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ロボット少女がいる日常(11)

 マンションの廊下を、和飛は多少フラフラと覚束ない足取りで歩いていた。

 久々に会った恩師である翆龍学園校長と繁華街に飲みに行った帰りである。

 もうそろそろ日付が変わろうという時間であるが、和飛は迷わず飛鳥の部屋へと向かっている。相変わらずの家主の迷惑など考えてなどいない。

 強制的に徴収した合鍵で鍵を開けてドアに入る。

「あらあら。お帰りなさい和飛さぁん。ご飯にするぅ? お風呂にするぅ? それとも、あ、た、しぃ?」

「……椎葉にするよ、マイハニー」

 部屋の奥から出てきてそう言った椎葉を見て、和飛はちょっとだけ顔をにやつかせながら椎葉に手を伸ばした。瞬間、その表情が鮮烈なまでの苦痛に染まる。

「イタタタタタ! ギブギブギブ!」

 その手を強く握り捻り上げ、あっという間に一飛を行動不能にしてしまう椎葉。鮮やか過ぎる手つきである。

 どうやらかなり慣れているようだが、それは当然と言えば当然だろうか。常々、暴走する一飛を椎葉が笑顔で締め上げるのを、飛鳥は幼いころから見ていたりする。

「何がマイハニーですかっ! あんなにテレビの中の女の子とばっかり遊んで! しかも、何ですか、あのベッドの上に置いてあった水着を脱ぎかけている女の子の絵が描いてある抱き枕は! いつの間にあんなものを買ったんですか! あんなものを抱くぐらいなら私を抱いてくれたっていいじゃないですか!」

「そ、その発言はまずい! 情操教育的にまずいぞおおおお! う、腕がああああ!」

「私は見ましたよ! 一飛さんが、四つんばいになっている女の子のお人形のおまたの部分を指で撫で擦っているのを! 実物が身近にあるのに何が不満なのですか!」

「だ、だから、そんな発言は慎みたまえ! 君は淑女としての恥じらいと言うものが足らん!」

「アナタに指摘される筋合いは全くありません!」

 正論である。どこまでも、椎葉の主張は正論である。和飛に恥じらいを持てと言われるということは、泥棒に泥棒はいけない行為だと説教されるのと同じことである。

「う、うおおおおおああああアッー!」


 玄関先で行われているご近所迷惑極まりない壮絶な夫婦喧嘩をよそ目に、飛鳥はネネとテレビを見ながら夜の安らぎの時間を過ごしていた。家主は自分なのだから、近隣住民にあまり白い目で見られるようなことはしてほしくない。

「この芸人、いつまでもつと思う?」

「この手の人は子供にしかウケないからね。多分キメ台詞が流行語大賞にノミネートされちゃうだろうから、そうなってくると過去のデータを参照しても、結構高い確率で来年の今頃は干されてるだろうね」

 言って、ネネは卓袱台の上のビスケットを一つかじった。どこの評論家だと言わんばかりの意見である。

 その時、居間のドアが開いて、一度外れて入れられた腕をクルクル回しながら、痣だらけの顔の和飛が出現した。その後ろに、一通り文句を言って暴力に働きかけたらスッキリしたのか、晴れやかな笑みを浮かべた椎葉がついて入ってくる。

 飛鳥がジトーッと和飛の事を見ていると、和飛はさもバツの悪そうな表情をして後頭部を掻いた。

「その……なんだ」

 言って、ヒビが入ったメガネをクイッと人差し指で正した。

「何事も、ほどほどにな」

 と、諭すように呟いた。何事もほどほどにすることが出来なかった男が言うのだから、正しいのだろう。

「大丈夫。僕は父さんみたいにならないよ」

 和飛の反面教師としての才能を再確認した飛鳥であった。

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