神業師
初投稿です、読んでいただければ嬉しさで転がります。下手くそだとは思いますがお付き合いください。
昔、昔のことでした。
一組の男と女がいました。
男と女はお互いに好き同士で愛し合っていました。
しかし女は無限に生きることが出来るのに対して、男は有限にしか生きられませんでした。
お互いに永遠に居たかった二人は悩みました。
そこで女は男に永遠に生きることが出来る魔法をかけました。
男は喜び、女のことをより一層愛しました。
しかし女が他の男と一緒にいるところを男は見てしまいました。
男は女に問い詰めました、「あの男はなんだ?」と。
しかし女は答えませんでした。
男は怒ってしまい、女と喧嘩になってしまいました。
男と女の喧嘩はほとんど殺し合いでした、しかし男と女はお互いに死なないため、決着は勿論つきません。
男と女はそのまま別れて――――――
「なんかいい放送してないもんか…」
ラジオのチューニングをいじって周波数をかえる、すると音楽が流れ始める。どうやら音楽番組を拾ったようだ。
まったく、自動でチューニングしてくれるラジオでもを買おうか、長距離の車移動は疲れるし、色々だるい。
しっかしあのくそ上司が、よくもこんな辺境に飛ばしてくれたもんだよ…まったく、“彼女”である可能性がなきゃ行かないっての。
…待てよ、あの上司もしかして断れないの分かってて送りやがったなこん畜生、さっさと片付けて帰るか。
とか何とか言ってたら先の方に建物が見えてきた、多分あそこが目的地の村だろう。
村に着いて直ぐ、自動車の走行音に気付いて村人何人かが現れ、俺の車の周りに群がる。降りれん。
その中から一人の若い女性が現れる、25歳くらいか、若いが気品と知性を感じる。
「あの、貴方が…私たちが依頼した所からから派遣された…」
「はい、化物退治から賞金稼ぎの代理、または傭兵と、戦闘面においての便利屋『神業師派遣機関HUND FANG』のユウジロウと申します」
「フント・ファング…犬の牙、ですか」
「えぇ、私たちは犬です。依頼主から金(餌)さえ貰えれば、私たちは猟犬にでも番犬にでもなる。ただし、餌が頂けない場合は…まあどうでもいいですね」
相変わらずこのキャッチコピーを言うのだけは慣れない、誰だ考えたやつ、出て来い。
しかし…トップは誰だろうか、年老いた人はちらほらいるが、村長という雰囲気ではない。
「あの、この村の長は誰でしょうか?」
「はい、私ですが…」
俺の近くにいた美人が応える。えぇ、さっきの若い女性です。
「大変申し訳にくいのですが…村長は怪物に…後継の方々もやられてしまい、昔豪族の家系であった私が代理を務めさせております」
「成る程、そうですか。では、えっと…なんとお呼びすれば、よろしいでしょうか?」
「私のことは“草子”とお呼びください」
「では草子さん、例の怪物についての情報があれば、教えていただきたいのですが、よろしいでしょうか?」
「はい、では旅館へ案内する間にご説明させていただきます」
「あぁ、それと一緒に頼みたいことがありまして…」
「なんでしょうか?」
車の周りに群がる村人達を一瞥し。
「降りたいんだが…」
道中、“化物”のことを草子に聞いた。
その化物は2m程の大きさで、体躯は細く、姿は人間に酷似しているが獣の耳と尻尾を持つ。長い金色の体毛を持ち、風のように速く走り、怪力を持つ。そしてどんな武器も弾く肉体を持つ、そうだ。
なるほど、これなら化物と呼ぶに相応しい。
だが、彼女じゃあないみたいだ。
一気にやる気無くなったわぁ…まあ、やるけど、これも仕事だ。
大人はしっかりと仕事をするもんだしな。
「此処がユウジロウ様の部屋となります」
「ん、ありがとう。あぁ、道具は適当に部屋に置いといて」
「はい、分かりました」
草子に案内されて旅館の一室に訪れた、言ってもかなり年季の入った感じで犬が吼えただけでも崩れそうなくらいにとオンボロ。
この部屋しかなかったのか、客人をぼろい部屋に泊まらせるのがこの村のしきたりなのか、究明するのは後にしよう。
荷物もちを頼んだ村人達は荷物を丁寧に置いてくれた。言ってなかったがあんまり粗雑に置くと暴発するものが入ってたりするから、丁寧に越したことは無い。
「では我々はこれで、なにかありましたら近くの者へお申し付けください」
「了解しました。エロ本欲しい時にでも呼びつけますんで」
苦笑いしながら草子達は引いていった。さて、仕事道具の手入れでもしますか、化物よりも動作不良が一番怖い。
「…あの、ユウジロウ様、お食事の用意が出来ました。いかがいたしましょうか?」
女性の声が襖の向こうから聞こえてくる。女将か仲居か分からないがそのあたりだろう。
「すみません、食事は…持ってきてください。今から食べますので」
「かしこまりました、では直ぐにお持ちいたします」
とたとたと遠ざかる足音が聞こえる。
食事か…別に取らなくても大丈夫だが、食べておくか。
暫くすると仲居が料理を持ってきた、質素倹約。その四文字が似合いそうななんともちんまりとした料理を、まあなんでもいいけど。
「お待たせ―――――」
仲居の声がいきなり響き渡った警鐘の音でかき消された。カンカンと、火事の様な騒ぎをあたりに響かせる。
「な、何事!?」
仲居がそう言うより早く俺は仕事道具をつかみ、一つは腰に下げ、一つは背中に背負う。
そしてすっかり暗くなった外へと裸足のまま窓を飛び越え赴く、そして腰に下げた仕事道具を引き抜き、安全装置を外し、撃鉄を起こして発射出来切るようにしておく。
銃を下に向け、騒がしい方に向かい走る。途中村人に出会い、こちらだと案内される。
広場に出るとそこは凄まじい騒ぎだった。何人かの村人が手に様々な武器を所持している。
あるものは棒切れ。あるものは野草刈り用の柄の長い鎌。あるものは狩猟用の散弾銃。
振り回し、振り回し、発砲する。
しかし、件の怪物には当たらない、当たるはずもない。滅茶苦茶にふり、撃滅茶苦茶に撃つ。下手な鉄砲数撃ちゃ当たるとは言うが、これはそういう問題ではない。棒を振るよりも、銃を構えて狙いを定めて撃つよりも速く。怪物は走り、人を襲っている。
聞いた通りである。目測で体長2mほど、体躯は細く、人間に酷似した体つきだが獣の耳と尻尾を持つ。金色の体毛を持ち、風のように速く走り、怪力を持つ。
そして―――――目が合った、来る。見た限り大体秒速50m程か、間合いは約70m。十分だ。一秒あれば、ホルスターから引き抜き、安全装置を外し、撃鉄を起こし、構えて撃てる。今は既に抜いて、外して、起こしている。もう構えて撃つだけ。
