王妃様の妹
主要人物また登場♪
今回は、少し長めです(^o^)/
小さな手足に、触れれば柔らかそうなふさふさの黒髪、大きな黒目を不安げに揺らす勇者様は、キョロキョロと辺りを見渡し、やがてその瞳に涙を溜め始めた。
「…う、こ、ここ、どこ~~~?……うっ、うぅっ…ひっく、ぐす、ママ、…ママ、……ひっく、ウワーー、ママー。ど、こ…ひっく、に、いる、の~~?」
大臣や神官達がオロオロする中、一番に正気に戻ったのは、やはりヴァルシア陛下だった。
陛下は、すっと、私の脇を通り、わあわあ泣きじゃくる勇者様の側で立て膝を付き、目線を合わせ
「ウワーーー!!」
――ようとしたら、逆にもっと泣かれた。
…あ、陛下、嫌われたな。……というか陛下?泣き止めさせたいなら、その“無表情”では近付いても“無意味”ですよ?ほらほら、怖がられていますよ?
「…王妃。」
げっ、読心術!?心の声聞こえた!?…いつもより一層低くて冷たい美声ですね!陛下!
「…何でしょうか、陛下。」
私は、この三月半で身に付けた王妃の仮面を精一杯に張り付けた。うん、頑張ったわよ。ええ、ええ。…あれ?心なしかちょっと声が震えてない?大丈夫?
「……悪いが、侍女長を呼んで来てもらえないか?その後は部屋で休んでもいい。」
「はい。分かりました。」
…そっと心の中で私が胸を撫で下ろしたのは言うまでもないだろう。
私はその言葉の後、綺麗に一礼して、しずしずとゆっくり歩を進め、神殿を後にした。……ように見せかけて、ちゃっかり、死角から陛下が宰相に会議するので大臣を集めろと言う支持を聞いてから呼びに行った。
えっ?盗み聞き?される方が悪いのよ。それに、陛下もまだまだってことだしね。
後宮で一番広く、豪華な部屋。その扉を開ければ、優雅に頭を下げられた。
「お帰りなさいませ。レオナ様。」
「お帰りなさい。お姉様。」
そして、にっこり笑顔。
「ただいま。カルメ、ティア。」
彼女達は、私の侍女。
カルメは私が城に上がった頃につけられた二つ年下の侍女。ショートカットの茶髪とトパーズ色の目、銀縁眼鏡が特徴的で、性格はとっても真面目。
…愛読書は『侍女の心得』
初めて会った時は怖かった。だって、壁に突っ立ってずっと無言なんだもん。 私としては、そんな事どうでもいいのに!それよりも仲良くなりたいのに!…あの後、必死にカルメを言いくるめたんだっけ。まあ、今も堅い所はあるけど、あの頃よりはだいぶましになった。…あぁ、ここまでくるのは大変だったわ。カルメが純粋で押しに弱くて良かった。
もう一人は、ティア。私の妹。
といっても、血は繋がってないんだけどね。
ティアは今から八年前、――つまり、あの子が七歳、私が十歳の時――に拾った。私が、いつものようにお父様に黙って家を抜け出して、たまたま帰る途中で裏路地から、「うらぁ!!!」とかいう如何にも三下っぽい下卑た声が聞こえたので走ってみれば、大人(男)二人が殴られてぐったりした少女を袋に入れようとしていた。
その日は、前日に雪の積もっていて、真っ白な雪の上に点々と落ちた彼女の血はよく映えていた。
私はそれを見て、一人を背後から一撃。もう一人を急所を思い切り蹴って悶絶させ、近くにいた仲間にそいつ等を預けて気を失った少女を城に連れて帰った。
目を覚ましたあの子に事情を聞いたら、どうやら両親に捨てられ、私と会った時には、行く場所がなくてうろついていた所を奴隷商人に捕まりかけていたらしい。
その時に名前も聞いたんだけど、少女は忘れてしまったみたいでから、私がティアと、名付けた。今でも、あの嬉しそうな笑顔は忘れられない。
私はお父様と相談してティアを傷が治ったら孤児院へ連れて行く事にした。しかし、ティアは何度も孤児院を脱走して私の所へ帰って来た。私もティアと離れるのは嫌だったので、最終的にはお父様に直談判してティアを妹にしてもらった。
ただ、周囲からは、ずいぶん対照的な姉妹だね。と言われているが……。
まずは容姿。
私の髪は癖毛で少し淡い金髪、そして、目は血のような紅。顔立ちは平凡などこにでもいそうな感じ。
ティアは月を思わせるキラキラ光る銀の真っ直ぐな髪(もちろん手触りも最高)、海のような深い青い瞳。私より強い短い金髪にエメラルドの瞳を持つ陛下と負けず劣らずであるの美貌。
