ロボット少女がいる非日常(4)
「ただいまぁー?」
今日の夜と明日の朝食、お弁当くらいの分量の食材が入ったエコバッグ片手に、ネネが帰宅する。
見ると、玄関には既に飛鳥の靴が置いてあり、居間に向かうと、パソコンのところに座って棒状のアイスを咥えた飛鳥が振り返った。
「おかえり。悪いな」
「構いませんよーだ」
と。ネネはわざと少しむくれながら、エコバッグを卓袱台の上に置いた。
「……楽しそうだったけど何話してたの?」
「んー。なんか本貸してもらった。弁当の時にそういうたぐいの約束したら早速」
言いつつ、飛鳥はパソコンのマウスの傍に転がしてある文庫本のページを数ページ摘まんで開いては閉じる動作をした。
「図書室の本かと思ったけど違うんだな。四柳さん、常時三冊くらい本持ち歩いてるらしいよ」
そう言って、右手のアイスを齧る。
「ふぅん。モテモテだねえ。ネネ妬けちゃう」
「何がだよ」
先ほどから妙に皮肉っぽい口調のネネを少し不審がりながら、飛鳥はアイスを最後まで齧り、傍にあるゴミ箱に棒を放り込んだ。
「べっつにー。お夕食の準備するねー」
そう言ってネネは、居間を出て行ってしまった。
飛鳥は軽く首を傾げ、まあいいか、と先ほど瑠璃に借りた本を取った。
見たところ何の変哲もない純文学小説だった。作者も、こういう本を読んだことない飛鳥でもどこかで聞いたことがある程度の有名な作家である。
ああは言ったものの、果たして興味が最後まで続くだろうか、と思った。小説なんて。しかも、プロが書いた本という形のもの。ネットで読むのとはわけが違う。完全に畑違いの存在であるのだ。
「いやいや、やっぱり一般教養としてだな……」
思い直し。飛鳥はページを開いた。
「おにいちゃん! ごはん!」
「……うん。ちょっと待って」
一時間後。どっぷりとはまって抜け出せない飛鳥の姿があった
「冷めちゃう!」
「……先に食べてて」
「うう、おにいちゃんがダメ人間になっちゃう……」
と、わざとらしく泣き脅してみるが、飛鳥は動いてくれなかった。一般教養として必要であろうがなんだろうが、区切りを付けれない時点でダメな人確定である。
「……」
「もー! 知らない! おにいちゃんのバカ!」
「わかった、わかったよ、うん」
ネネが本気で怒りだしそうな気配を出してようやく、飛鳥は重い腰を上げた。