近づく金色の怪物、見立てでは大の大人すら悠々と吹き飛ばしている腕が肉薄するが、お前が居る位置はもう射程圏内だ。
トリガーを引く、撃鉄が雷管を叩き発射薬に引火、薬莢の中で発射ガスを発生させて、50口径の弾頭を打ち出す。バレルを通り、ライフリングに沿って回転、その間一秒にも満たない。その弾丸が怪物の額目掛けて飛来、そして命中。
のけぞるが、おかしい。頭が吹っ飛ばない。45口径の弾丸は命中部位が吹き飛ぶ威力、50口径はその三倍の威力を誇る。人間の頭なぞ木っ端微塵に破壊できる。だが吹き飛ばない、あまつさえ、脚を動かし重心をずらして踏みとどまった。
「そういや…こいつどんな武器も弾く肉体持ってんだってな…だが」
それでもおかしい、私の弾丸を弾くにはそれなりの技術、“神業”を…やばい、また目が合った。腕を振るう、その際体毛、髪の毛が舞い“怪物”の顔が見えた。
ただその顔は“怪物”には程遠く、まるで若い女性。なんだけど関係ない、振るわれる腕をかわさないと痛い。痛いのは勘弁だ。
腕はただ力任せに振るってるだけ、技術も何も無い。よく見ていればかわせる代物なんだが、流れて当たった民家の壁に穴が空いた。土嚢の壁がまるで障子のようにだ。でも、何度も振らせはしない。
かわしてる間に空の薬室へ弾丸を一発詰め込む。弾頭は銀、銀は古来から吸血鬼や狼男と言った化物や霊的な存在へ多大な効力を発揮する。コイツは取っておき。
「お前の鎧を剥がすにはもってこいだ!」
再び50口径が火を噴く。音速を凌駕した速度で発射された弾丸はまたもや“怪物”額へと吸い込まれるように肉薄し、着弾。
したように見えた、瞬間的に首を捻り弾丸の直撃を避けたのだ。いい反射神経だ。
「………ぐぅぐぐ…」
だが効いてはいるようだ。掠めた部分から出血しているようだ。
「次は殺す…」
そう怪物が呟くと自慢の脚力を生かした跳躍を見せ、そのまま走り去った。
「ユウジロウ様、大丈夫ですか!」
村人の一人がこっちに走ってきた、片手を上げて無事を知らせる。
「さすがユウジロウ様! 見事怪物を追っ払ってくれました!」
「それより怪我人は? 死者は出ていないか?」
「怪我人は多数居ますが、死者は幸い居ません。これもユウジロウ様のおかげです!」
「まあそれはどうでもいい、怪我人の様子を見せてもらえないか?」
「わかりました!こちらです!」
意気揚々と村人に集所へと案内される。そこには棒や鎌や銃を振り回して応戦していた村人達が手当てを受けていた。さながら野戦病院だ。
「おぉ、ユウジロウ様」
怪我人の一人に名前を呼ばれ、その場の全員が振り向く。とりあえず全員無視して近場に居た怪我人の怪我の具合を見てみる。
見立てでは骨折、打撲、擦過傷などなど、あの腕の勢いで骨が折れ、吹き飛んで着地の際に体を打ち、擦りむいたのか…
「いやー今回は軽傷ですよ皆、流石ユウジロウ様!」
「今回は? 今まではどのような被害だったのだ?」
「えぇ、噛み付かれたり、引っかかれたり。酷い場合は…」
「食われたか」
「いえ、連れ去られたのです」
「連れ去られた?」
「はい、しかも若い女子供を狙って…見つかった時には…」
村人の顔色が暗くる、そうとう惨たらしく犯されたのであろう。
「失礼なことを言ってしまったみたいですね」
「いえ、大丈夫です。ユウジロウ様が奴を仕留めてくれればみんなあの世で喜びます」
「そうか、ありがとう。では私は先に部屋に戻るから、何かあったらいつでも呼んでくれ」
「はい、わかりました」
部屋に戻って暫くぐうたらしていると誰か近づく気配がした。
「ユウジロウ様、今よろしいでしょうか?」
「あ、はい、どうぞ」
来たのは草子、時間も時間ではあったが、どうやら夜這いの雰囲気ではない様子。
「どうかしましたか、こんな時間に?」
「はい、ちょっとユウジロウ様とお話をしたくて…」
「お話、なんでしょうか?」
「はい、あの怪物と私のことを…」
「君とあの怪物となにか関係があるのかい?」
「はい…」
話が長かったので要約した。
彼女は150年前にあの怪物を見つけたそうだ。最初から怪物は怪物ではなく、人間らしかったそうだ。
はじめは彼女達と友好だったが、人間から見て20歳くらいの頃に事件が起こった。
怪物が人を襲い始めたのだ。腕を振るい、噛み付き、人を食いだし、暴れ始めた。
あの怪力と超人的な足の速さ、そして鋼のような体の硬さを持つ相手だ、勿論手に負えなくなり、なんとか村総出であの怪物を追い出した。
しかし度々村を訪れ、人を襲っていた。それが150年近く続いていたらしい。
そして何度も何度も私と同じような人物に依頼を頼み、追い返すことに成功したが、仕留めるにはいたらなかったそうだ。
この村も元々は栄えていたそうだが、150年という間怪物のせいで人は減り、流通は辛うじてある程度、今この村があるのが奇跡だ。
そして今に至るそうだ。
「かなり昔から怪物と因縁があったみたいですね」
「そうなんです、ですからユウジロウ様、お願いします…必ずやあの怪物を!」
草子は目尻に涙をためてすがって来た。
草子は綺麗だ、こんな女性に頼られて断る男は居ない。
「わかりました、必ずや私がしとめて見せましょう。だがしかし、あなた150年も生きているんですか?」
とてもそんな風には見えない、だが世の中結構そんなことあるから油断ならない。
「はい、なんせ不不死ですからね」
妖艶に彼女は答える。しかし美人の不老不死か…まるで彼女のようだが今はどうでもいい、今は彼女の期待に応えるように頑張るしかないな。
@@@@@@
さて、夜も明けた。
あちらからこないなら、こっちから仕掛けるか。美女に頼まれたところだし、今日は張り切っていこう。
怪物の住処は美女に聞いた。行くまでの道のりも美女に聞いた。
整備もしっかり出来ている。あとはあいつの頭を吹き飛ばすだけだが…。
「ではユウジロウ様、御武運を」
「あぁ、ありがとう」
朝、朝に村を発ち、森の中に入る。聞いた話では森の中に家屋を作って住んでいるらしい。
怪物なのに家か…にしてもだ。
私の“神業”が効かないのが一番痛い、神業は文字通り神の域に達した技術だ、そんじょそこらの相手では私の弾丸は弾けない。
神業を持つ者は同じ神業で対抗しないと戦いにすらならない。
神業はその持ち主の努力の結晶、同程度かそれ以上の技量がないと神業は防げないし、打倒出来ない。
この世界の努力は努力でしか覆せず、努力は物理法則すら捻じ曲げる。
それが通らないとなると答えは簡単だ。奴も神業を持っていること、それもかなりの技量のだ。
しかしそうなると何の神業だ? それにどうやって神業を身に付けた?
