ロボット少女は恋をする(7)
「はい、それでは貸し出し期間は二週間ですので……」
掻き消えそうな、小さな蚊の飛ぶような声。図書室という静かな空間でなければ絶対に聞き取れないだろう。
瑠璃は本好きが興じて図書委員をしているが、こうして図書室で貸し出し業務を行うのは、すごく苦手だった。業務とはいえ、知らない人に声をかけるという行為がひどく困難なことだと考えているのだ。
本を借りて行った生徒を見送った後、再びカウンターの下で開いている文庫本に目を落とした。なるべくなら人は来てくれるなと心底思いながら。
しかし、その願いむなしく、視界の端で、図書室のドアが開き、黒い制服のズボンに包まれた足が見えた。男子生徒だ。
何気なしに顔を上げる。
「……や、やあ」
孔雀蓮飛鳥だった。瑠璃と目が合い、彼はちょっとだけ気恥ずかしそうにしながら右手を上げてカウンターに歩み寄った。
「突然来てごめん。これ、返しに来た」
と。図書室のラベルが貼られた二冊の文庫本を手渡してくる。
「あっ、あ、はい、わざわざありがとうございます。というか教室で渡していただければよかったのに……」
言いながら、自分の学生証の磁気テープと本のバーコードを使って返却作業を行う。瑠璃が借りて、飛鳥へと又貸しが常であった。
「んー。まあ、その。ちょっと用事があったから。四柳さん、仕事いつまで?」
「あ、あのっ、その……ろ、六時、までです……」
要するに、図書室が閉まるまで、ということだ。現在時刻が四時半だから、あと一時間半ほどだ。
「ふぅん。じゃあ、待ってるから」
言って、飛鳥は図書室の奥へと消えて行ってしまった。
「……はひ」
急速に顔が熱くなっていくのを感じた。血がどんどん頭に上ってくる。
馬鹿みたいに早鐘を打つ心臓は、制服の上から押さえつけなければ、飛び出してしまいそうな錯覚を受ける。
何で。何でいきなり来るのか。しかも、待っている。つまりは自分に用事があってわざわざ来たということだ。
「あ、あの」
顔を真っ赤にして俯いていると、突然話しかけられて慌てて顔を上げた。
「は、はひぃ!?」
カウンター越しに立っている女子生徒は、瑠璃のただならぬ様子に引きまくっていた。
「こ、これ……」
貸し出し、だった。
「はいはいはい! ちょっと待っててくださいね、はい! が、学生証を……!」
裏返って耳障りなまでに甲高くなった声を上げ、静かな図書室中の視線を浴びることになってしまった。