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ロボット少女がいる日常(3)

 朝食を食べ終わっても、時間的にはまだ余裕がある。そうなるようにネネが早めに飛鳥を起こしているのだ。更には、通っている学校は徒歩十分のところにある。最悪、始業十分前のチャイムが鳴ってから家を出ても走れば間に合ったりする。

 だからこそ、朝こうしてのんびり朝食がとれるわけで、飛鳥の体は、ネネの健康的な料理と相まって健康体そのものであった。

 ネネが歯磨きに行っている間に飛鳥が制服に着替え、交替で飛鳥が歯磨きに行っている間にネネが着替える。このサイクルを毎朝繰り返している。

 最初はネネは兄妹なんだから気にしなくてもいい、とは言っていた。しかし飛鳥的にはやはりいきなり出来た妹であるから意識しないわけにもいかないらしい。たとえネネが、どう見積もっても小学生にしか見えなくてもだ。

「おーい、行くぞー」

 洗面所から玄関に直接向かい、ネネを呼ぶ。

「はーい、はいはいはい!」

 奥からネネがバタバタ動き回る音が聞こえ、居間から小走りで出てきた。

 襟が赤いセーラー服と、同色のスカート。ネネは、一般的に言えば二次元の産物であると言って差し支えない物品を着ている。

 二次元の世界では非常によく見るものであるが、実際にお目にかかる機会が有るとすれば、クレーンゲームの景品だとか東急○ンズだとかに売っている、所謂"コスプレ"のためのちゃっちい物しか見ることはできないだろう。

 日本広しと言えど、こんなものを制服にしている学校というのは、おそらくはよほど奇特な学校であり、そして、飛鳥が通う"私立翆龍学園"こそ、そのよほど奇特な高校の一つである。

 制服に関しては校長および理事の変態的嗜好が原因であるとの噂もあるが、定かではない。

 そして、未だにプールの授業では旧型のスクール水着を指定していることも、校長および理事の変態的嗜好が原因であるとの噂もあるが、定かではない。

 更には体育の時間に未だに女子はブルマ(赤)着用を義務付けていることも、校長および理事の変態的嗜好が原因であるとの噂もあるが、定かではない。

 と言うわけで一般的に言えば校長および理事が変態であると言える翆龍学園は、類は友を呼ぶ形で生徒も一般的に言えば変態である。この学校に行っていると言っただけで近隣住民からは変態扱いである。自称一般人の変態の飛鳥は、非常に不本意に思っていた。

 しかし仕送り有りの待遇で一人暮らしをさせてもらう条件として、翆龍学園への進学があったのであるからして、文句は全く言えない。

「おまたせぇー、おにいちゃん。あ、お弁当ね」

 二つ持った弁当の大きい方を飛鳥に手渡し、小さい方を補助鞄に突っ込む。

 そして、白いオーバー二―ソックスに包まれた足を子供サイズな革靴に突っ込み、その場で一度ピョンと飛び跳ね、準備完了の意を飛鳥に告げた。

 先ほどまで背中に垂らしていた赤毛に近い茶髪を頭の両サイドで二つに纏めた可愛らしいツインテールが揺れ、赤いスカートがひらひら舞い、その中身の白と青の縞縞パンツを一瞬だけ拝むことに成功。それによってちょっとだけ動揺した飛鳥だが、そんなこと露知らず、ネネは微妙な表情をしている飛鳥を見て不思議そうに首をかしげるばかりだ。

「……行くか」

 飛鳥は弁当を入れるために下ろしたリュックサックを右肩にぶらさげた。

「うんっ!」

 開けたドアの外は、狭い通路になっていた。飛鳥の胸くらいの高さまでのコンクリート製の壁があり、その向こうには目も眩まんばかりの高さからの風景が広がっている。

 ここはマンションの十階であった。

 ドアを閉め。施錠し、少し離れたところにあるエレベーターに乗り込んだ。

「それでね! 月代さんと一緒に今度買い物に行こうって――」

「あ、ああ、そう……」

 飛鳥は、人とコミュニケーションするのが苦手であった。それはネネ相手でも例外ではなく、ネネが、開発者によって作為的にインプットされた非常識な言動をしたときに突っ込む時以外は、自分でしゃべることは少ない。対照的なネネは、飛鳥のリアクションが薄くても気にせずにマシンガントークを繰り広げているが。

