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ロボット少女がいる日常(5)

「……きめえ」

「うるせえ」

 始業五分前に飛鳥の隣の自分の席についた月代に邪魔され、飛鳥の一人の時間は終了した。



 数学。古典。音楽。物理。淡々と授業をこなす。ちなみに言うと古典の時間は貴重な睡眠時間である。公立高校を定年で追い出されたお爺さん先生の睡眠音波に抵抗することなど、飛鳥には不可能であった。ただでさえ今日は睡眠時間が足りていないというのに。

 昼休みの時間。高校に入った当時は、群れてご飯を食べて何が楽しい、という、若干にして中学二年生病気味だった飛鳥も、結局は月代に振り回されて、月代に近しい人物2人と共に昼食を取るのが常であった。

 一人は、曽我部詠輝。飛鳥とは対極の場所にいそうな、華やかな印象を与える男。外国人の血でも入っているのだろうか、若干日本人離れした顔つきは、どこのモデルだと言いたくなるほど。クラスの中でも図抜けた容姿を持つ彼は、学力の面でも全教科そこそここなし、スポーツは超絶万能。情報と数学くらいしか取り柄が無く、地味な外見の飛鳥とはまさしく月とすっぽんな存在である。

「っー!」

 飛鳥は、弁当を開けて、すぐに閉じた。時々ネネは弁当でテロリズムを行うことがある。前例を言うと、ネネが来て三日目のタコさんイカさんカニさんウィンナーの軍団。その四日後の、チャーハンを、ゆるキャラとして有名な“ラリックマ”の形状に成形したもの。等等。それでいてやっぱり栄養バランスなどは考えられていて美味しいのだから強く文句も言えない。

 しかし、今日の弁当はひどい。紅そぼろでハートマークなどと、どこの昭和センスな愛妻弁当だよ、と。

「ねっ、ねね、のやつ……」

「おっ、今日のネネちゃんお手製お弁当はなんだい!?」

 飛鳥が狼狽してつぶやいた、ネネ、という単語を聞いてまっさきに食らいついたのは、あろうことか詠輝であった。女性関係のお話には苦労しなさそうな外見をしていないというのに。

「……ハートマークだった」

 周りの人に見られないよう、この集団だけに見れるように蓋を半開けにして、弁当を示した。

「くぅー、かわいいじゃないかーっ! さすがネネちゃん!」

 ネネが学校に通うようになって以来。詠輝は結構露骨にネネに夢中になっていた。

 それは、彼に始まったことではない。彼は、“美少女研究会”なる文系部活動の部長であり、その美少女研究会の部員全員が、只今ネネフィーバー中であった。曰く、開校以来の美少女だ、と。

 彼ら美少女研究会こそ、この学校が変態の巣窟扱いされる原因であった。その活動は、美少女を遠くから眺めてハァハァしたり、変な虫が寄り付かないように暗躍することらしい。その活動は校外にまで及んでいるらしく、近隣住民からは不気味がられている。

 そしてそんな部活が、部員数がどの部活動よりも多いという時点でこの学校は異常であった。ついでに言うと、顧問は校長である。

 とは言ったものの、彼ら変態のおかげで、一般的に言うと気持ち悪がられるような飛鳥ですら一般人であるが。

「いや、やられるこっちはたまったもんじゃ……」

「じゃあくれっ!」

「断る」

 そんなやり取りを見ていた月代が口をひらく。

「随分とネネちゃんに入れ込んでんだな?」

 笑いながら。しかし、その笑みには黒いものが含まれているのがわかった。

 その声を聞いて、飛鳥に襲いかかっていた詠輝が縮こまる。

「い、いやー、美少女研究会の部長としてだなあ。俺は幼稚園のころからお前だけを見てるよ月代」

 と、右手を月代に差し出し、首を軽く振りながら演技のような口調で言った。一般的にはドン引きされてしまいそうなセリフも、彼が言うと様になった。

 しかし、月代はそんな詠輝を少しジトッとした眼で見ている。

 月代と詠輝。二人は、詠輝の台詞の通り、幼稚園の頃からの幼馴染であった。

「どうだか。なー、瑠璃」

「え、えっ?」

 と、月代は目の前にいた小柄な女子に話を振った。

 肩にかかるくらいで切り揃えられた黒髪と、レンズの厚いメガネをかけた、パッと見ると飛鳥以上に地味そうな女子である。

 四柳瑠璃。月代がいつもペットのように連れている、図書委員である。今朝も、月代が図書室に行ったのは彼女に会うためらしい。

 話を振られた瑠璃は、しかしあっという間に挙動不審になって目を伏せてしまった。極度の恥ずかしがりやで人見知り。彼女が月代以外の人間とまともにコミュニケーションをとっているところを、飛鳥は見たことがない。

 眼鏡の奥にある円らな瞳は、まるでチワワ系の小動物を連想させる。地味なオーラに隠れてしまっているが、その容姿は上品に整っているのがわかる。

「ははは、悪い、瑠璃。でももうちょっと頑張ってしゃべろうぜ、な?」

「あ、あう……」

 月代は、そんな瑠璃の黒髪をチョイチョイと撫でつける。

「まあ、実際、部員たちのボルテージの振り切れちまってるからなあ」

 ふざけるような笑みを浮かべていた詠輝の表情に微妙な陰りが混じった。

「……大丈夫なのかよそれ。お前んところのやつら、過激なやり口でも有名だっただろ」

 と、月代が少し心配そうに言った。

 小学生の少女に対して性犯罪を働こうとした男が彼らによって半殺しにされて病院送りになった事件は、この近隣住民の記憶に新しい。この学校に来るために引っ越してきた飛鳥は知らないが。

「俺が手綱を握ってる以上、妙なまねは絶対にさせないよ」

 そう言うと詠記は、自分の弁当をつつき始めた。大きな弁当箱に白ご飯がミッシリ詰まった日の丸弁当であった。

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