3-1
「僕は、お前に憧れてたんだ」
「何だよ急に、気持ち悪ぃ」
過去の思い出を一つずつ掘り起こすと、ひどく温かい気持ちになる。それが何故なのか、夏輝はよくわからない。だが、別にわからなくてもいいだろう。この世界には、きっとわからない方がいいこともある。
「だから、あの時お前についていった。自由なお前が、うらやましかったんだ」
「オレは自由なんかじゃない。人間なんて、みんなそうさ。人間である以上、自由なんてないのさ。だからオレは、少しでも他の奴らよりも楽しんでやろうと思って、色々やった。まぁ、効果はあったみたいだな」
「大有りだ」
二人が談笑していると、そこでふと夏輝の肌が何かを感じ取った。間違いない、これは―
「妖気…」
「ん?」
豪は頭の上にクエスチョンマークを浮かべているが、夏輝は彼に構わず周りを窺った。すると、公園の遊具の影に二人の人影が見えた。勿論、あれは人ではなく、妖だ。外見からして男と女、人型の妖怪である。
(この辺りの妖怪じゃない…)
夏輝も春一の元で助手を務めて長い。この周辺の妖怪とは顔見知り程度には見知っている。しかし、彼らは見たことがなかった。夏輝は耳を澄ませて、彼らの会話を聞き取った。
『四季春一の襲撃作戦、大丈夫だろうな?』
『大丈夫よ』
夏輝には驚くべきことが二つあった。一つ目は彼らの会話の中に「四季春一」という自分の師匠の名前が出てきたからだ。そしてもう一つ。彼らの会話は英語で行われていた。ということは、英語圏に棲む妖怪か。
『作戦の書類は隠してあるんだろうな?』
『ちゃんと隠してあるわ』
『釈放されたんだから大丈夫だとは思うが、万が一枢要院がやってきても見つからないようにしとかないとな。あれは見つかったら危険だ。お前はホームジアンなんだから、枢要院の推理の裏をかいてうまく隠しておけよ』
『ええ』
そこで彼らは足早に遊具から離れ、それぞれに散って行った。
「ハルが…襲われる?」
夏輝はつぶやいた。春一は職業上妖怪から恨みを買うことが多い。だが、襲撃事件まで起ころうとは。こうしてはいれない。夏輝はすぐに立ち上がった。
「オイ、夏輝、どうしたんだよ?」
相変わらず状況が飲み込めない豪は、夏輝の腕を掴んで訝しんでいる。
「すまない、少し用事ができた。また、今度」
豪を巻き込むわけにはいかない。夏輝はそう判断し、そこを立ち去ろうとした。しかし、それを簡単に許す豪ではない。腕一本で夏輝の胸倉を掴み上げ、詰め寄った。
「ハルが襲われる、つったな?詳しく聞かせろや、その話ィ…」
「豪…」
夏輝はつばを飲み込んだ。この話をしたら、自分と豪はもう親友ではいられなくなるかもしれない。蔑まれるかもしれない。しかし、背に腹は代えられない。
「わかったよ、豪…。話すよ。妖怪とは、なんなのかを、さ…」