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ロボット少女は恋をする(1)

 一週間を経て、飛鳥は退院した。まだ完全には傷が塞がってはいないが、家には帰れるようになった。勿論、体育の授業はしばらく見学であるが、飛鳥的には逆に嬉しいことである。

「うはー、不味い不味い病院食ともこれでおさらばだ―」

 学校を休んで迎えに来たネネと一緒に病院を出て、飛鳥はその開放感を満喫した。基本的に引き籠り体質な飛鳥であるが、四六時中ベッドの上で過ごし、味がほとんどない病院食を胃に運ぶ作業をするのは、辛いものがあった。それに、出来ないこともたくさんあって色々と溜まってしまっているのである。

「今日は、おにいちゃんが好きなもの作ってあげるよ? 何がいい?」

「本当? じゃあ、とりあえず肉! 魚と野菜だけの生活はもう嫌だ。分かる? 味噌汁さえも味が無いんだぜ? あんなのただの茶色い水だ。それに比べたらネネの味噌汁が辛く感じちゃうよ」

 以前の無口な彼からは想像もできない、明るい言動にネネは隣で小さく笑い、飛鳥の顔を仰いだ。

「あはは。健康のためには参考にしたいんだけど、おにいちゃんがストレスで参っちゃうね? わかった。夕方になったらおっきなお肉買ってくるよ」

「頼むー」

 そして、いつものようにネネのマシンガントークが始まった。しかし、今日は飛鳥もきちんとそれに応対しているあたり、相当機嫌がいいようである。

 チャンスかもしれない。そう思ったネネは、会話が一区切り付いてから、少しだけ控えめに口を開いた。

「ねえ、おにいちゃん」

「ん? 何?」

「……結局さ。瑠璃先輩のこと、どうするの?」

 その言葉に。飛鳥は、浮かべていた微笑みを、苦笑いに歪めた。その節々に、狼狽の色が見え隠れする。

 飛鳥が入院している間、瑠璃は三度、見舞いに訪れている。というよりも、飛鳥に、本を貸してくれー、と呼ばれたからという理由もあるのだが。

 いつ来ても、彼女は顔を真っ赤にしてしどろもどろになっていた。しかし、本人は飛鳥に向けられた好意を飛鳥が知っていることは、知らないようだった。いつも通り、だった。

 きっと彼女の性格から、飛鳥が知っていると、知ってしまったら、飛鳥を避けるだろうに。

 だから、飛鳥も知らないふりをしていた。結論を出すのを、先送りにしていた。

 しかし本音を言うと、あまり乗り気ではなかった。それは、月代から気持ちを押し付けられたことに対する対抗意識のようなものもあったのかもしれない。それに、何より。自分なんかが、という気持ちが強かった。自分よりも優しくていい男が、他にいるだろうに、と。

「どうだろうね。まだ決めてないよ」

「そ、そう、なんだ……」

 断るにしても、機会も、口上も、全然分からない。きっと断ったりしたら、今の少しだけ心地よいと思っている、瑠璃との関係が完全に崩壊する。それだけならまだしも、月代との関係も崩壊するし、詠輝との関係も、間接的に崩壊しかねない。

 それが、怖かった。友人を失うのが、こんなにも怖いものだとは、思ってなかった。

 有耶無耶に出来るなら、それが一番いい方法だと、飛鳥は考えていた。そのうち、瑠璃の方が心変わりしてくれる。そう信じて、飛鳥は逃げていた。

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