ロボット少女がいる非日常(15)
ネネは、自宅の台所に立って、一人分の夕食の準備を進めていた。
本当は食べなくても差し支えないのであるが、習慣とは恐ろしいもので、気が付くと病院帰りにスーパーに寄っていた。それに、こうして何かしらの作業をしていた方が、気が紛れて良い。
しかし、一向に気分が晴れることはない。以前から感じていた、自分の思考の違和感。それが、先ほどの月代と飛鳥のやり取りを聞いて、一気に膨れ上がった。
瑠璃が飛鳥に対して好意を抱いているのは、以前から知っていた。月代に、教えられていた。
よくよく考えると、この違和感は、瑠璃が飛鳥に好意を抱いているという事実を知ってから発生したもの。
全く相関が無いとは言えない。むしろ、これくらいしか思考の違和感の原因が思い浮かばない。
飛鳥に恋人が出来るかもしれない。本来なら、妹として、喜ばしいことではないのだろうか。しかし、諸手をあげて歓迎出来ない自分が、分からない。何故、と。
分からない。それが、凄く腹立だしい、気がする。
ネネの思考には、不快、という感覚が芽生え始めていた。
考えれば考えるほど。ネネの思考が熱くなっていく。
その感情を人間で言うならば、怒り、だった。しかし何故怒りを感じているのか。
瑠璃と飛鳥のことを考えれば考えるほど、その感覚は大きくなっていく。
いつの間にか、奥歯をギリギリと軋ませていた。味噌汁に入れる青葱を切る手に、自然に力が入り、乱暴になっていく。
わからない。わからない。何もわからない。自分がわからない。
熱くなる思考回路を冷やすために、冷却液が頭にどんどん送られているのが分かる。だが、思考そのものは全く冷めない。むしろどんどんヒートアップする。
そして。味噌汁に入れる分の青葱を刻み終わった、瞬間。その怒りが頂点に達した。右手に持っていた包丁を、銀色のシンクに、叩き付けた。
金属と金属が激しくぶつかり合う、甲高い不協和音。
「ふー……ふー……」
外気を取り入れ、回路を冷やすために、深く、深く、呼吸を繰り返す。吐息が、異常に熱くなっている。
「ふー……ううう……ううぅぅ……うぇぇぇ……」
視界が、グニャリと歪んだ。
ボロボロと。涙が零れ落ちていく。その場にしゃがみ込んで、両手で目を擦りながら、ネネはすすり泣いた。
「な、なに、なんなんだよぉ……」
ネネは気付いていない。その感情は、瑠璃への嫉妬、そして、飛鳥への、恋愛感情。