ロボット少女がいる非日常(2)
「どうだ? 今日のネネたんは?」
「今日も相変わらずの愛らしさです……」
「ああ、畜生……あのネネたんが孔雀蓮などという根暗野郎の妹だなんて……」
「そうだな。神は何て残酷なことをするのか。あんな奴にあんな愛らしい妹を授けるなどと……」
「美少女は皆で共有すべきだ! 独り占めすべきではない!」
「そうだ! 美少女は皆で愛でてこそ美少女たらしめる!」
「お兄ちゃんは妹を皆に解放するべし!」
「お兄ちゃんに死を!」
「「「「「全てのお兄ちゃんに死を!」」」」」
「四柳さんって、いっつも本読んでるイメージあるけど、どんな本読んでるの?」
それは、単なる気まぐれだったのかもしれないし、飛鳥が瑠璃と接点を持ちたいと思ったからなのかもしれない。少なくとも、飛鳥はこの少女とほとんど会話したことが無いのだ。
弁当を食べている時も常に黙りこくっている瑠璃が、急に話を振られて慌てている姿は、何となく可愛らしかった。
「えっ!? あの、その、えっと……い、いろんなものを、読みます……小説、とか、詩集、とか……」
「瑠璃は雑食なんだよな。ふっつーのハードカバーや何の変哲も無い文庫読んでるかと思ったらなんか萌え萌えしいのとか、裸の男が抱き合ってるやつとか読んでるしな」
「ちょ、つ、月代……!」
月代の物言いに、瑠璃は酷く焦った様子で立ち上がって抗議するが、月代は何で恥ずかしがっているのか分からない様子である。
「別にいいんじゃないのかな」
当の飛鳥も特別馬鹿にするような様子ではない。というよりも飛鳥自身、人にはあまり言えない趣味も持っているわけで、インターネットの世界に目を向けてみると、もっとどうしようもない趣味を持っている人なんていくらでも見受けられる。
瑠璃のそれは、趣味としては別に一般的だというのが飛鳥の見解である。
「何か面白い本あったら教えてよ。小説とか、アマチュアがネットに上げてるようなのしか読んだこと無いからさ」
何となしにそう言う飛鳥だが、それがある意味フラグになっていることに、鈍感な彼は気づいていない。
「は、はい……」
瑠璃は、そのまま真っ赤になって縮こまってしまった。俯き、切りそろえられた前髪の隙間から見える大きな丸メガネの奥にある黒目がちな瞳を羞恥に濡らしているのがなんというかグッと来てしまう。嗜虐心を煽られると言えばいいか。
いかんいかん、と発生してしまった変な欲望を追い払うように首を振る。
「おいおい、ウチを差し置いて瑠璃と仲良くしようと思うなよ」
と、月代がニヤニヤとした笑みを浮かべて飛鳥を牽制した。しかし、それは別に脅しているわけではなく、明らかに茶化しているのが分かる。
「う、うるせーよ」
それを飛鳥も感じ取ったのか、少し拗ねたようにそう言って、そっぽを向いた。そして瑠璃も、月代の意図を汲み取り、俯いて小さくなってしまっている。
「ま、瑠璃泣かしたら本気でウチが殺すけどな」
そういう月代の目は、笑っていなかった。口元では笑っていて、おどけるような口調であるが、正真正銘、先ほどのものとは明らかに性質が違う、本気の目だ。
「……な、なんだよ?」
その目に射抜かれて、ちょっとだけ寒気を感じてしまった飛鳥が虚勢を張ってみると、次の瞬間には月代の様子は元通りになっていた。
「行こうぜー、瑠璃」
「あ、うん。待ってよ」
弁当箱を片付け、そそくさと立ち上がる月代と、それを受けてあわてて立ち上がる瑠璃。そして、島を作るために移動させていた机を直して、立ち去ってしまった。
本当にペットみたいだなと思っていると、視線を感じて、その方向を見ると、島を解除されたことによって飛鳥と離れたところに変な方向を向いて座っている詠輝が、無表情で飛鳥を見ていた。
「……なんだよ、曽我部?」
「いやー、飛鳥ちゃんも罪な男だなーと思ってなー」
意味深な台詞を残し、詠輝も立ち上がるのであった。