もし相手がただの化物なら、こんなものは身に付けられない、あの時の襲撃で片は付いていた。
そうなると…相手は相当な使い手だ、すぐにかたはつかないだろう。
暫く歩いているとほんのりと硫黄の香がしてきた。近くに温泉でもあるのだろうか…お、民家だ、まさかこれが怪物の家じゃないよな…硫黄の香も此処からか。
こざっぱりししているが廃墟というわけでもない。
手入れも掃除も行き届いている、普通の人間が住んでるみたいだな。此処は怪物の住処じゃないだろう。
念のため周りを探索してみた、家屋の後ろが切り開かれていて畑があり、様々な野菜や野草が栽培されている。
トマトやかぼちゃ、春菊ににらか…旨そう。ん? いくつか骨が埋まっているな…コイツは猪か。
もう一度辺りを散策してみると、離れたところにやはり温泉があった。成る程、温泉目当てか。
しかしおかしいな、道を間違えた感じはないし、教えられた道も土地勘のある人間、しかも150年以上も生きてる存在の情報だ、余程のことがないと迷わない。
仕方ない、引き返すのも億劫だし、此処の住人に聞くか。
「すみません、ちょっといいですか?」
扉をノックしながら住人の所在を調べる。
「はーい、何でしょうか?」
若い女性の声が中から響き、引き戸が開かれる。しかし現れたのは2m近い長身のなにか。長い金髪で顔を隠しているが多分若い女であろう…見覚えがある。
なら話は早い、一発で決める。
速くホルスターから50口径のリボルバーを引き抜き安全装置をはずして撃鉄を起こして相手の額に弾丸をぶち込む。
やはりのけぞるだけだが今はそれでいい。
「いきなり…なんですか!?」
「名湯で湯浴みするついでに化物退治にだけど?」
銃口から出る煙を漫画みたいに息で吹き格好をつける。決まってないな多分。
「はぁ……」
「まあ、美女に頼まれたしな」
なんか凄い気の抜けは返事をされた。
「お前…いや言うまい、おとなしく仕事のために死んでくれ」
俺は再び銃の狙いを怪物の額に定める。
不満そうにしていた怪物が神妙な顔つきをする、同時になにか言いたげだ。
「なにか不満か? 化物」
「いいえ、別に。そんなに戦いたいなら相手になりますよ、今までの勘違いさんみたいに返り討ちにしてあげます…」
腹に一物ありそうな物言いで構えを取る怪物、素人丸出しだが戦いなれているのか、隙が少ない。
「それなりに楽しめそうだな…」
思わず笑みがこぼれる、自分の神業を防ぐほどの神業の持ち主だ、強くないわけが無い。
残りリボルバーの弾は四発、50口径の弾丸は大きく、構造や耐久の関係で五発しか装填できない。
つまり普通のリボルバーよりも大口径な分、一発少ない。
「まあこれで今は十分だ」
どうせ効かないんだ、何発あろうが関係ない。
「そういえばお前、名前はなんだ? 俺はユウジロウだ」
「……クウ、クウだ」
「クウか…いい名前だ」
「…ありがとうございます」
なんだか照れくさそうにしている。まあいいか、戦闘には関係ない。
「来い、化物」
「…いきます!」
クウが腕を振るう。技術も何もないただ力任せの一撃、依然とは比べ物にならない程に速く力強い。今まででは一番いい攻撃をする、だが。
「遅い」
突きつける銃を下げ、右足を左側に引きながら体を大きく半身引き、振り下ろされた腕が通りすぎた瞬間に銃を持った腕を振り上げ、空いた腕に腕を乗せて支えにする。そのまま一発こめかみに向けて発射。
「――――くっ!」
防御も回避も出来る体制ではないため無論直撃するが、それでも衝撃で怯むのみ。確実に急所に命中しているが致命打にはならない。
「ちっ、どんな神業持ってるんだよあいつは。50口径の弾丸だぞ?」
舌打ちをしながら撃鉄を上げる。シリンダーが回り、次弾を撃てるようにセットされる。
「……ぬう」
クウは慎重になっている。何度も攻撃を見切られ、尚且つ攻撃を叩き込まれた。
嫌でも慎重になるだろう、だがそれは野生の獣でも出来る。
「どうした、攻めないのか?」
「攻めたいんですけどね…ちょっと」
相変わらずの素人構えだが、気配りや動き自体は経験則に基づいた動きのようだ。伊達に150年も戦ってはいないようだ。
しかしこれでは日が暮れる。
私は早く帰えりたいんだ、だから。
「なら俺から攻めよう」
残る三発の弾丸を銃口から捻り出す。一発は額に、一発は喉に、一発は左胸に、急所を狙い確実に速く。
しかし。
「―――っ!」
トリガーを引いた刹那の瞬間に、身を屈めるようにしてクウが突進してきた。
意図的に狙っていたのか、それとも天性の勘か分からないが、回避と突進。
防御と攻撃を同時にこなした動き、それも銃相手にだ。一瞬タイミングがずれれば確実に死亡するそれを実践に、ぶっつけ本番で試みたのだ。
相手が素人だろうと達人であろうと関係なく、まさに神業と呼べよう。
そして突き出される腕。死力を尽くしたのか、それとも元々これだけの速さを持っていたのだろうか。段違いに速い、腕はもはや鋭い刃と変わらない。
「見事だな」
だが、別に俺は銃を一挺しか持っていないわけではない。左手をまっすぐ伸ばし、袖の中から小さな銃をレールに沿って飛び出す。
「この前の銀弾頭入りだ、小口径だが脳天に食らえば堪らないだろう?」
驚いた顔をしたクウだが一瞬の内に状況は判断したのか、一気におびえた顔になる。
しかし直進の勢いはすぐには殺せない、左右に避けるのもままならない、その怯えた面に俺は容赦なく銀の弾丸を撃ち込んだ。
かく言う俺も避けれない、その時見えた化物と呼ばれる存在の顔立ちに見惚れ、一瞬だけ避けるということを忘れたからだ。
@@@@@@
「どうじゃろうか、あの若者、怪物を仕留めてくれるであろうか」
「分からないが、しとめてくれないと困る、やつのせいで沢山被害を受けたのだから」
「そうだそうだ、奴は八つ裂きにしても釣りが来る!」
「何人も死人もでた、田畑を荒らされた。生かしてはおけん!」
「そうだ! そうだ!」
「ユウジロウ様…お願いしますよ…」
「しかし、よくおもえばあの化物おかしいとこもあったよな?」
「え?あったっけな、そんなこと?」
「おかしいというか、人を襲う時があれば田畑だけを襲い、時には何もせずに帰っていったり…」
「妙に臆病な時もあったな…なんだったんだろうか?」
「そんなことはどうでもいい、あの化物を仕留められればなんだってよい」
「そうだね…仕留めてくれるといいが…」
「なにを言ってるの!ユウジロウ様は必ず仕留めてくれますわ!」
「そうだな…信じて待とう」
「えぇ」
「うん」
「あぁ…」
@@@@@@
「うー…」
…生きてる? 私、生きてる? まさか夢オチ?
「おい、お前」
「んー?んーーー……………ああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
ぎゃああああああああああああああああ、いやああああああああああああああああああああ!!
夢じゃなくて生きてたけどなんでいるのぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉお!!
「そんなに怖かったか」
「………………」
というかなんで、私生きてるの…確かに撃たれたはずなのに、確か銀の弾丸で頭を…あれ?
「痕が無い…」
外れたのかな? けどあの至近距離で…。
「なあお前」
「な、なんですか…」
びっくとなってしまった、ちょっと気を落ち着けよう…。
「俺に見覚えない?」
ずい、と顔を近づけてくる知らない人。ちょっとドキドキする…怖くて。
「えっと…さっき戦った人?」
正直そこにしか見覚えは無い。前にこんな人とあったことはないけど…。
「えっと…いきなりなんですか?」
「いや、俺は昨日お前にあったんだよ。村の中でな」
「村…ですか? 近くの村にはここ数ヶ月近づいてすらいませんが…」
「本当か?」
近いままだった顔を更に近づけてきた。またドキドキする、やっぱりちょっと怖い。
「そうか…」
顔を離して座り込むユウジロウさん、懐からタバコを取り出して一服している。
「なあお前、姉妹とか双子とかいるのか?」
「え、双子ですか? いませんよ、お母さんから聞いたこともないですし…」
「そうか…失礼」
「え…わ、ちょっと!?」
タバコを銜えたままユウジロウさんが私の顔に手を伸ばしてきた。
そして私の長い前髪を払いのけ、おでこをマジマジと観察してきた。
「あの、えーーーーーーーーーと?」
なにかな、すごく恥ずかしいです。
「…………」
「…………」
何この沈黙、気まずい。
「傷がない…」
「え? 傷ですか」
「あぁ、確かに額を抉ったはずなんだよな…」
なんの話だろう、確かに額に二発、こめかみに一発弾を食らった、しかし触ってみたけど傷なんてないし。
「…うむ」
少し唸ってからユウジロウさんは手をどけた。
「……?」
なんなんでしょうか…本当に。
「そういえばさっきは“勘違いさん”とか言っていたが、なんのことだ?」
「はい、結構前からユウジロウさんみたいに私のことを“化物”っていいながら襲ってくる人が度々来てたんですよ。化物だなんて失礼ですね本当に、ちょっと人と違うだけなのに、本当…失礼ですよね」
私には人間には無い獣の耳と尻尾を持つ。
子供の頃は皆と楽しく遊んでたし、大人たちも優しくしてくれた。
なのに私が大人になった時に急に態度を変えて暴力を振るわれた。
最初は戸惑って、後で怒りがわいて、思い出して悲しくなった。
お母さんは私が十の時に小さい時に死んじゃって、一人でとても心細かった。
私、なにかしたかな…。
ずっと虐めれてきたけど、虐めて来たあの子に綺麗って言われたくて、毎日髪や体の手入れは欠かさなかった。
迫害されて森の中に逃げ込んで、此処に隠居した後も一日だって欠かすことなかった。もう誰かに見せたりするわけでも、もう褒めてほしいわけじゃない。
ただ、ずっと、綺麗で居たかった。
もしかしたら、綺麗でいればあの子が優しくしてくれると思ってた時もあった。
だけど、近づいたら怒鳴られ、叩かれ、化け物とさえ言われた。
なんで? 本当に…私なにかしたか? したなら、謝るから…
「……」
ダメだ、嫌なこと思い出しちゃった。泣いたって…え? 頭になにか、手のひら?
