ロボット少女は恋をする(12)
脱衣場からネネが出てくる。
「おにいちゃんあがったー」
かつて一緒に生活していた時と同じサイクル。
交代することを告げながら、居間のドアを開けると、フローリングの上に二つ並んだ布団の一つで、飛鳥は仰向けで横になって、口を開けて眠っていた。
瑠璃とデートしていた、と先ほど聞いた。きっと気疲れしたのだろう。放っておいてあげるのがいい、と思いながら、ネネはその隣の布団に座り込んだ。
「……」
数度、飛鳥を流し見しながら、無意識のうちに思考の渦へと入って行く。
飛鳥を諦めて、一度は別れを告げたネネであったが、秘めている飛鳥への想いは変わっていない。
しかし、こうして戻ってきても、もう飛鳥は、元々手の届かない場所にいたのに、更に遠くへと行ってしまっている。
悔しかった。分かり切っていたことだけど、嫌だった。本音を言うと、瑠璃に対する嫉妬心は増大してしまっている。
飛鳥の顔を見て、一つの欲が、鎌首をもたげて行くのを感じた。
一度だけ。一度だけなら、いいよね。寝てるし。そうして自分に言い訳をしながら、ネネは飛鳥の方へ、まるで猫のように四つん這いで近づいていく。
無防備すぎる、飛鳥の姿。機会は今しか無い。ネネは、衝動に駆られるまま、飛鳥へ忍び寄る。
「……おにい、ちゃん?」
一言、飛鳥を呼んでみて、起きないことを確認して。飛鳥の寝顔に、顔を近づけていく。
垂れてくる湿った髪を右手で掻き上げる。
やがて、距離がゼロになる。飛鳥の下唇を唇で食むように押し付ける。
啄ばむように、二度、三度と拙いキスを繰り返していく。
そうして繰り返すにつれ、別の衝動に駆られた。
しかし、これ以上はダメだ、と、自制するよう、顔を離した。自然と溢れ出た涙が、布団に零れ落ちる。
「ふっ……うぅ……」
どうしようもない絶望感に打ちひしがれ、啜り泣きながら、ネネは枕元のリモコンで照明を落とした。両手で濡れた頬を擦り、横になり、すぐにシステムをスリープモードへ。
十数秒後。それを確認した飛鳥が、上半身を起こした。まだ生温かい湿った感触のある唇を触り、真っ赤になった顔で、こちらに背を向けて寝ているネネの後ろ姿を見た。
最初から起きていたわけではないが、流石に眠りが浅い状態で何度も唇に物が当たると目が覚めるというものだ。それが何だったのか気付いたのは、ネネが離れてからであるが。
邪念を払うように頭を振って、立ち上がる。
知らない振りをしよう。もう自分の選択肢はもう通り過ぎている。今更揺らぐようなことは有り得ない。
飛鳥は一つため息をついて、入浴のために居間から出て行った。