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夏輝と豪は、かれこれ彼女の部屋を一時間捜索していた。一応許可を得て、様々な場所を探すが、しかし見つからない。
小さなアパートの部屋なので、探すところなど一軒家に比べてそうあるわけではない。しかし、どれだけ探しても、何も見つからないのだ。春一を襲撃する計画を書いた書類。そんなもの、一ページたりともみつからない。
「オイねーちゃん、ある場所言えよ」
「嫌よ」
豪がたまりかねて妖怪に詰め寄る。しかし彼女は全く意に介さず、そっぽを向いてふんと鼻を鳴らした。
「あーもー!かったりぃな!言えってば!」
「言わせてみたら?」
「オレは女に手を上げるほど落ちぶれちゃいねぇんだよ!」
「じゃあ、諦めなさい」
「~ッ!」
何もできず拳を宙で振り回す豪に、彼女は相変わらず冷静だ。
「すごい本ですね…豪、この中にあるかもしれない。少し探そう」
「調べたって」
「一冊一冊調べるんだ」
「マジかよ」
小さなアパートの一室だが、ここには部屋の四分の一を占める本棚が置かれていた。そこには様々な本が置かれていた。多くが洋書で、それは全て英語だった。
「夏輝…オレ、英語見るだけで頭痛くなるんだよ」
「なら頭痛と闘いながら調べてくれればいい」
「んのヤロ…!」
夏輝はさっさと本棚の一番上の列から本を手に取り、調べ始めた。
「シャーロック・ホームズ…。懐かしいな」
「それ、ホームズなのか?英語はさっぱりだぜ」
「それに…すごい、アガサ・クリスティの本が全て揃ってる」
「お前、段々目ぇキラキラしてきてんぞ」
しらけ顔で夏輝を見る豪に、夏輝は一つ咳払いをして居住まいを正した。春一の襲撃計画のことはあるが、しかし読書好きにとってこの空間は嬉しい。
「このシャーロック・ホームズの本…」
「どうした?」
「ホームズの本、全部かなり古いものだ。その割に、ものすごく状態がいい」
「怪しいな」
二人がホームズのシリーズを本棚から抜き出すと、今まで黙っていた妖怪が急に口を開いた。
「ちょっと、ホームズの本は丁重に扱ってよ!私の宝物なの!」
「ねーちゃん、怪しいな~。何でホームズの本になるとそんな血相変えるんだよ?こりゃ、ここに書類があるな」
「私の宝物だと言ったでしょ!アンタたち、その本に傷つけたらただじゃおかないから!」
「おー怖いねぇ。…夏輝?どうした?」
やれやれと肩をすくめる豪は、夏輝を見て彼に声をかけた。夏輝は、本を持ったまま固まっている。
「おーい、夏輝ー?どうしたんだよ」
豪が再度声をかけると、夏輝は急に後ろを向いて妖怪の彼女を睨んだ。
「どこに靴下をしまっていますか?」
「え…」
「おい夏輝、何言ってんだ?」
「そこのカラーボックスの中ですか?教えてください。男に下着を見られるのと、靴下の在り処を話すのと、どっちがいいですか?それとも、靴下の中に何か見られたらまずいものでも?」
不敵に微笑む夏輝に、彼女は唇を噛んで夏輝を睨みつけた。しかし、彼も負けじと睨みつける。
「…その、一番下のボックス」
夏輝が一番下のカラーボックスを引き出すと、何足かの靴下が出てきた。夏輝は一つひとつそれを調べ、ある一足の中から小さい黄色い紙を取り出した。そして、それを豪に見せる。
『四季春一襲撃計画 十二月二十二日 午後八時に数珠公園にて』
「豪、数珠公園だ。時間がない。飛ばしてくれ」