「…まあ、なんだ」
なんですか。
「…事情は分からないが、泣きたいなら泣け。誰も言わないし、俺も聞かないから」
「……―――」
なんで、そんなこと言うの?
「―――ひっぐ…」
そんな優しいこと言われたら
「…うぅ、うあああぁぁあぁぁぁあああああ!!! うああ、あああぁあぁぁぁぁぁぁぁあああ!!!」
泣くしかない、できないじゃない。
「すっきりしたか?」
「…はい、ぐず」
本当に大泣きしてしまった、子供みたいに。だけどなんだかさっぱりした。
「さて、泣き止んで直ぐで悪いんだが、ちょっと協力して欲しいことがある」
「…なんですか?」
目元の涙を拭い去り、手ぬぐいで鼻水を拭く。
「あぁ、お前に複雑に絡み合うことだし、協力させないわけには行かないんだ、これが」
「私に複雑に絡み合うこと?」
なんだろう…妖狐絡みかな?
「…あ、その前に言い忘れてたことがあるのだった」
「なんですか?」
私はちょっと畏まって聞いてみた。
「良い突きだったぜ」
「…はい?」
なんのことですか?
@@@@@@
「ただいま」
「おぉ、ユウジロウ様。皆、ユウジロウ様が帰ってきたぞー」
「ただいま」
「どうでしたかユウジロウ様?仕留められましたか?」
「いや、住処にいませんでした。周辺も探しましたが見つかりません、隠れている感じでもなく…違うところに身を伏せているようです」
「そうですか…」
「そこで提案なんですが、奴をおびき出そうと思うのです」
「おびき出すのですか…いいですけど、どうやってですか?」
「私はこの前あの怪物に銃弾を一発だけ浴びせました、その時の恨みを持っているなら…奴は私を狙ってまた来るはずです」
「つまり、ユウジロウ様自身が囮になると?」
「そういうことです」
「そんな…ユウジロウ様が危険に」
「もともと危険な商売ですし、それにあなた達がやるよりは生き残る可能性は高いです」
「そんなこと…」
「させてくださいお願いします」
「…わかりました、死なないでくださいね?」
「大丈夫です、私は死ににくいですからね」
さてと、腰のリボルバーには鉛の弾丸。背中のショットガンにはスラグ弾。後ろにはミニガン。一応万全の体制だが、まあ必要はあんまり無いんだよな。
村人全員は近くに待機させ、私に何かあった場合すぐ飛び出せるように指示してある。
さて来るか…いや、来ないと困る。むしろ来させる。
音がしたような…来たか? 腰のリボルバーに手を伸ばし、構える。来いよ怪物、牙なんて捨ててかかって来い。
「…後ろか!」
振り向いた瞬間に奴の腕が風を切りながら俺の首に迫る。やばい、これ。流石に首は…。
「…ちっ!」
素早く銃を奴の額に向ける。狙うはヘッドショットの一撃必殺。
撃ち放った弾丸は確実に奴の額を叩くが、貫けずに衝撃を残すのみ。
相手は仰け反るが腕は確実に私の首を大きく抉る。ゴキリと首の骨ごと大半が無くなり、後ろの皮のみで繋がりを持つ。
二、三歩歩いた後、ドサリと倒れる。あぁ、これは流石に死んだかな?
死んだ。
@@@@@@
「……ユウジロウ様?」
我らの勇者の首が怪物のよって抉られた。
「あ…あぁ…」
草子さんがとりみだしている、そういやユウジロウ様のことを慕っていたようですし、相当ショックだったのでしょう。
「いやぁぁぁぁぁあああああああああああ!!!」
「草子さん、落ち着いてください」
「この怪物が!ユウジロウ様の仇!」
草子さんが村人から借りた狩猟用の散弾銃を構えて化物目掛けて撃ち放つ。
一発目は大きくそれて怪物の脇の地面に当たったが大きな銃声と着弾でこちらに注意がそれる。その間にユウジロウ様の死体が膝から折れて倒れる。
怪物がゆっくりとこちらに近づいてくる。草子さんがもう一発散弾を放つ、今度は複数の小さな鉄球が怪物に向かって飛ぶ。
怪物は避ける仕草も見せずに散弾を受けるが鉄球は鉄の壁に当たったように弾かれる。
ユウジロウ様が撃った弾丸のように仰け反らせることも無く、ただただ弾かれる。
「くそ…あれ?」
トリガーを何度も引いているが弾は出ない、それもそのはず。
「草子さん、それは水平二連式のショットガンです。二発撃ったら弾を込めないと」
「そ、そういうことは早く言いな……!?」
そうしている間に怪物が目の前まで近づいていた。下卑た笑みを浮かべながら右腕を振り上げている。
「草子さん!」
「…あ…あぁ…」
ユウジロウ様の血で塗れた右手が私たちの首を狙っている。逃げなければ、避けなけければ、死ぬ。
私は怖くて目を閉じた。怖い、死にたくない、誰か…誰が?
助けて欲しいけど…誰も…いない。
「どぉぉぉおおおおおおおおぉりゃあああああぁぁぁぁぁぁぁぁああああああ!!!!!」
何だこの掛け声?驚いて目をあけてしまった。
怪物が蹴り飛ばされていた、もう一体の怪物に…え?
「え?」
「は?」
な…怪物が2人?何で?
@@@@@@
大体数時間前のことです。
「私の偽者がいる?」
「あぁ、そうじゃないと辻褄が合わない。俺はお前を見たし顔も合わした、あちらも俺を見たし知っている。しかしお前は俺を知らないし、与えたはずの傷も無い。そうなるとお前じゃない誰かがもう一人いるってことになる」
私のおでこを指しながらそう説明する。
ユウジロウさんのことは家で会ったのが始めてだし、勿論傷なんてつけられた覚えなんて無い。ガンガン頭に拳銃撃たれたけど…私は無傷です。
「なんの目的でお前の偽者がいるのかはわからないが…確実にいるな、なにか心あたりはないか?」
「心あたりですか…、特にないですよ」
「本当か? なにもないのか?」
「うーん…。15歳から女の子に冷たくされたかな…」
「…なんじゃそりぁ」
「だ、だって…心あたりって言うから…」
「…いや、待てよ、もしかしたら本当にそれかも知れん」
「えー、自分で言ってなんですけど。それはないかと…」
「――……。……――、……」
何かぶつぶつと言っている。数字…計算かな?
「…うむ、年齢的に考えて違和感はないか」
「あの…なにが分かったのですか?」
「面白そうだから言わない」
「なんなんですか…」
一気に体の力が抜けた、しかも疲れたし。
「…なあお前」
「…はい?」
いきなりなに?
「ちょっと頑張ってみないか?」
…なにを?
そして現在。
「どぉぉぉおおおおおおおおぉりゃあああああぁぁぁぁぁぁぁぁああああああ!!!!!」
必殺きぃぃぃぃっく!
