ロボット少女がいる非日常(1)
翆龍学園には美少女研究会という部活動が存在する。世に存在する美少女を“遠くから見守ったり”することが主な活動であるという。
しかし、普通ならばそんなもの部活動として許されることではないはず。しかし、翆龍学園ではさも当然のごとく存在しているばかりか、全部活動中最大勢力を誇るという異常事態すら起こっている。
曽我部詠輝は、そんな美少女研究会部員75名を束ねる部長を務めていた。
日本人離れした整った容姿にスラッとしたモデル体型。どの教科もソツなくこなし、スポーツ万能で運動系部活から助っ人を頼まれることもあるらしい。
そんな万能戦士な彼を悩ましているのは、部内の派閥に関することである。
こんなに人数がいれば、当然細かく派閥が分かれてしまう。大別して漫画やアニメやゲームに登場する美少女を愛でる二次元派と、現実世界の可愛い女の子を追い求める三次元派に分かれており、度々論争が巻き起こる。
しかし、二次元派は不健康ではあるが誰にも迷惑をかけない故に問題も全く起こさない。問題は三次元派である。悪質なのが、“遠くから見守る”という美少女研究会の行動理念を理解しない、三次元過激派の存在である。過激派は具体的にアプローチを仕掛けたりだとかの行動に出ることが日常茶飯事なのだ。迷惑を被っている子も多々いるらしく、目下、詠輝の悩みの種であった。
放課後。部活に出るため、教室を出た詠輝が、五階の教室を丸まま一つ利用した部室に行くために、階段へと向かった。
ここまで大きな部活になると、学校の経営等にも影響を与えてしまう。生徒会との連携も必要。部長がすべき仕事は尽きないのだ。最近はゆっくりと美少女観賞も出来ないから困ったものだ、と、三次元穏健派の彼は思う。
ふと見ると、階段の方からやけに目立つ赤に近い茶髪の少女が出てきて、こちらへ駆けてきた。おそらくは、詠輝のクラスメイトを迎えに来たのであろう。
かわいらしくピョコピョコ跳ねるツインテールや、元気有り余って中が見えてしまいそうになってしまいそうな危ういスカートの波打ちにハラハラしながら、しかしそんな下心全く顔に見せずに、すれ違うまでしばしその女の子を観賞した。
「ふう、やれやれ。過激派の奴らの気持ちも分からんでもないね」
ひと月ほど前に突然一年生のクラスに転入してきた、人間離れした美貌を持つ少女。しかし彼女は、そのことなど歯牙にもかけない、謙虚で思いやり満点な性格を持っていた。外見でまず美少女研究会(二次元派含め)は多大な衝撃を受け、一年生部員の報告によって内面の美しさも判明するというダブルパンチによって部員たちは彼女に夢中になり、一時期統制が全く取れない状態に陥ったのである。これを“孔雀蓮ネネの乱”というらしい。
しかし、美少女は自然体が一番だと思う彼は、決して話しかけたりはしない。兄を想う妹の図。素晴らしいではないか。彼女こそ萌えの究極体であろう。
ひと月経ってだいぶ熱も収まったかのように思われるが、一部、特に過激派では未だに危ないことが考えられているらしい。詠輝は過激派に対する監視を強化し、校長に進言して、彼女に手を出したら処罰、という異例の処置を取らせた故に、今のところ危ういところであるが平穏が保たれている状態である。
しばらく彼女こと、孔雀蓮ネネの小さな後ろ姿を見送った後、詠輝はため息をついて階段を上りはじめた。
孔雀蓮飛鳥が妬ましくない、と言えば嘘になる程度は、彼が羨ましかった。穏健派の中の穏健派の彼がこんな感情になるほど、孔雀蓮ネネが美少女研究会に与えた衝撃は、凄まじいものであった。