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結果として、豪と夏輝は二週間の謹慎を命じられた。夏輝が保健室で怪我の手当てを受け終わり、家へ帰ろうと駐輪場の前を通ろうとした時だった。
「よう、夏輝」
「七紀」
豪が夏輝に声をかけた。没収されたはずの煙草を再びふかしながら、灰を地面に落とす。豪は夏輝を見ながらにやついている。
「イイ男になったじゃねーかよ、会長」
「うるさい」
ぴしゃりと言う夏輝だが、豪は笑って煙草を指に挟んだ手で頭を掻いた。
「喧嘩、できるんじゃん」
「予定外だ」
「だろうな。何で手ぇ出した?オレがぶっ飛ばしてやったのに」
「ただ、殴られて腹が立った。だからやり返した。それだけだ」
憮然と言い返す夏輝に、豪は大声で笑った。何故笑われるのかわからない夏輝は、眼鏡の奥の目を不快そうに細めた。
「意外と普通の男なんだな、お前も」
「僕は普通の男だ。何を言ってる」
ますます不快そうな表情になる夏輝だったが、顔を歪めると傷が痛むため表情の変化は小さかった。
「お前、楽しーな」
「僕は楽しくない」
豪はひとしきり笑って、親指で自分のバイクの後部座席を差した。
「乗ってけよ。送ってやる」
夏輝は怪訝そうに豪とバイクを見比べた。
「そのバイク、大型だろう?」
「当たり前だろ!お前、Z1知らねーのか?」
「大型バイクの免許が取れるのは十八歳からだが?」
「無免に決まってんだろ」
「七紀、僕を共犯者にする気か?」
その言葉に豪は噴き出して、夏輝の高い肩に腕を回して無理やり肩を組んだ。
「もう共犯だろ。煙草吸うか?」
「吸う訳ないだろ!」
豪を引きはがして、夏輝はその場から立ち去ろうとした。
キュルルルル ブォゥ!!
突然の爆音に、夏輝は驚いて後ろを振り返った。すると、豪がバイクに跨って駐輪場から出る所だった。
「じゃーな、夏輝。また遊ぼーぜ」
夏輝にそう言い残すと、豪はアクセルを捻り、爆音を立てて夏輝の横をすり抜けた。
「七紀ノーヘルッ…!」
注意をしようと試みた夏輝だったが、当の豪はひらひらと左手を振って彼方にいる。夏輝は諦めて、自分の帰路についた。