よし、確実に“私の偽者”の顔を捉えて蹴り飛ばした。
なんか村人2人が目を点にして私のこと見てる…かたっぽの女の人はなんか見覚えがある。
「あの…大丈夫ですか?」
「え…えぇ、まぁ」
「はい…大丈夫です」
「よかった…ユウジロウさんから自分がやられた後、おいしいタイミングで出て来いって言われたのですが…無事でよかったです」
とりあえずひと安心、彼らに何かがあったら本当に化物になってしまう。
だけどユウジロウさん、あれ確実に死んでるよね…。
「あの…えっと…あなたとあれはどういう…?」
「あれ?」
そう思い蹴り飛ばした偽者を振り向く。その瞬間に偽者が接近してくる。
「偽者と本物」
私は構えてそいつを待つ、突き入れられる腕を掴み、腕と腰を振るい、相手の突進の勢いも利用し、そのまま後ろに投げ飛ばす。後方にあった家屋にぶつかり、壁を突き破りなかに転げ回る偽者。
「…遅い」
確かに私に似ているが速さはないし、あ、立ち上がったのが穴から見える。
「…チィ」
「私の顔で舌打ちしないでください」
片手を上げて指を第二関節だけクイクイっと動かす、挑発してみました。
偽者は身を屈める、2、3秒後に壁を突き破って突進してきた、今度はしっかりとした走りで速く、そして力強い。
家屋の壁を吹っ飛ばす程の威力と速さ、まともに食らえば一たまりもないが。
「よっと!」
手を返し、相手の顔面を捕まえて勢いを殺す。
勿論片腕に全体重の乗った勢いが襲うが、それでも私の腕は揺るがない。
「ごめん、軽すぎる」
そのまま相手を地面に向かって腕を振るい。
「でりゃあぁぁぁぁぁぁぁ!!」
偽者をそのまま地面に叩きつける、それだけでは収まらず地面に自分の腕ごと埋めてしまう。
「いっちょ上がりっと」
パンパンと手を払い、埋めた偽者を見下ろす。しかし…わたしこんなにいい体してたんだな。ちょっと胸とか触ってみようかな…なんちゃって。
「この化物!」
偽者に軽くやましい気持ちを抱いていたら後方から発砲音と複数の衝撃が背中を襲う。別にどうって事はないけど、いきなり攻撃されていい気分はしない。
振り返るとさっきの女性が猟銃を構えて立っていた。
「皆様! こいつはきっとそいつの仲間ですわ!」
な、なんですと、いきなりこの人はなにを。
「今の奴に攻撃したのもきっと私たちを油断させる罠、作戦ですわ!」
なるほど…ではなくて、なんでそうなるの。
しかしそんなこと言ってる場合ではない、いつの間にか集まっていた村人が肯定の言葉を各々呟きながらこっちに迫ってくる。村人達はどこかに待機していたみたいだ、じゃなければこんな早く集まってくるわけない…。
「もしかして…罠?」
そうとしか考えられない、もしかして私はめられた。
桑や鎌、中には銃を持った人たちが居たりもする。そんな彼らがじりじりと迫ってくる、私を殺そうと迫ってくる。
この時もし、荒々しい発砲音が響かなかったら、私たちは殺しあっていたであろう。
@@@@@@
「…ユウジロウさん?」
そこにはさっき喉を切り裂かれ、絶命したはずの人物が片腕を空に向けて立っていた。なぜ生きてるし。
「ユウジロウ様…さあ、この怪物たちを仕留めてくださいまし」
そういって引く女性、それに釣られて周りの村人達も引いていく。
死んでいた人が生きていた、これは間違いない、私ははめられた。誰の考えかは分からないが、こすずるいことをするもんだ。
悠然と立ち尽くすユウジロウさん、こんな卑怯者を一時でも信じた私が馬鹿だった。この場で打ち倒してしまおう。
「……」
近づくことなく、その場からまったく動かない彼。周りは静かに息を呑んでいる。仕合が始まろうというのを素人ながら肌で感じているのだろう。
そして、私は地を蹴り、飛び出した。
「お前達は実に馬鹿だなー」
そして私はこけた。結構普通に。
「先ずお前」
こけた私は直ぐに顔を上げた、ユウジロウさんが女性を指差していた。
「私…ですか?」
きょとんとした顔で自分を指さす彼女、かなり驚いている様子。
「そうお前、なぜアレとコイツが仲間という結論に至ったのか、過程を小一時間程問いただしたい。くらいにおかしい」
偽者と私を指さしてユウジロウさんは女性に言う。
「そ…それは…」
「まあ、返答には期待していない、多分でたらめかとっさの判断だろう。まったく名演技だなお前」
言い篭る彼女を置いて彼は話を続ける。
「まあ百歩譲ってこいつらが仲間だとしよう。次にお前らだ馬鹿野郎共」
次に村人達に矛先が向かう、いきなり指摘された彼らはいっせいにどよめく。
「なに全員が全員鵜呑みにしてるんだよ、少しは疑問持てっての…集団心理ってこわいなオイ」
やれやれと首を振り、明らかな失望の仕草を見せる。
「最後にお前」
「は、はい!」
油断していた所にびしっと指をさされ、思わずへたり込んでいた体制を正し、正座してしまった。
「罠じゃないことくらい見抜け」
「いや無理ですよそんなの、どう考えても貴方が出てきた時点で罠だって思うでしょ?」
「なぜそう思う?」
「いやなぜって、貴方が出てくるように頼んだのでしょ。貴方が倒れたら、あの怪物に一直線に向かって打ち倒せって」
「って、ことです。分かりましたか、皆さん」
こいつ、私を説明役に使いやがった…。私の説明のせいか村人達が再び騒然となる。
しかし、そうなると…なんで彼女はそんなことを言い出したのか。そんなことを考えていると後方で銃声がした。聞き覚えがある、さっき私へと向けられた猟銃だ。
振り向くと案の定あの女性が猟銃を構えて佇んでいた。顔には振り乱した前髪がかかり、表情は分かりにくいが、怒りに歪んでいたように見える。村人は全員、言葉を失ってただ彼女を見ていた。その銃口の先へと視線を移す、まさかと思っていたが、やっぱりだった。
そこには顔面を数発の鉄球で耕されたユウジロウさんの顔があった。絶命したのか膝から倒れる彼、思わず立ち上がり体を支える。
「そ、草子さん、何を…」
「何を? 聞いていて分からないの? そこの男みたいに言われた見たいに、本当に鈍いわね貴方達」
ユウジロウさんだったものを抱えながら振り返る、わたわたと焦りながら村人が問いているのを冷静に猟銃へと弾を込めながら応える女性。草子という名前らしい。聞き覚えがある。
「まったく、今回は上手くいくと思いましたのに…また失敗ですわ」
憎たらしそうに私を見下し、猟銃を肩に構える草子。
「あの…私になにか恨みでもあるんですか?」
そう、私が対象のこの嫌がらせ、いやもう抹殺計画と言っていい。こんなことして来るんだ、そうとうな事をしてしまったに違いない。
「なにか恨みでもあるんですか? そう、あんたに取っては取るに足らないことなのね。余計に腹が立つわ!」
私の発言が癪に障ったのか、猟銃を私の顔に目掛けて撃ってくる。
「くっ!」
効かないとはいえ流石に顔は怖い。とっさに空いている手で顔を庇い、顔面への直撃を避ける。
「あんたなんか顔がいいだけじゃない、この売春婦が! あんたなんか顔だけよ!」
もう一発、私の顔目掛けて散弾を撃ち放つ。痛くは無いけど、重みがある。彼女の恨みの重みが。
「あんたなんかただの化物よ! 顔がいいだけの化物よ! ふざけないでよ!」