 エレベーターが四階に止まる。飛鳥は嫌な予感がした。

 そしてその嫌な予感通り、エレベーターが開いて、ネネと同じ制服を着た女子が乗り込んでくる。

 飛鳥のクラスメイト、美崎月代である。

「おっ、飛鳥にネネちゃん! おはよう!」

「おはようございます、月代さん!」

 言いながら、パチン、とハイタッチを交わすネネと月代。ネネのハイテンションを受け止め、更にその上を行くテンションで返すハイテンションな女子である。

 その性格は外見にも顕著に現れていて、こげ茶色のショートカットに吊り気味の相貌が、いかにも男勝りですと語っていた。

 そしてそんな性格ゆえに誰とでも友達になることが出来た。やっぱり飛鳥とは対照的な人物であった。

 そんな、自分とは両極端の場所にいる女子二人の騒がしいコミュニケーションを、飛鳥は少し引いたところから見ていると、月代が思い出したように飛鳥の方を向いた。

「おっ、そういえば飛鳥」

 エレベーターが止まり、一階への扉を開く。ネネ、月代、飛鳥の順で外に出て、三人で横一列に並んで出口へと向かう。

「……何だよ?」

「情報の宿題後で見せろよ。パソコン検定の問題集とか明らかに無理だろ」

 マンションを出て、住宅地の道路を歩いていく。

「古典の宿題と交換な。パソコン検定いっても五級だろ。一般常識としてそれくらい知ってろよって感じだけど」

「未だにビデオテープの予約録画ができなくて、弟妹に漫画録画してくれーって言われて困っているのに。あいつら歳取ったら何でもできるようになると思ってやがる。で、ようやく録画の方法が分かってきたと思ったら、今度親父のボーナスで今流行りらしい"はいびじょんてれび"と"ぶるーれいれこーだー"とやらを導入するらしくウチにはもう何が何やら。そんなウチにパソコンなんて、パンドラボックス甚だしい存在だぜ」

 どこのメカ音痴の主婦だよと思うが、飛鳥の母親もこんなもんらしいし、分からない人にはトコトン分からない世界で説明しても理解してくれないんだよなーと思う飛鳥である。

「ま! ウチには飛鳥という存在がいるからな! その時にはよろしくな!」

 と、バシバシ背中を叩いてくる月代だが、飛鳥は露骨に嫌な顔をした。

「夜七時に十階から四階に下りる俺の苦労を分かってくれ」

 食事中に呼び出されて何が悲しくてよそ様の家にアニメの録画をしに行かねばならないのか、と思いつつも、月代の母親に

「あらあらいつもごめんなさいねえ、飛鳥君。後で肉じゃが持って帰ってちょうだい」

 などと心からの笑顔で感謝されてしまっては、めんどくさくても断るに断れない。

「あ! ネネ分かる! ネネが行ってあげるよ!」

 はいはーい、と、月代と飛鳥の間から鞄を持ってない方の手を上げてピョンピョン跳ねながら、ネネが名乗りを上げた。

「おっ! ネネちゃん"ぶるーれいれこーだー"の使い方分かんの!? やったぁ!」

 説明書を見れば一発で記憶できるのだから、後はそれを模倣すればいいだけ。機械が最も得意とする作業ではないか。とは口が裂けても言えない。ネネは飛鳥の妹という設定なのだから。

「行く行く! お役にたてるなら!」

「やったね! やれやれ。少しはネネちゃんを見習ったらどうだ。飛鳥はこんなんだから英語国語古典その他諸々が出来ないんだ」 

「う、うるさいなー。昔の人が書いた文章から作者の気持ちなんて読み取れるわけねーだろ! エスパーか、エスパー!」

 文系人間と理系人間は絶対に相容れないと思う飛鳥であった。

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