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ロボット少女は恋をする(2)

 飛鳥が退院して三日ほどが経った。

 このところ、ネネはあまり調子が良くなかった。

 勿論自己診断プログラムで異常をきたせば、技術的な問題として和飛の元へと連絡するべきなのであるが、プログラムの答えは至って正常。つまり故障している部分はない。

 毎度のように、その調子が悪いのは、思考部分。何をしても集中出来ないのである。思考が宙に浮いているようで、気持ちが悪い。

 勿論、勉強などは目立たない程度に難なくこなしている。料理だって、漫画のように塩と砂糖を間違えるようなことも、指を切ったりすることも無い。

「ネネちゃん、大丈夫?」

 言われ。ネネは慌てて思考の渦から抜け出した。

 目の前で、クラスメイトの女の子二人がネネの様子を少し心配そうに見つめていた。

「へ? あ、ごめんなさい。ぼっとしてた」

 そう言って、お弁当を突くのを再開する。

 今は昼休憩。ネネは、席が近隣というわけで真っ先に仲良くなった女子と弁当を食べていた。

「でも、ネネちゃんちょっと元気ないね。何かあったの?」

 飛鳥が刺されたことは、もう彼女らは知っている。そして、退院したことも。

 にも関わらず元気のないネネを、彼女らは心配していた。

「なんかね、モヤモヤするの」

 ネネは、ちょっと行儀悪く箸を噛みながら、言った。人間の彼女らなら、何か別の視点から原因に気付いてくれるかもしれない、と期待して。

「おにいちゃんのことがね、好きな人がいるんだ。おにいちゃんのクラスメイトの人なんだけど。で、今おにいちゃんと結構いー感じになってるんだけどね。なんだか、それが、ネネ、嫌なの。お、おかしいよね。おにいちゃんに恋人が出来るってこと、ネネ、素直に喜べないの。おにいちゃんのことを考えると、なんか、頭の中がモヤモヤして、わけが分からなくなるんだ」

 ネネの悩みを。友人らは、真面目な表情でうん、うんと相槌を打ちながら聞いていたが、やがて、一人が、少し、恐る恐るといった感じで口を開いた。

「……それって、きっと恋だよ」

「こい?」

 ネネはそう言われ、首を傾げる。

「うん。恋。ネネちゃんは、お兄さんの事が、大好きなんだよ、きっと」

 ネネは飛鳥の事は好きだ。しかし、それは家族に対して抱く好きだったはず。恋だ、と言われても、実感は湧かない。

「はぁー……すごいなー。漫画とかだけの話かと思ったよ。お兄さんに恋しちゃう妹なんてさ」

 もう一人の友人が、感心するように、言った。

 場合によっては、異端扱いされそうな話である。しかし、この学園の生徒ということが幸いした。もっとどうしようもない恋愛感情を抱いている変な人達が、この学園には沢山いる。美少女研究会を筆頭に。

 故に、珍しいことではあるが、引くようなことは無かった。

「恋……。恋、か……」

 ネネが反芻するように言う。なるほど、確かにネネの症状は、ネネの知識にある恋のそれかもしれない。

 しかし。友人二人は、少し気の毒そうな表情でネネを見ていた。

 当然である。血のつながった兄に恋をしているように映っているのだ。常識的に考えると、それは抱いてはいけない感情。

「あ、あの、ネネちゃん。あたし、応援するよ? ネネちゃんのこと。お兄さんが相手でもさ、好きになっちゃったんだから、しょうがないもんね」

「うん。私も」

 彼女らは、本気でネネの事を心配しているような目をしていた。

 あんまり心配かけるわけにはいかない、と。ネネはいつもの元気な笑みを浮かべた。

「ありがとう! じゃあ、何かあったら相談するね?」

 そうは言ったものの。この感覚が恋だと知って。ネネには、どうすればいいのか分からない。

 自分は妹で、そもそもロボットだ。恋愛なんて、そもそも、告白するなんて、ナンセンス甚だしい。

 ロボットと恋愛をするなんて。飛鳥に多大な迷惑がかかってしまう。ただでさえ、瑠璃との事で悩んでいるのに。そこに、自分がでしゃばって入っていく余地なんて、無い。

 これまで通り、妹として、飛鳥と接していくのが、最良の判断。

 でも。飛鳥と、兄弟という関係を超越した関係になる。それはとても、魅力的なことだと、ネネは思ってしまった。

 飛鳥と恋人同士になりたい。瑠璃を排除したい。そんな欲求が、芽生えてしまった瞬間だった。

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