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ロボット少女は恋をする(8)

「あ、あのっ。へ、閉館、時間です……」

 図書室の奥まったテーブルで、先ほど借りていた小説の続巻を読んでいた飛鳥のところに瑠璃がやってきた。気が付くと、もう図書室内には飛鳥と瑠璃しか残っていなかった。

「んっ? あ、ごめん。これ、借りていい?」

「あっ、はい、どうぞ。貸し出し手続きしますから、こ、こちらへどうぞ。貸し出しには学生証がいりますので」

 カウンターへ促し、読み取り機で本の管理バーコードと、差し出された飛鳥の学生証の磁気を読み取らせた。

「はい。か、貸し出し期間は二週間です」

「ありがとうー。いやー、最初はどうかと思ったけど、すっかりハマっちゃったよ。言葉遊びが面白いね」

「そ、そうですね。その作者さんの最初期の作品で、ま、まだ作風は安定してないんですけど、センスは今と変わってないです、はい」

 言いながら、読み取り機が繋がっているパソコンの電源を落とした。カウンター下の引き出しから図書室の鍵を取って、床に置いてあった自分のカバンを拾い上げた。

「で、では、帰りましょう」

「うん」

 二人揃って、図書室を出た。

 鍵を職員室に返しに行く瑠璃を待って、二人揃って下駄箱を出た。

「そ、そ、それで、何か、わ、私に用事があったのでは……?」

「そうそう。それなんだけどさ」

 並んで校門に歩いて行きながら、飛鳥は軽く頭を掻きながら、悩んでいる風にしばらく言い淀んだ。

 瑠璃は不思議そうな顔をして飛鳥を見ていたが、飛鳥がこちらを向いて目があった瞬間、慌てて眼を伏せた。

「そのー。ぼ、僕のことさ。好き、なんだってね?」

 飛鳥のその言葉に、瑠璃はまるで畏怖するかのように体を強張らせ、その場に立ち止まった。

「え、いや、その……え?」

 飛鳥の言葉を理解できない風に。瑠璃は、思わず半笑いの笑みさえ浮かべたまま、動かなくなった。

 飛鳥も何も言わない。瑠璃が、自分の言葉を咀嚼し、理解してくれるのを、待ち続けた。

「なん……で……」

 ようやく搾り出す。しかし、その声は、恐怖の色に塗れていた。

 何で知っている。何故ばれた。自分は、全てを隠していたのに。そんな色を、声に乗せている。

 飛鳥に畏怖し、一歩後ずさった。力が抜けて、鞄が手から地面に滑り落ちる。

「美崎が。教えてくれた」

「っつ、き……よ……?」

 瑠璃は、その事実にショックを受けた。親友たる、美崎月代の介入。それは、この想いを隠したままにしたかった瑠璃にとっては、裏切り行為甚だしいものである。

 こんな自分が、他人に好意を向けるという行為が、相手にとって多大な迷惑となると考えていた。

「ご、ごめん、ごめんなさい!」

 そして、しゃがみ込み、両手で頭を抱えて、そのままうずくまる。

 そんな瑠璃の拒絶反応に、飛鳥は驚くしかなかった。

「な、何で? 何で謝ってるの?」

「め、めいわく、めいわくだよね、そうだよね……ごめん、ごめんなさい……ごめんなさい……ああああ!」

 ぶんぶんぶん、と。狂ったように頭を振って。立ち上がり、そのまま走り去ろうとする。逃げたかった。逃げるしか、瑠璃には選択肢が無かった。

 だが、それを飛鳥が制止した。瑠璃の手首を、飛鳥は慌てて掴んだ。この手を放したら、この子はもう自分の前に現れない。そんな気がした。ネネが去るのを制止できなかった分を、取り返したいという願望も、あった。

「迷惑じゃない!」

 飛鳥の大声に。瑠璃は手首を振りほどこうとする抵抗をやめた。腰が抜けたように、その場で崩れ落ちるようにして、座り込んでしまう。

「迷惑じゃない。迷惑じゃないから。だから、四柳さんの、口から、聞かせて欲しいんだ。四柳さんの気持ちを。美崎の言葉じゃなくて、四柳さんの言葉で!」

「っ~~!」

 ギュッと閉じた目の端に、感極まって涙が零れ落ちる姿を見て、飛鳥は罪悪感に駆られた。何でこんなに強要しているんだろう、と。

 飛鳥も、不器用だった。不器用だから、こんな、スマートじゃないやり方しかできない。

 瑠璃の前にしゃがみこみ、瑠璃と視線を合わせた。涙で濡れた、黒目がちで大きな瞳を、覗き込む。

 瑠璃は、何か言おうとして口をパクパクさせているが、出てこない。言葉を選んでいるのか、分からなくなっているのか。

「落ちついてよ。僕の気持はもう決まってる。だけど、美崎から又聞きしただけじゃ、納得できないし、なんか気持ち悪いもん。通過儀礼みたいなものだと、思ってさ」

「ふ……う、あ……す、すっ……うぅ……」

 動揺で震えきった声を出し、小休止のように大きく息を吸い。そして、たたみかけるように、やけくそのように、言葉を吐き出した。

「すき、なん、です……くっ、くじゃく、れんっ、君の、ことがぁ……っ……」

「……うん。分かった」

 飛鳥は、立ち上がり、瑠璃に手を差し伸べた。内心、直接気持ちをぶつけられて飛鳥も動揺していたが、表に出したらかっこ悪いと思い、必死に押し殺していた。

「その。何だ。よ、よろしく」

 それは、これから恋人同士になるという、飛鳥なりの返事。今はこれが精一杯であった。

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