プロローグ2
これは、春一がチアーと関わった事件の後の話。
「おかえりなさい」
春一が玄関のドアを開けて家の中へ入ると、ちょうど夏輝が自分の部屋から出てくるところだった。
春一は茶髪の髪を立たせて、左サイドに銀色のメッシュを三本入れていた。顔は至って標準的だが、目は垂れていたり鋭く光っていたり、その状況によって変化する。服装は基本的に黒と白、ゴールドとシルバーで構成されており、その左耳の二つのピアスと身につけているシルバーアクセサリーは一見すればヴィジュアル系のバンドメンバーのようにも見える。しかし、彼は別段意識をしているわけではなく、好きな服を好きなように着ているだけだ。大学一年生であり、北神大学という国内最難関の国立大学に通っている。
それに対する夏輝は黒髪で、顔は美を追求したような造形だった。全てが整っており、しかし嫌らしさを感じさせない。爽やかな印象を受ける。様々なバリエーションのYシャツを着こなし、さりげないお洒落も忘れない。春一よりも七歳年上であるが、春一には敬語を使って話している。それは彼が妖関係になると師になるからであり、春一はもうそれに慣れていた。
「ただいまー」
「解決したんですか?」
「誰に言ってんだ。当たり前だろ」
その自信に満ちた笑みに、夏輝は安心して春一と共にダイニングへ行った。
「あー、疲れた」
「そんなに体力を使う依頼だったんですか?」
「いや、事件を解決した後、数珠峠を車で攻めに行ってさ。タイヤと神経すり減らして来たから、疲れた」
「……」
てっきり事件解決のために奔走して疲れているのかと思ったら、その後の余暇をちゃっかり楽しんでいた。夏輝は「お疲れ様でした」と言うのをやめて、ため息を吐き出すことにした。
「疲れたし、腹減ったな。夏、疲れた時は甘いもの、って言うよな?」
「ええ、言いますね」
夏輝は、嫌な予感がした。全く科学的根拠のない勘。しかし、これは良く当たる。春一と生活している内に、自然と身についたものだ。
春一は、夏輝ににっこりとほほ笑んだ。無邪気な笑顔で、年上の女性ならころりと騙されてしまいそうな笑顔である。
「夏、コンビニでケーキ買ってきて」
嫌な予感とは、なぜこうも的中するものなのだろうか。夏輝はため息すら出なくなって、頭を垂れた。
「ハル、自分で行ったらどうなんですか?」
「めんどくさい」
はっきり言う人である。