ロボット少女がいる日常(6)
飛鳥は部活動等には属していない。
運動は苦手故に運動部になんて論外であるし、一時期いわゆる“情報部”と微妙にカッコいい名前のいわゆる“パソコン部”に所属していたが、レベルの低さに絶望してあっという間に幽霊部員になってしまった。趣味でフリーソフト開発なども行っている彼からすれば単なる時間の無駄であった。
夕食の準備をしなくてはいけない、という理由もあったのだが、それはもう通用しない。
「あ、おにいちゃーん!」
昇降口を出たところにある中庭のベンチに座っていたネネが、飛鳥の姿を確認して手をブンブン振り回し、駆け寄ってくる。
「今日はスーパーでタイムサービスやるんだよ! 行かないと!」
「んあー、そうだな」
ネネが来る前は、飛鳥がやっていた家事全般を、ネネにほぼ全て取られている。しかし、全部押し付けるのもどうかと思った飛鳥は、せめて買出しくらいは、ということで、二人して学校帰りにスーパーに行くのが日課になっていた。
「お肉が安いんだよ! カレー用に煮込むのがいいね! だけどやっぱり明日に回さない?」
そういえば朝そういう会話をした気がする。ネネにはネネなりのこだわりがあるらしいから、逆らうわけにもいかないし、そもそも別にカレーでなくても飛鳥は全然いいのであるが、ネネはどうやら曲解しているらしい。
「僕は別にどうだっていいよ。でもやっぱり辛いものがいいなあ、久しぶりに。中華?」
「うーん。だけどうちのコンロってIHだから中華は……」
「そこまで本格的にやらなくても。中華風炒め物程度でさ。そもそも中華鍋なんて……」
飛鳥はそこまで言って、言葉を切る。
数歩先に進んだネネは、立ち止まって、背後をじっと見つめている飛鳥の方を見て、首をかしげた。
「どうしたの?」
「……いや、別に。最近なんか見られてる気がしてさ。気持ち悪いんだよ」
今朝もあった、妙な視線。それがどんな類の視線なのかは分からない。
しかし、視界の中に入る、下校中の生徒たちが歩く中庭の風景に異常は見られない。
「気のせい、か……」
「おにいちゃん。何か心の病気なんじゃない? 人に見られているような気がする、っていう症状とかも……」
「まさか。僕は毎日気楽に生きてるよ。ネネがうちに来てくれて、めんどくさいことも全部引き受けてくれるから、ますます気楽に。このままではダメニンゲンニナッテシマウー」
と、飛鳥はそう自虐を言い、バカバカしい、と、両手を肩の高さに挙げて首を振った。
ネネも飛鳥の見ていた方を注視してみるが、変なところは見当たらない。
「行こう。タイムサービス始まるんだろ?」
「あっ。そうだよそうだよ。早く行こう!」
言って。ネネは、飛鳥の手を握り、ツインテールをピョコピョコ揺らして歩き始めた。