次は体つき。
小さい頃は気にしなかったけど、今では凄い事になった。
ティアが……。
全体的にほっそりとした身体に豊満な胸、キュッとくびれたウエスト、形の良いお尻。どこからどう見ても抜群なスタイルだと思う。
おかげでめちゃくちゃモテ、守るのは大変だった。
私は昔と変わらぬまま。前に一度、少年に間違えられたことがある。……つまり、何を言いたいかというと、胸がほぼ“まな板並み”、おまけに“寸胴”ということだ。
だ、だからといって、ティアのこと羨ましくなんて思ってないもんだ!!うぅ。
それから、頭脳も私よりティアの方が長けている。
…他にもまだまだあるけれど、主にこの三点だと私は思う。
まあ、そんな中でも私達の仲は大層良かった。 私が祖国の小国ミリニアから、ここ大国オズスペルの城にあがる時は、自分から「侍女になります。」と言ってついて来てくれた。
我が家は他と比べれば貧乏で田舎、だから当時、侍女なんて一人もいなかった。当然教える者もいなく、お父様は猛反対した。私はお父様がティアを心配して言っているのを知っていたから何も言えなかった。
それでも、ティアの意志は固く、最後まで曲がらず、お父様は渋々ながらも承諾して、心配そうに私達を見送ってくれた。
…それから、お父様は鈍感だから気づいてないけど、私は知っている。
普通、小国の姫が大国の王妃になれる訳がない。
周りはこの婚礼は恋愛結婚だというけれど、実際は違う。…いや、ある意味、恋愛結婚だけど。
ヴァルシア陛下はね、
…ティアが好きなのよ。
ついでにいうと、ティアも陛下が好き。
…まだ自覚ないみたいだけどね。
陛下が近隣の国で結婚相手を探す際にミリニアに訪れ、ちょうど私と陛下が面会してる時、畑仕事から帰り、何も知らずに入って来たティアに一目惚れしたのだ。
本当、あれは見物だったわ。
――“陛下の”白い頬がほんのりピンク色に染まり、瞳に涙が溜まるのは。
…あぁ、落ちたな。と思うと同時に、お前は乙女か!!とツッコまなかった私を誰か褒めて欲しい。
ちなみに、ティアもその時、恋に落ちたわね。それはもう可愛かったわ!!思わず陛下そっちのけで抱きしめたいぐらいに!!!
その後、我に返っり、どうしようかこの状況。と思案してると、空気が全く読めていないお父様がズカズカ入室して来た。それにより、ピンク色の空気は分散。…この時ばかりはお父様の鈍感さが羨ましかったわ。
だけど、ティアは私の妹といっても元は孤児。陛下との身分差は雲泥の差と等しい。だから、ティアの姉である私、少しでもティアの傍へ行きたいから…ついでにティアを守れて一石二鳥。好都合だから、私を選んだ。
証拠?そんなものはない。けれど、態度で分かる。
陛下は、一度たりとも、私を抱いたことはない。――ティアにも、まだちっとも手を出していないみたい。
その所為で影でお飾り王妃と囁かれているが、私はそれでいいと思う。それに、どちらかといえば“お飾り”じゃなくて私は“囮”王妃だしね。
私は別に構わないし、気にしない。
……ただね、ヴァルシア陛下。狸達に言われたって、周りの目も立場も気にせずに、ティアを選んで欲しかった。そんな人、私は認められない。そりゃ、陛下が全面的に悪い訳ではないことは分かってるわよ。まだ、陛下が弱いのも知ってる。でも、私はそうして欲しかった。だからさ、…だからね、陛下。
――今度はティアを選べるように、強くなってください。
「お姉様、午後はこれからどうするんでしか?」
「えっ?……そうねぇ。図書館で本でも借りてくるわ。」
今は、部屋で侍女二人とティータイム中。
「決まっているならば、お取り寄せしましょうか?」
「いいえ。自分で行くわ。」
「お姉様、ちゃんとお供は付けてくださいね。」
「ええ、いくら城内でも、危険ですから。」
ごめんね、それは出来ないよ。
「大丈夫よ、すぐに戻って来るわ。」
心配してくれる二人を見れば、少しだけ罪悪感がする。
でもそれは、仕方がないことだ。私の目的は、本ではないから。
これから私は、会議室へ行く。
本当は、予定がくるっているんです!ティアの話、サクサク済ませるつもりが、意外と長くなって……二分割します(^_^;)