ロボット少女がいる非日常(11)
『こんにちわ。月代に、孔雀蓮君が目を覚ましたと聞きました。体のほうは大丈夫ですか? ご迷惑じゃなければ、お見舞いに行きたいのですが……』
そんなメールが届いたのは、飛鳥が目を覚ました日の昼だった。朝、昼と、ネネのそれよりも味が薄い病院食を泣きそうになりながら完食し、現状何も暇をつぶすものが無く、勿体無いと思いながらも有料のカードを差し込んだら見ることが出来るテレビで、お昼のバラエティ番組を見ていたところである。四六時中ネネと一緒にいるのもどうかと思ったので、ネネは家に帰して、学校にも行くように言っていたのだが、微妙にそれを後悔していた。
そして、件のメール。絵文字もからっきし無い、今時の女の子とは到底思えないガチガチの文章に、飛鳥は送り主の様子を想像し、ほほえましく感じてしまった。あの子らしい、と。
送り主は、四柳瑠璃。以前、月代の仲介でアドレスを交換したはいいものの、結局一度も使われてこなかったものである。
『どうやら大丈夫みたい(絵文字)勿論いいよー(絵文字)あ、何か暇つぶしになるような本を貸してくれると嬉しいかもしれない(絵文字)一週間もこんな生活は嫌だ(笑)』
相手とのテンションの差に、なんだか自分が、いわゆるチャラい男になったようで心配になりながらも、そんな文面のメールを送り返し、再び体を横にしてテレビの方を向いた。
かくして、メールが返ってきたのは一時間後であった。どれだけ四苦八苦しているんだ、と考え、そういえば授業があるか、という判断に落ち着いた。あの一目見ただけで真面目一辺倒な彼女が、授業中に携帯電話を弄くるという行為を許すわけが無いのだ。
『それはよかったです。では、数冊持って行きますね(絵文字)』
絵文字ひとつでも、飛鳥は「おっ」と思った。心を少し開いてくれたような気がした。
『頼む!(絵文字)』
『はい。それではまた後で(絵文字)』
「今日来るつもりかよ。なんて準備のいい」
瑠璃がくるということは、月代も来ることは確定のようだ。賑やかになることを、飛鳥は少しだけ楽しみに思った。昔の飛鳥なら鬱陶しく思うだろうが、四六時中喧しいネネと一緒の生活に慣れると、こういう長時間静かなのに違和感を覚えてしまうのである。
その事に気づき、飛鳥は微妙な気分になった。確かに賑やかなのは楽しく思えるようになった。しかし、以前の孤独を愛する一匹狼な自分も懐かしい、と思ったところで。かつての自分の中学二年生病加減に、なんて痛い奴なのだ、とテンションがダダ下がりしたわけである。