ロボット少女がいる非日常(5)
ネネはロボットである。新陳代謝などあるわけが無いのであるが、外には出ているので砂埃などで表面は当然汚れる。だから、ロボットだからといってお風呂に入らなくてもいいというわけでは無い。
それであったらシャワー程度でも十分に事足りるが、ネネはついでに、という感じで湯船にもつかるようにしていた。
最初はシャワーだけで済ませていたが、一度興味本位で入ってみたら、なんとなく心地よい気がしたのだ。食べ物を食べて美味しい、という感覚を理解するかのごとく。
ちなみに言うと、ネネは完全防水である。余裕で海で泳いだりも出来るのだ。
お風呂は一人になれる数少ない機会であった。ネネだって思考する。そして、考え事をするのに、お風呂という小さなパーソナルスペースは打ってつけであった。
ネネはいくら表面的に人間に近くても、人間に関してネネに解せないことは沢山あった。それを考察する時間にしていた。
しかし、今日ほど解せないことは今まで無かった。しかも解せないのは、人間のことではなくて自分のことである。
「ぶくぶくぶく……」
湯船の中で膝を抱いて、お湯に口をつけて口から空気を吐き続ける。
ピチョン、ピチョン、と、茶髪の前髪から水滴が水面に落ちる音が妙に大きく聞こえる。
ありえない。自分のことは全て分かっているはず。自分の中を流れる冷却液の量や水圧だって分かるし、各機関の熱だって分かる。熱いところがあったら、指示を出して冷却液を集中させることだって出来る。
頭脳の回路を自己診断をしても、異常は見受けられない。むしろ自己診断システムが壊れている可能性だってある。しかしそれを疑い始めたらキリが無い。自分は正常であると信じるしかない。ロボットである故に。
「うーん……」
脚を思い切り伸ばして、上半身を反らしてみた。その外見相応に平たい胸に、肋骨を模した強化プラスチック製の骨格のシルエットが浮かび上がった。体の稼動部を司っている人口筋肉が伸び、同じ姿勢をしていて固まった関節を解す。こういうところはどこまでも人間っぽいのであった。
「くふぅっ……」
一瞬止まった呼吸を再開するように大きく息を吐いた。
少しだけ、開放感のようなものを感じた、気がする。
だけど、やっぱり思考の違和感は収まらない。それは小さな違和感である。まるでプログラムの挙動自体に影響は無い程度のバグが発生したかのような、些細なもの、のような気がする。
湯船から立ち上がった。これ以上熱を自分の方に移動させるのは、保温する電力を浪費する。さっさと上がって飛鳥とバトンタッチしなくては。
小さな両手で、無駄に柔らかいマシュマロのような頬を軽く叩いて気を取り直そとした。
「……うーん」
しかし、それでも気分は晴れない。首をかしげながら、脱衣所の棚のところにおいてあるバスタオルを取った。
――何なんだろう、この心のモヤモヤは。