撃ち尽した猟銃で殴りかかってくる。当たってるところは腕だが、狙いは顔だろう。
「あんたさえ居なければ、あの人は私のモノだった! あんたさえ居なければ、私は皆の憧れでいられた! だけどあんたがいたから!」
執拗に顔を狙って猟銃を振り下ろす草子。腕に当たりひしゃげ、割れそうになっても殴るのをやめない。
周りの村人は止めようにも彼女の気迫に押されて何も出来ずにただ見ていた。
死体を抱える私は反撃に出にくく、思うがまま彼女に殴られていた。
「一体何人の男をその顔で魅了したの? いったい何人に抱かれたの? 答えなさいよ! どうせあんたなんかに、私の苦労なんてわからないわよ!」
大きく猟銃を振り上げる草子、このまま思いっきり叩きつける気だろう。それに備えて目をきつく閉じ、腕に力を込める。
だが当然の銃声に私は目を見開いた、目の前には根元から折られた猟銃を構え、騒然とする草子、そして。
「黙って聞いてりゃいい気になりやがって」
私に抱きかかえられて、銃を構えている、死んでいたはずのユウジロウさん。
「あ、貴方なぜ、確かに顔を撃ち抜いたはず…」
「うるせぇ、先ずはコイツを見ろ」
そういってユウジロウさんは立ち上がり、袖の中から小さな銃を取り出す。ってあれは…
「コイツの中には銀弾頭の弾丸が入っている。これは霊的な装甲や存在に対してただいな威力を持つのだが…」
それをおもむろに私に向けてきた。え…まって、それは流石に…。
「だーん」
ひー撃たれた! 自分で銃声言いながら撃たれ…痛くない。
「この通り、コイツは霊的装甲じゃなくて、神業で自分の身を守っている」
自分の脇に転がる、銀の弾丸をつまんで見てみる。見事に潰れていた、まるで硬い金属にぶつかったかのように。
「それがなんなのですか?」
イラついてるのか、顔をしかめ語気を強めてユウジロウさんに言い詰める。
「お前は分かろうとしてないのか? それとも神業がどんなものか知らないのか?」
「舐めないでください、あらゆる達人が持つ神に匹敵する技術、これらは神業でしか覆せず、また神業でしか対抗できない…」
草子さんの声がどんどん小さくなる、わかったのだろう、私が努力していたのを。
「ぐっ…それがどうしたのよ! 何が神業よ、コイツが私にしたこととなんの関係もないじゃない! こいつの顔だけの奴なのにも何にも!」
「コイツの神業はな、“自分のことを綺麗に見せる神業”だ」
「…え?」
ユウジロウさんの突然の告白に、言葉を失う草子。そう、私の…神業ってほどじゃないけど、努力していたことは
「自分自身を綺麗に見せようと、毎日体を磨き」
食生活を整え。
「湯浴みの欠かさず」
髪を梳き。
「適度に運動もしていた」
それを毎日、
「「150年繰り返してきた」」
感極まった私は、思わず声を上げた。調度ユウジロウさんと重なるように。
「…そんなこと、してたの?」
信じられないのか、草子は恐る恐る私に聞いてきた。
「うん、私を虐めたいた、あの時の女の子に、綺麗だねって言われたくて頑張ってたんだ」
「なんで…なんで?」
「だって、草子のほうが綺麗だったんだもん」
思い出した。彼女は私と一緒に遊んでくれて、私を虐めてた張本人であり、今なお美しいままのあの娘。
「私の憧れの女。私ね、草子みたいに綺麗になりたかったんだよ」
綺麗なあの子は私が不細工だから虐めていたのだと思っていて、だから綺麗になろうと頑張った。
「だけどごめんね、本当は、私が綺麗になろうとしてるのが嫌だったんだね、憎たらしかったんだね。私、嫌なことしてたんだね。ごめんね、ごめんね…」
過去を振り返ってみる。嫌なことのほうが沢山あったけど、楽しいこともあった。涙は出ないけど、なんだか悲しくなってきた。
「謝るのは、私よ…150年、逆算したら私が嫉妬して虐めてた時からですわ。成る程、そこから数年。それだけ、それだけ努力をしていれば、私の愛しい人が私ではなくて貴方に振り向いて当然ですわ…」
草子も昔のこと思い出して泣いてるのかな。私も、今泣いてるよ。
「ごめんなさい…ごめんなさい」
「私こそ、酷いことして…ごめんね」
私たちは、150年前からお互いにしてしまった事を懺悔しながら泣いて、謝り続けた。
@@@@@@
さてと、あの女には聞きたいことがあるが。今はこっちが先決みたいだな。
「わざとあの罠にかかってやったんだ。この額の傷の恨み、とっとと晴らさせてもらう」
クウの偽者とともに、彼女達とは離れた場所に今いる。流石にあんなところでドンパチしようとは思わない。コイツも同意見だったらしく、お互いに迷惑にならない場所まで移動した。
「なあ、お前、聞いておきたいんだが、何の神業を持っているんだ?」
純粋に気になった、俺の弾丸を弾くほどの神業。クウの自分を美しく見せようとする神業は、自分に対するありとあらゆる美貌を損ねる対象を拒絶反射し、逆に己の美貌を高めるものは積極的に取り入れる。つまり俺の弾丸や刃物は彼女を傷つけ、美貌を損なわせるものであるため効かず、仮にコラーゲンたっぷりのフカヒレを食べたなら効果は人の美肌効果は人より高く現れる。実に女性らしい神業であったが…。
「俺のか? 俺のは“変装の神業”だ」
「ほう、成る程…」
変装か…つまり身に纏う他人の姿が奴の鎧であり武器か。おおかた、変装した人物の声色、体系、身体能力、それらすべても変装できるのであろう。なんとも便利な神業だ。
「お前、何者だ?」
神業なんてホイホイ会得出来るもんじゃない。神業師は余程のことが無い限り大体国や機関、大きな団体のお抱えとなる。それほどまでに神業というのは得がたく、重宝される。こんなのが野良な訳は無い。
「俺か? 俺は元々ただの妖狐だったが、草子の奴に頼まれてあの女に化けてるだけだ。いい仕事だねこれは、女に化けて、テキトーに暴れてるだけで、衣食住すべてが手に入り、いい女も抱ける」
クウの顔でいやらしく笑う偽者。姿形は真似れても、心までは真似できないもんなんだな。
「しかし、どうやってこの神業を得た」
「あ? こんなの毎日、それも120年近く変装してりゃ勝手に見に着くさ」
「……」
あきれた、こいつ努力してない。
「じゃ、そろそろやろうぜ。さっさとお前をくびり殺して、首を土産に帰らないとな」
「うるせぇ」
腰に吊り下げたリボルバーを引き抜き、撃鉄を起こして引き金を引く。50口径の弾丸が音速を軽く越えて偽者の額に迫り、直撃するが。
「無駄無駄、お前の弾丸なんて屁ほども効かんわ」
相変わらず仰け反っただけでダメージには至らない。再び撃鉄を起こし、次弾を備える。
「頑丈だな、まったく」
「お前には言われたくない。首や顔面に致命傷受け手なぜ生きているのか不思議だが、大方長期的か半永久的に回復系の術でもかけてあるのだろう」
仰け反った体を起こしながら偽者は言う。
「しかし、脳みそを吹き飛ばされて回復出来るかな!」
偽者が抜き手の形を作り、そのまま額目掛けて突き入れてくる。流石変装野郎だ、真似が好きだな。
しかし俺の額を突き破るには遅すぎる。お前が突きをしてる間に体を捻り、突きを避け、開いた懐に入り、お前の顎を撃ち抜けるぞ!
