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序章:風と自由

45口径の芸術家さん、お待たせしました。


ですが、今回は伯爵を主人公にガブリエルは前章と終章にしか出ないので、お気に召すか分かりません。(汗)


でも、伯爵の過去なので、楽しめるとも思います。(矛盾していますが)

俺は一人、マルセイユの丘に建てた自宅の家にあるバルコニーから風を受け止めていた。


「・・・何時になっても、ここから吹く風は変わらないな」


煙草に火を点けながら、俺は目を閉じた。


目を閉じると、声が聞こえてくる。


『自由になりたい。鳥のように翼を広げて、大空を駆け巡りたいの』


あいつは俺にそう言った。


今でも覚えている。


あいつは自由を渇望し、空に漕がれていた。


それは生まれ持ってしまった足が不自由だから尚更だろう。


あいつは両足が動かない。


だから、この家で何時も外の景色を眺めていた。


そして空を自由に飛びまわる鳥たちを羨望と憎悪の眼差しで見ている。


そうする事が精いっぱいだったと思う。


そんな時に俺はあいつと眼が合った。


偶々、道を歩いていた所で目が合ったのだ。


澄んだ瞳は、空色で流れるような金髪は太陽を表しているように見えた。


まさしく空を描いた一枚の絵画のような女だった。


あいつは俺を何処か羨ましそうな眼差しで見てきた。


それが妙に俺を苛立たせた事も覚えている。


俺は他人に羨ましがられるような存在ではない。


寧ろ嫌悪される存在だ。


これが昔の俺だった。


だからそんな羨望の眼差しが嫌で堪らなかった。


夜を忍んであいつの寝室に侵入した時は、殺そうとさえした。


理由なんて簡単だ。


あの羨望の空色の眼差しに胸糞悪くなっただけだ。


忍び込んだ俺を見てもあいつは悲鳴一つ上げなかった。


あいつは俺が向けた銃を見て、笑顔になりやがった。


これから死ぬかもしれないのに。


どうしてか若かった俺には分からなかった。


だが、今なら解かる。


『自由になりたかった』


きっとずっとこの暗闇の世界で生きて来たに違いない。


だからこそ死んでからでも良い。


せめて、外の世界に出たかったのだろう。


それが俺には・・・逆に羨ましかった。


死んでも望みが叶えられるならどれほど良いものか・・・・・・・・・・・・


俺には望めない。


死んだとしても、俺の望みは叶う事はないだろう。


死んだ所で、死んだ者が生き返る訳ではないんだ。


俺は引き金に指を掛けていたが、彼女の暗闇でも澄んだ瞳に惹かれて、引けなかった。


まったく、つくづく俺と言う男は女の眼に弱いと思う。


特に彼女のように汚れが一つも無い瞳には太刀打ちできない。


引き金から指を放した俺を彼女は、残念そうに見てきた。


そんな顔をするな。


お前を大空へと連れて行ってやる、と俺は言ってやった。


あいつはえ?と目を見張った。


俺はもう一度、言ってやった。


『俺がお前に自由をくれてやる』


お前が望む物を全てくれてやると言った。


あいつの眼の前に右手を差し出した。


さぁ、手を取れ。


俺の放った言葉にあいつは手を差し出した。


だが、俺は言った。


『俺に掴ませるな。お前自身の手で自由を掴め』


自由になりたいなら、それ相応の覚悟を決めろ。


俺はそう付け加えた。


何事にも代償は付き物だ。


俺は自由を与える。


だが、それは危険と言う代償が付く。


それでも自由に漕がれるなら手を取れ。


そうすれば自由を与えてやる。


あいつは自らの手を俺の手と重ねて握って来た。


弱々しいが自分の意志が伝わって来る。


『私に・・・・自由を下さい』


真摯な眼差しを俺に向けて、彼女は言った。


俺は握り返して頷いた。


『約束は護ってやる』


俺はあいつに笑みを浮かべて言ってやった。


あれから既に数百年の年月が経った。


もうあいつも居ない。


今は空を飛んでいるに違いない。


きっと、その澄んだ瞳を何時も輝かせて空を飛んでいるに違いない。


俺と居たよりも自由であったに違いない。


「今は何処に居るんだ?」


俺は風に訊ねた。


お前は何処に居るんだ?


風が吹いて、俺の被っていた帽子を飛ばそうとした。


それを手で抑えると、耳元に優しい声が聞こえて来た。


『何時までも・・・・何時までも、貴方の傍に居ますよ。私は貴方と何時までも共におります』


「・・・そうか」


俺は、帽子を深く被り直して呟いた。


風は俺を優しく抱き込んでくれた。


温かく、まるで母親に抱き締められた感じだ。


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