪の前では何でも取り越し苦労になる。
「よし、そうとなりゃ早速あの女を尾行すんぞ!あの女が書類を持ってんだよな?だったら、捕まえてその書類を出させてやる」
「ああ。もう妖気が大分遠くだ。豪、バイクに乗っていけるか?」
「任せろよ」
二人はすぐに豪のZ1に跨り、公園から出た。そして疾風のごときスピードで駆け抜けた。
「豪!妖気が近い!もうすぐだ!」
「おうよ!」
二人が着いた先は、一件の小さなアパートだった。その一階の部屋にちょうど、先程の女妖怪が入っていくのが見えた。二人は駆け出し、彼女がドアを開けたところでそれを掴んで止めた。
「な、なんですかあなた達…」
先程の英語とは違い、流暢な日本語だった。
「ちーっと話聞かせてくれよ、美人のお姉さん?」
「警察、呼びますよ?」
「なら私達は、枢要院を呼びます」
「…!」
そこで女は、夏輝を鋭い目で睨んだ。しかし夏輝はどんな表情にも屈しない。
「中に入れていただけますね?」
「…いいでしょう」