「あぐ!?」
突然顎から走った衝撃に驚きながら仰け反る偽者。そのまま首を腕で押し、相手の左脚を自分の右足でひっかけ、重心の崩れた相手をそのまま倒し。
「これで二回死んだな」
額に一発弾丸をくれてやる。
「…くっ!」
「まあ自分より弱い相手としか戦わず、訓練もしない怠け者に俺は倒せんさ」
倒れた相手を見下し、照準を額に定めて薄ら笑う。侮蔑と嘲笑を込めて笑ってやる。
しかし、なにか弱いもの虐めをしている見たいだな…あんまりいい気分でない。
「立てよ偽者、俺の頭ふっ飛ばすんだろ?」
「こ…の」
ゆらりと両手を下げて立ち上がり、絶世の美貌で睨みつけてくる。
「なめるなあぁぁぁぁああああぁぁ!!!」
右腕を後ろに逸らし、一気に俺の頭を目掛けて一気に突き出す。今までよりも速く、渾身と言える一撃だ。
油断した、一瞬だけ反応が遅れるが、銃を振り上げて腕を叩き落す。
「…払い切れなかったか」
顔面への直撃は避けた、ただその下の胸を鋭く貫いた。
「…ふ、ははは。頭は無理だったが、心臓をぶち抜いてやったぜ」
「みたいだな」
放たれた奴の腕は、胸を突き破り、胸骨を砕き、心臓を破壊し、後方に突き抜けた。これは間違いなく
「致命傷だな、余裕ぶっこいてるからそうなるんだよバーカ!」
突き刺した腕を俺ごと掲げ、ニヤリと笑ってほくそ笑む。しかし痛い痛い、痛くて死にそうだ。
「まあ、狙いはよかったんだが、お前の腕が遅かったな」
「なに言ってやがる、心臓貫かれてなに余裕…まさか?」
「中には何もありませんよ?」
「こいつ…っ!」
偽者は焦ったように空いた左腕を振るう、利き手じゃないぶん威力と速さは落ちるが、それでも人の頭を吹き飛ばすのには十分だ。現に俺の頭が、顎だけ、のこ、残して、なくな。
「く、ふふふふ、あーはははははぁぁ!」
偽者は声高らかに哄笑、仕留めたと、そう喜んでいる様子だ
「流石に頭飛ばしたら…っ!」
だが突然偽者の言葉が詰まる。私の頭を目を見開き凝視する。腕を振るった体制で固まる。まるで人類で初めて鯨を見たように固まる。
嫌な汗を体中から流し、開けっ放しの口からは唾液が垂れ流しになる。
それほどまでに見たことの無い情景がコイツの目の前で繰り広げられている。
それもそうだろう、飛び散った皮膚が、筋肉が、骨が、血液が、脳漿が、眼球が、髪の毛が、まるで時間を巻き戻したかのように本体に戻っていく。
通常ありえない出来事に恐れおののくことも、悲鳴を上げて取り乱すことも忘れて、ただ目を開き見ていた。
あまりに滑稽な様を感覚的に捉えながら、ほとんど空のシリンダーから使える弾丸ごと空の薬莢を排出する。そして二発だけ、銀弾頭の弾丸を詰め込む。
「オイ」
そう一言、偽者に声をかけて私を貫いている右腕の肩近くに銃を添え引き金を絞る。
撃鉄が雷管を叩き、衝撃で雷管が爆発、薬莢内の発射薬に引火し、燃焼ガスを生産、そのガス圧で銀の弾頭を発射。50口径のマグナム弾が、偽者の肉を、骨を、神経を破壊し、腕そのものを喰い千切る。
「え…?」
声と銃声、それでやっと気付いた偽者は右腕にかかっていた重量が無くなっているのに気付く。しかし見るはずの右腕は殺したはずの俺に突き刺さったままだ。
腕が千切れたと認識するまで数秒かかった。
「…あ、うあぁぁぁぁぁぁああああ! あぁぁぁあああああぁぁぁああ!!?」
ようやく状況を理解した瞬間に叫びだしへたり込む、遅れて来た痛みと腕が無くなったという事実、そして。
「腕が、腕が! 俺の腕が! なんで、なんで、なんで、なんでお前の銃が効いてるんだよぉぉ!!」
今まで無敵を誇っていた肉体がいとも簡単に千切れたことが信じられない。だが思い出せよ、ほんの一日前だぜ?
「お前は銀弾丸は防げないんだよ」
「――――――――――!!!」
思い出したか、ようやく。お前と俺の神業は大体同じ位の力量だ。それなら後は単純に相性がモノをいう。お前の変装は予想するに霊的な力で体をコーティングし、それを変化させて他人になり代わっていたのだろう。それならばただの鉛玉は霊的装甲に阻まれて効かず、霊的装甲をぶち抜ける銀弾丸は通用するってわけだ。
しかしこんな怠け者と同等とは…修行が足りんな俺は。
「邪魔だこれ。返す」
胸に突き刺さっていた偽者の腕を引き抜き、そいつに投げ返す。空いた風穴も時間が巻き戻ったかのように塞がっていく。
「お前は…なんなんだ?」
恐怖を感じて顔を引きつらせ、滝のように汗を流しつつ聞いてきた。というか、なんなんだって? こんなものは古今東西、呼び方は決まってるだろう。
「化物に決まってるだろう?」
銃を向けて照準を偽者の額に定める。やっぱり決めはヘッドショットだろ。
今度は素早く状況を理解した偽者は余計に顔を引きつらせ、あまつさえ涙を流し始めた。
「ま、まて、待ってくれ。死にたくない!」
「俺はお前を殺したい」
「や…やめ――――――」
「ブチ殺したい」
無い腕を突き出すクウの偽者の制止を無視して、引き金を絞り、銀の弾頭で頭を木っ端微塵に吹っ飛ばした。
女ってモノは時たま訳が分からないものだ。いつも仲良くしているやつらがいきなり絶交とか言い出したり。仲の悪かった二人組みが急に出来てんじゃないのかってくらいに仲良くなってたりする。
「やっぱりアナタ、前髪を切って顔を出したほうがいいですわ、その方がきっと可愛いわ。そこの人、ハサミを持ってきて頂戴」
「そんな、いいよー草子。私これが気に入ってるのにー」
「だめよ、アナタはもっと可愛くなれるのだから。私がもっと綺麗にさせてあげるますわ」
「もう、草子ってば昔から強引なんだから」
なんじゃこりゃ、さっきまで150年前の恨みーとかで殺そうとしていた女とその標的が仲良く戯れてる。村人はもう慣れてるみたいだが俺ボーゼン。
なんか、さっきの戦いが阿呆らしくなってきた。
「あら、ハサミが通らないわ? なんて硬い髪なの」
「まあ、神業ですから…ちょっと貸してください」
しぶしぶハサミをクウに手渡す。前髪を一総取りハサミを通す。さっきまで鋼線のように切れなかった髪の毛は、まるで絹糸にハサミを通したかのようにするりと切れた。クウの体がこれは自分を美しく見せるのに必要なものだと認識し、ハサミを通したのであろう。
するり、するりと、長くて鬱陶しかった前髪は綺麗に切りそろえられ、クウの美貌が露わとなる。
肌は陶磁器のように白く肌理細やか、唇はほんのり紅く、薄く紅を差したようであり、高く整った鼻筋、大きくアーモンド形の眼に二重のまぶた。それらが見事に調和し彼女の美しさを醸し出している。
身体つきも、バランスがよく、出るべきとこが出て、引っ込むとこは引っ込んでいる。おおよそ2m近い身長を除いて世界中の女性が羨む美貌とプロポーションを持っている。
「あと、胸が要らん」
と、個人的感想を呟いてみる。
草子や村人の若いのや中年やらご老人方が見惚れて、その状態にワタワタと慌ててるクウ達に、あいつの首を土産に近づいていく。
「た・だ・い・ま」
そう声をかけ、元偽者の首を投げ込む。
「「「…………」」」
一同、その投げ込まれた首に注目。そして。
「「「ぎゃあああああああああああああああ!!!」」」
絶叫、まあ、当たり前か。しかし俺が死にながら頑張ってた中、仲良くわきあいあいとしていた報復だ。
まあ、色々あったけど、任務完了です。
@@@@@@
私こと草子の処遇が今、話合われている。化物事件の首謀者である私は、きっと殺されてしまうでしょう。けど、それも仕方ありませんわ、あの娘と村人にあれだけのことしたのですから…。
「草子、こっちに来なさい…」
襖の向こうから呼ばれる、話し合いが終ったみたいです。私は覚悟を決めて、中へと入る。
「草子、君がしたことは大変重い。分かっているかい?」
「はい、わかっています。ですからどのような罰でもお受けする所存です」
ふかぶかと頭を垂れて、私に下る罰を待つ。
「草子、君によって村はかなり寂れてしまった。だから」
「はい」
「君には村を復興させるまで、村に残ってもらう」
「…え?」
どういう、ことなのですか?
