ロボット少女がいる非日常(13)
詠輝が、部活の後始末が残っている、ということで早々に病室を出て行くのを見送って、飛鳥は月代と、その陰に半分隠れるように立っている瑠璃の方を見た。
「あ、四柳さん、本持ってきてくれた?」
その声に。瑠璃は恐れるようにギクン、と体を一瞬硬直させた。しかし、月代に促されて飛鳥の目の前に立たされ、瑠璃は顔を真っ赤にして俯いた後、両手で支持していた学生鞄を開けた。
「あ、あの、あの、こ、れを、持ってきました……。き、急でしたので、図書室から借りて……その……」
と。三冊の文庫本を差し出してきた。ごく普通の純文学っぽいのが二冊と、少しライトノベルチックなのが一冊。
なるほど、瑠璃は飛鳥をまた本にはまらせようとしているらしい。どれもこれも、一巻と表示されている。飛鳥はきっと全巻読破しないと気が済まないだろう。
「ありがとう。退院したら返すよ」
「あ、あのっ、よ、読み終わったら……そ、そのっ、メール、ください。続き、持ってきます、から……」
蚊が飛ぶような小さな声でそう提案する瑠璃。飛鳥の顔は直視できないのか、相変わらず俯いて、切りそろえられた前髪で顔を隠してしまっている。
「ありがとう。お言葉に甘えさせてもらおうかな」
そんなやり取りを、月代はニヤニヤと茶化すような笑みで傍観していた。そして、飛鳥の後ろではネネが器用に林檎の皮をむきながら、やり取りを、少し心配そうにチラチラと覗き見しているが、誰も気づいていない。
「は、はいっ! ま、任せてください!」
精一杯の大声なのだろう。それでもやっと普通に聞こえるくらいの大きさの声を出し、ギクシャクとお辞儀をした。
「そ、それでは、その、か、帰ります! お大事に!」
「え? あ、ああ、うん。ありがとうね」
一気にまくし立てるように言って帰っていく瑠璃に、飛鳥は圧倒されつつも、何とかそれだけを瑠璃の背中に伝えた。
なんて不器用な子なんだ、と飛鳥ですら少し心配になってくるほどだ。
月代は我慢ならなくなったのか、吹き出した。
「なんだよ?」
「いや、瑠璃は可愛いねえ、ホント。同性じゃなかったら絶対告ってるよ」
言いながら。月代は壁に立てかけてあったパイプ椅子を取って、飛鳥の横に座った。
「さて。本題に入ろうかな」
改まる月代に、飛鳥は怪訝そうな表情をし、その後ろではネネの心配そうな表情を一層強めた。