ロボット少女は恋をする(6)
ネネが研究所に帰った。ほんの一カ月と少しだけの共同生活であったが、それでも、ネネが飛鳥に与えた影響は大きかった。
自分の料理の不味さに絶望した。塩っ辛いばかりの飛鳥の料理に比べて、ネネの料理が、いかに美味であったか。
朝起きれなかった。ネネが帰って三日ほどは、連続で遅刻しそうになった。ネネが起こしてくれるという悪習慣が、身に染みてしまっていた。
そして、一人暮らしの部屋の静けさ。もうあの騒がしさは戻ってこないのか、と思うと、口惜しすぎる。
あの時ネネを制止出来なかったことを、後悔していた。もっと上手い解決方法があったのかもしれない、と。
「おらー。飯だぞー」
自分の料理と餌皿を持って居間に入ると、動物病院から連れて帰った猫が早速じゃれついてくる。
この猫を拾った経緯は全く知らないが、随分と人懐っこい。ひょっとして散歩中の家猫をネネがとっ捕まえてきたんじゃないんだろうな、と邪推しつつ、自分の料理が載ったお盆を卓袱台に置いた。
去り際にネネに注意されて以来、料理には気を使うようになった。加減が分からず、辛いか味が無いかのどちらかになりがちであるが、一週間でだいぶこなせるようになった、気がする。
なんとなしに、夜のバラエティ番組にテレビのチャンネルを回した。
瑠璃との話は全く進展していない。しかし、どうするかは、もうほとんど確定していた。瑠璃を選ばなかったら、ネネが譲歩した意味がなくなってしまう。
あれだけ渋っておいて、結局、自分の気持ちで動けない自分に嫌気が差しながらも。付き合って、それから好きになっていけばいいや、とポジティブに考えた。そういう恋愛の形も、あるんだ、と。
明日あたりに話をしてみよう。瑠璃の気持ちを、直に聞かせてもらおう。
ちょうど瑠璃経由で借りた図書室の本があるから、それを返却するついでに、瑠璃が図書委員の仕事が終わるまで待っておこう。自然な、いい口実だと、恋愛に不慣れながらにいい口実だな、と思う。
一口、味噌汁を啜ると、程よい甘辛さが口の中に広がった。
「……うん。成功。流石」
飛鳥の自画自賛は、騒がしいテレビの音に掻き消された。