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ロボット少女がいる非日常(8)

――全てのお兄ちゃんに死を



 月曜日。三時間目の終了時。飛鳥はちょっとトイレに、と自分の席を立った。

 教室を出て、階段の傍にあるトイレへと歩いていく。

 教室の戸三つ分ほどの幅がある広い出入り口を抜け、すぐに二手に分かれる右の男性用の方へ。

 用を足して、手を洗って。

 教室に戻ろうと、男子トイレを出た瞬間。

 ドッ、と。飛鳥よりも小柄で痩せ形な男子生徒が、明らかに故意に、ぶつかってきた。

「っ!?」

 次の瞬間、飛鳥の腹部に痛みが走った。しかしそれも一瞬。度の過ぎた痛みは、熱さへと変わる。

「なっ、なっ!?」

 慌てて飛鳥が男子生徒を強く突き飛ばすと、飛鳥の腹部から、男子生徒が右手に持ったカッターナイフが抜けて行く。その鉄色の刃と、黄色いプラスチックの持ち手が黒っぽい朱に染まっているのが見えた。

 飛鳥はそれを見、自分の、熱く疼く腹部を見た。

 白い夏用のシャツの腹部が、見る見るうちに赤くなるのを、酷く客観的な視線で見た。

「……え?」

 余りに非常識な事態に、それが現実のものであると認識できない飛鳥は、酷く間の抜けた声を上げるしかできなかった。ただただ、脳への警告のように、腹部の熱い痛みだけが、心臓の鼓動に合わせて強くなったり弱くなったりしていることだけが、飛鳥が認識する現実であった。

「うおっ!?」

 そこに入ってきた、柔道部にでも入っていそうな大柄な男子生徒が、驚きの声を上げた。当然である。腹部を赤く染めた飛鳥と、その場で尻もちを付いている男子生徒の手にはカッターナイフ。何が起こっているかは明白であった。

「お、お前ら何やってんだ!?」

 そんな、その大柄な声に相応しい、野太い大声が、飛鳥の耳には酷く遠くに聞こえた。大柄な男子生徒が、尻もちをついている男子生徒の手を捻り上げてカッターナイフを取り上げる様を、茫然と見つめる。

「おい誰か! 先生呼んで来い! 人が刺されてるぞ!」

 トイレの外へ、男子生徒が大声を上げると、休み時間故に騒がしい外の騒がしさが、別の種類の騒がしさへと変わる。

「お前! 大丈夫か!? お前、これで刺されてるんだぞ!?」

「え?」

 その男子生徒が、飛鳥へと話しかけるが、今一事態を把握できない飛鳥は、自分の腹部と、男子生徒が右手で提示しているカッターナイフを交互に見る。

 そしてやがて、現実が十数秒のタイムラグを経て、飛鳥の脳へと到達する。

「それで、僕を……さ、し……」

 右手を、赤く濡れたシャツの腹部に当てる。鋭い痛みが走る。熱い。痛い。その強い刺激が、飛鳥の思考を徐々に混乱させていく。

「ひ、い、あ、ああああああああああああああ!!!」

 元々少し高めな飛鳥の声が、裏返って耳障りなまでに高い悲鳴となった。

「さぁっ! ささ、さされた!!! さされた!!!」

 男らしくない、なんて言っている場合ではない。自分が死んでしまうという恐怖に、飛鳥は半狂乱で悲鳴を上げまくった。

 ガクッと、膝から力が抜けて飛鳥はその場に座り込んだ。

 男子生徒が暴れる飛鳥をなだめすかそうとしているらしいが、それを飛鳥が認識することは出来ない。

「し、しぬ! しぬう!」

 飛鳥のその大声も相まって。騒ぎを聞きつけた野次馬が集まってきて。やがて授業を終えて職員室に帰る途中だった複数の先生がやってきて。飛鳥の意識は、そこでブツリとテレビの電源を落とすように、途切れることとなった。

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