ロボット少女は恋をする(13)
やはり特殊なパーツというものは普通のパソコンショップには置いていないわけで、ネットも利用することとなった。
結局、準備が整ったのは三日後のことである。
「見よ! この16連4GBメモリを! 10コアCPUを! これで我が家の電気代は大変なことになるぜ―っ!」
飛鳥が学校に行っている間に届いたパソコンパーツを家で待機していたネネが受け取り、学校から帰ってきた飛鳥がそれを組み込み、数十万の出費(全て和飛のヘソクリから)の末に完成した"ぼくのかんがえたさいきょうのぱそこん"を前にテンションが振り切れた飛鳥は、まるで子供のようにはしゃぎ回っている。こんな姿、近年誰にも見せたことはないが、それだけ凄いものを手に入れてしまったのであろう。
「おおー」
ネネに拍手されて鼻高々な飛鳥は、腰に手を当てて思い切り胸を張った。
「で! いつやるんだ?」
すっかりノリノリになっている飛鳥は、目をキラキラさせてネネに問うと、ネネはちょっと引き気味になりながら答える。
「んー。やっぱり夜だよね。奇襲は夜にするべきだよ、やっぱり。あの研究所、夜は稼働してないもの」
残業の発生は企業の仕事の管理体制がクソだから起こる、という和飛の持論から、研究所は夜間は完全に閉まるはず、とのことである。
「そっかー。じゃ、夜ご飯にするか―」
「……うん。買い物、行こう!」
こうして、研究所への攻撃は夜と決まり、飛鳥の提案から、ネネはいつもの元気な声で答えた。しかしその瞳に、少しの憂いを湛えて。
飛鳥は部屋着からラフな外出用の夏服に着替え、ポケットに財布を突っ込んだ。玄関先で、先に居間を出たネネが待っていた。
通路に出てドアを閉め、施錠し、歩きはじめる。
「ん?」
シャツの裾に違和感を感じて、見てみると、ネネが小さな手で裾を握りしめていた。飛鳥の視線に気付くと、ネネは少し頬を染めてはにかむ。
「えへへ。デートデート」
飛鳥は、つられて頬を緩めつつ、しかし、そのネネの空虚さに、少しだけ心が痛んだ。
ごめん、と言おうとして、やめた。自分とネネは、兄妹だ。こんなことを気にする必要なんてない。
そう言い聞かせ、エレベーターに乗り込む。
そういえば。この悪戯が終わって、和飛が量産を諦めたとして。ネネは、自分のもとを去るのだろうか、と飛鳥は考えた。順当に考えれば、きっとネネはまた去っていく。その方が、ネネも、自分も、傷がつかなくて済むと思う。
「今日はさ。僕も夕飯作るよ」
だったら、きっとこの夕飯は、ネネと食べる最後の晩餐だろう。いや、ネネは研究所に帰るだけだ。きっと将来的にはまたネネと出会ったりして、一緒にご飯を食べたりするだろう。まあ、一時的な別れの前くらい、一緒に作ろう。この前は唐突過ぎて何も出来ないままだった。
「本当?」
「うん。僕だって結構ネネの味を参考にしてさ。だいぶ素材の味を生かした料理を作れるようになったんだからな」
「じゃあ、今日はうんと御馳走作ろう!」
「ああ」