ロボット少女は恋をする(9)
しかし、折角なのだから恋人っぽいことをしてみよう、という飛鳥の提案から、初心者カップルに優しい、映画館デートでもしてみることにした。
丁度、瑠璃が知っている作家が書いた小説を映画化したものを上映していた。
飛鳥も今までデートと呼べる活動をしたことが無いし、さらに相手はあの瑠璃。ガチガチに緊張しきってしまっている彼女が相手ではまともにコミュニケーションを一つ取るのでも難易度が高いと言える始末であり、相当ボロボロな結果になっていた。しかしまあ、お互い初めてなのだから、ということで、飛鳥は別に気にしていない。
そんなわけで、土曜日の夜。瑠璃とデートのようなものをした飛鳥は、家に帰ってきたわけである。
鍵を、開ける。
「……あい、てる?」
開ける方向に鍵を回しても、空回る。ほぼ同様のイベントが、少し前にあったことを思い出す。
「またか」
父親、和飛が来ているのだろう。ついでだ。ネネの事を聞いてみよう。なんとなく、深く詮索するのも躊躇われ、結局ネネが帰ってから連絡も何も入れていないのだ。
思いながら、ドアを開けると、しかしそこには予想だにしない光景があった。
玄関にキチンとそろえられた、子供サイズな靴。
「……!」
飛鳥は、それを見て、誰が来ているかを即座に判断し、靴を脱ぎ散らかして居間へ向かった。
飛鳥も、寂しかったのだ。もうあまり、最悪二度と、会うことも無いのだろうなと思っていた人物が存在している。
素直に嬉しかった。戻ってきてくれたのか。
そんな希望的観測を抱きながら、居間のドアを開けた。
「ネネ!」
そして、そこにいた。膝の上で猫を寝転がせて、そのあまりよろしくない毛並みを梳くようにゆっくり撫で摩る、ネネが。
「あ、おかえり」
思わず張り上げた飛鳥の声で目を覚ました猫が、四肢を思い切り伸ばした後、ネネの膝の上から立ち去った。
そして、当のネネは。あの無邪気な笑みはもうどこかに置き忘れてきた、と言わんばかりの、自嘲的な笑みを浮かべて、続けた。
「おにいちゃん」