ロボット少女は恋をする(4)
居心地が悪い。飛鳥はそう思った。
半ば押し切られるように猫を飼うことを許可し、ネネがつれて帰ってきた猫を動物病院に連れて行き、検査のために入院させてきた帰り道。
相変わらず降り止まない雨の中、飛鳥とネネは並んで歩いていた。
動物病院がこんなにもお金がかかるものだとは思わなかった。随分と軽くなった財布に凹んでいることもあるが、それよりも心配なのがネネだった。
買い物に行く前。放課後に学校前で別れたときには至って普通な様子だったネネが、今は別人のように黙りこくっているのだ。いつものマシンガントークを浴びせてくるわけもなく
しかも、無表情だった。人間の部分をどこかに置き忘れてきたかのような、無機物のそれである。
飛鳥が思いつきのように話を振ってみても、その反応は悪い。一言二言会話をして、それで終了。
「な、なあ」
「なに」
「ネネ。どうしたんだよ? 買い物行く前は元気だったじゃないか?」
「別に……なんでも、ないよ」
「なんでもないこと無いって。何なんだよ、一体? ネネらしくない」
「ネネらしいって、なに?」
ギョッとするほど、機械的な声。飛鳥は思わず立ち止まった。
飛鳥が刺されるという波乱もあったが、以前よりも断然楽しくなってきた日常生活を粉微塵に破砕するかのような、ネネのその声に、ある種の恐怖を抱いた。
「ネネ、所詮は機械だもん。今までお兄ちゃんたちに見せていた感情だって、ただのプログラムだよ? それを実行してるだけなのに、ネネらしいもクソも無いよ」
言って。振り向くネネの表情は、先ほどと変わらない、無表情。しかし、飛鳥は人形が突然しゃべりだしたかのような恐怖を覚えてしまった。
「な、何、言ってるんだよ?」
かろうじて搾り出した飛鳥に、しかしネネは淡々と続ける。
「きっとネネは欠陥品。ロボットの癖に、お兄ちゃんのことを自分のものにしたいって思ったり、お兄ちゃんに好意を抱いてる瑠璃先輩に嫉妬しちゃったり……。ネネ、何なのかな?」
それは、ネネの悲鳴だった。飛鳥には、具体的にネネに何があったのか、分からない。しかし、自分の存在を否定しようとしていることは分かった。
その否定を肯定するようなことは、何があってもやってはいけない。相手がロボットであっても、人間であっても。
「ネネは、妹だ」
搾り出すように、呟くように、そう言った。
「最近は、ネネが、ロボットだっていうことを、忘れることもある。僕にとってネネは、大事な妹だ。だから、自分を否定するような哀しいことは、やめてくれよ……」
本心だった。ネネを説得する為の優しい嘘だとか、そういう類のものではない。実際、ネネという存在は、飛鳥の中で非常に大きなウェートを占めるようになっている。
「ばかだね、おにいちゃん」
ロボットの自分を、妹だと言ってくれる。それはとても嬉しい事だった。
しかし、ロボットを妹だと思うことの、空虚さを思い、ネネは笑った。悲しい悲しい、悲痛な笑みを浮かべて。