ロボット少女がいる非日常(12)
学校が終わる時間から一時間半ほど経過したとき。
病室の引き戸が開いて、ネネを先頭に飛鳥のクラスメイト三人組が入ってきた。
「おにいちゃんきたよー」
「おう」
夕方に入って本格的に面白くなくなったテレビを消して、飛鳥は上半身を起こした。
「悪いね、わざわざ」
言って、枕もとに置いてあったメガネをかけ直して向き直ると、妙に沈痛な面持ちで俯いている曽我部詠輝が目に付いた。
「どうしたんだよ、曽我部?」
「……すまん!」
月代の後ろにいた詠輝が、前にズズイッと出てきて、突然床に頭をグリグリと埋めるような勢いで土下座をかましてきたのだ。
その様子を、背後に立つ月代は少し冷めた目で見ている。当然の行動だ、と言わんばかりに。
「うえ!? ど、どうしたんだよ?」
しかし、飛鳥にとっては唐突過ぎた。酷く動揺しながら、助けを求めるような目でネネを見ると、ネネも少し驚いている様子で目を丸くしている。
「く、孔雀蓮を刺したのは、うちの部員なんだ! すまない! 俺がしっかりしてなかったからこんなことに……!」
犯人の少年は、美少女研究会の部員だった。だから部長たる詠輝にも責任は生じるわけであり、その表情からは濃い心労の色が見えた。
「い、いやいやいや、こうして生きてるんだから別にいいって!」
人に謝られるということに、猛烈な気恥ずかしさを感じた飛鳥は、両手を振って慌てて詠輝をたしなめる。
だが、詠輝はその顔を上げようとはしない。
「過激派の行動が……俺の予想の範疇を飛び越えてしまっていた。まさかこんな、怪我人を出してしまうなんて……」
この事件を発端に、いわゆる美少女な妹、姉を持つ男子生徒への陰湿な嫌がらせがこれまでも行われてきていたことも露呈している。
それは、詠輝の知らない所で行われていた。彼はこんなどうしようもない趣味をしているが、正義感だけは強かった故に、当然と言えば当然だが。
しかし"度の過ぎた美少女"たるネネの出現によってタガが外れ、今回の過激派による武力行使に出てしまった、とのこと。
「曽我部は悪くないからさ! 頼むから顔上げてくれよ!」
飛鳥としては、この気恥ずかしさから開放されたく、必死で詠輝を説得し、そして詠輝は渋々という感じで顔を上げた。
「……俺の注意不足だった。過激派の連中、隙があったらお前を殺そうと、付けねらっていたみたいだ。俺が、気づいていれば……」
それを聞いて.飛鳥は、今まで時々感じていた視線の正体を知った。期間を考えると、むしろ過激派達は相当我慢していたと言えるだろうか。
「過激派の奴らには制裁が加えられている.犯人の奴は退学、警察行きだ。美少女研究会自体も、無期限活動停止だ」
「じゃあ、もう狙われることは無いんだろ?」
ニッ、と、飛鳥は笑うと、詠輝も疲れた笑顔を浮かべて首を縦に振った。
「ああ。念には念を入れて穏健派を使って過激派を押さえ込んでいる。少なくとも、今度のようなことは絶対にさせない。今度こそ、誓う」