「君はなかなかこすずるい、こんな計画を立てれる時点でね。だけどそれは同時に頭がいいということだ。それなら、村を立て直すためにその頭、使ってみないか?」
「あの…しかし」
「君はどんな罰でも受けると言ったね、それは嘘だったのかい?」
「そ、そんなことはございません!」
「なら、頑張りなさい。応援してるよ」
私は深々と頭をさげ、畳に額を擦りつけながら泣いていた。
二日ほど、ユウジロウ様の戦勝を祝って宴会を執り行った。皆久しぶりに宴会であったため、かなりハメをはずしていた。勿論クウも呼んでいる、もう彼女は私たちの仲間だ。
しかしそろそろ帰らないといけないとユウジロウ様が仰ったため、皆で見送ることにした。
「あの…こちらの品でよかったのでしょうか?」
現金を支払う際に、銀はないかと問われたため、村にあるだけの銀を持ってきた。そっちが欲しいとユウジロウ様が申したのですが、私たちが支払う料金より銀の方が安いのです。
「私は犬だが歯牙の無い犬だ、餌よりも牙を所望する。これだけあれば沢山の銀弾丸が作れます」
銀を見て嬉しそうに笑うユウジロウ様。いや、これは悪戯を思いついた子供の笑い方ですわね。
「では、銀も運び込みますわ。みんな、お願い」
村の若い衆に沢山筒のついた銃や木箱を積み込ませる。しかし、あの娘遅いわね。ユウジロウ様が出て行ってしまいますわ。
「草子様、大変です! クウの家にこれが!」
クウを呼びに行かせた若いのが慌てて帰ってきた、何か紙のようなものを手に持っている。
「それはなんですの?」
「置手紙のようです」
若いのにそれを手渡された、内容は。
『私は畑の苗を盗みました、だから出て行きます。ごめんなさい』
なんてバカな娘なのでしょう…。そんなのみんな気になんてしないし、黙っていればいいものを…。
「…あの娘抜きで見送りますわ。あんな馬鹿の娘は知りませんわ!」
本当、なんて馬鹿なの。そんな馬鹿はユウジロウ様を見送るに価しませんわ。
「ではユウジロウ様、お元気で。またお会い出来ることを期待していますわ」
「不老不死なんだろう、なら長い時の中で…あぁ、すっかり忘れていた。最後に聞きたいことがあったんだ」
「なんでございましょうか?」
「その不老不死、どこで手に入れたんだい?」
「これですか? 確か…そう、私が調度25歳の時にですわ。妙な薬売りが来て、美容と健康にいいからと売ってきたのですわ。それからだと思いますわ、歳を取らなくなったのは」
思えば、かなり胡散臭かったような気がしますわ。なぜあんなのから買ったのかしら。
「そうか…ありがとう」
そう言い、ユウジロウ様は車に乗り込む。エンジンをかけて、甲高い音をあたりに響かせる。
「また機会があれば会いましょう」
そのまま、車を走らせる。村人全員が各々別れの言葉を声を告げて見送る。
「えぇ、また機会があればお会いいたしましょう。ユウジロウ様」
その時は、逢い引きへとしゃれ込みたいですわ。
@@@@@@
「…………」
暫く車を飛ばして考える。草子のいうことが嘘じゃないならば、風邪薬を買うような感覚で不老不死の薬を手に入れたと。一国の王や、独裁者が喉から手が出るようなものよ…。
となるとその薬売りは何者なのだろうか。こんな寂れた村にあらわれ、美女を無自覚に不老不死にして、そして去る。不可解すぎるが…俺の前にも不可解なものが現れた。
長い絹のような金髪、細身で2m近い長身を着物で包み、そして特徴的な狐の耳と尾っぽ。何故いるし、しかも風呂敷を背負って、一人前にヒッチハイクなんてしてやがる。
車を走らせ近づき、そのまま追い抜く。そしてアクセル全開! 一気に引き離す!
しかしこのポンコツ言うほど速く走れない、大体時速60kmほどだだ、まあ普通に引き離せ…なにかノックされた。
目線を助手席側に向けると扉を金髪の美少女がノックしている。つーか追いつくなよ、ターボババァかお前は。
しぶしぶ車を止めると、閉め忘れてた扉を開けて助手席に乗り込んでくる。ただ長身のクウは体を丸めている様子。一応長身の人がゆうゆうと入れる設計なんだが、2mは想定してなかったか。
「さー行きましょう」
「降りろよ」
「なんでですかー」
「というか何で来た」
それが気になった。見送りならあの時に済ませるはず。
「旅に出ようかなと」
「一人で行けよ」
「心細いですぅ」
元々鈴を転がしたような流麗な声であったが、その声を猫撫でにしてきた。なんかむかつく。
「言っておくが俺は旅人じゃない、仕事で来たんだよ」
「じゃあ私も仕事します」
「なんでだよ…」
「私、ユウジロウさんの役に立ちたいのです」
そう、彼女は真剣な目をして言って来た。
「恩返しとかなら要らないぞ」
「いえ、ユウジロウと仕事をしたいんです。だめですか?」
「……」
目を見る、顔を見る、表情をみる。真摯に見詰め返すと真摯に見詰め返してくる。真剣みたいだな…。
「まあ、今から引き返すのも面倒だし、一回戻ってから考えても遅くないか」
「それじゃ…」
「役に立たないと分かった瞬間に捨てるからな?」
「はい! 一生懸命がんばります!」
いい返事だ、まあ神業師だ盾くらいにはなるだろう。さてと、ラジオでも聞くか…。
「あの、いくつか質問があるんですが聞いてもいいですか?」
「なんだ?」
チューニングをいじりながら耳を貸す。なかなか合わないな…。
「どうして私の神業が分かったの?」
「あぁ、あれはお前の家の畑だよ。トマトにかぼちゃ、春菊ににら。これらはビタミンC、E。β-カロチンなどが多く含まれ、ビタミンCは美肌効果を持ち、抗酸化作用もあって老化を防止する。さらにビタミンEやβ-カロチンは紫外線予防となる。畑に埋まっていた猪の骨だが、猪の肉には油脂と一緒にコラーゲンも含まれている。極めつけは温泉だ、こいつはかなりの綺麗好きで健康志向。それで健康的かつ綺麗なお前を見たときに、そうなんじゃないかなって思っただけだ」
「よくご存知で…博識なですね」
「常識だよ」
なかなか電波を拾わないな、圏外かここは?
「もう一ついいですか?」
「いいけど、ちょっとタバコ取ってくれ。前の所に入ってるから」
「あ、はい」
クウが前の戸を開けてスペアのタバコを取り出し手渡す。箱から一本タバコを取り口にくわえて吸いながら火をつけ一気に肺を煙で満たす、そのあとウィンドウを開けて煙を吐き、外に追い出す。
「なんだ?」
「あの、草子が黒幕って分かってたんですか?」
「お前の家やら知ってたし、ちょっとは疑っていた。しかし断定は出来なかったから炙り出しにあの作戦を結構したのさ」
「成る程成る程…」
「まあ、あの偽者が俺に対して本当に傷の恨みが無かったら成功しなかったがな」
…本当にまったく電波を拾わないな、マジで圏外か?
「あ、最後に」
「なんだ?」
「“お父さん”って呼んでいいですか?」
「……なんで?」
本当になんで? なんでですかー?
「いや、私お母さんは知ってるけど、お父さんは知らないから…だから…あの…お父さんって、呼んでいいですか?」
顔を真っ赤にして、まるで意中の人に告白したかのように恥ずかしげにこっちを見ている。なんだかこっちまで凄まじく恥ずかしくなってきた…。
「…好きにしろ」
「本当? ありがとう、お父さん!」
「………」
今すぐ捨ててやりたい、かなり恥ずかしい…お。
「お、電波が入った」
「本当? 私ラジオ初めてなんだー」
クウは嬉々とした顔で途切れ途切れに音声の入るラジオを見ている。聞くものだってのに。
昔、昔のことでした。
一組の男と女がいました。
男と女はお互いに好き同士で愛し合っていました。
しかし女は無限に生きることが出来るのに対して、男は有限にしか生きられませんでした。
お互いに永遠に居たかった二人は悩みました。
そこで女は男に永遠に生きられる魔法をかけました。
男は喜び、女のことをより一層愛しました。
しかし女が他の男と一緒にいるところを男は見てしまいました。
男は女に問い詰めました、「あの男はなんだ?」と。
女は中々答えません。
男は怒ってしまい、女と喧嘩になってしまいました。
男と女の喧嘩はほとんど殺し合いでした、しかし男と女はお互いに死なないため、決着は勿論つきません。
男と女はそのまま別れてしまいました。
そして男は不死身で不死の体のままです。
勿論死ぬことは出来ませんので今も生きています。
もしかしたら、その男はあなたの近くにいるかも知れませね。
おわり。




