家にGが出たから引っ越すと言い出した友人の説得を試みた話
※注意 タイトルの通り基本的にGのことしか書いていません。なるべく彼らの魅力が伝わるように心がけておりますが、苦手な方は無理せずブラウザバックしてくださいませ。
本日、金曜日の終業直後、懐かしい番号から電話がかかってきた。
「ねこちゃん久しぶり~!!」
「……ゴキブリが出たの?」
「……なんでわかったっ!?」
それは、あなたから連絡がある時は毎回ゴキブリ絡みだからだよ。
「うわああん、部屋にね、出たのっ!! 今の部屋で初めて!! もう駄目……部屋に入れないし引っ越すしかないよね?」
「……野宿でもすれば? じゃあ忙しいんで」
「酷い、友だちでしょ?」
大事な金曜の夜を奪われたくはないし、そもそも友だちだと思ってない。それに連載小説を書かなきゃならないんだからね。
「お願いっ!! 他に頼れる人いないの」
「ご自慢の彼氏に何とかしてもらえば?」
「アイツがヤツに勝てるとでも?」
「……無理だね」
そういや蜘蛛見てガチ泣きしたんだった。さすがの私もドン引きするレベルで……っていうかまだ付き合ってたのか。
「とにかく行きませんから」
「待って、ご飯奢るから!!」
「……デザートは?」
「もちろん付けますとも」
「……話を聞こうか」
コイツ……なまじ付き合いが長いだけに私のツボを押さえてくる。まあ……仕方ない……エッセイのネタくらいにはなるかもだし。
最寄りの駅で待ち合わせ。彼女の家が職場からめちゃ近いのでOKした面もある。
「で? 大きさと数は?」
「超巨大なのが一匹」
「ふーん、ならたぶんイレギュラーだと思うよ」
「ど、どこから入ったんだろ……侵入経路塞いであるはずなのに」
「え? 普通に玄関から入ったんだと思うよ」
「招いてませんけどっ!?」
「彼らを舐めちゃ駄目だよ、ドアを開けた瞬間に気圧差で空気の流れが発生するんだけど、その気流に乗るようにして、一瞬で室内に滑り込む。入る前に待ち伏せされていないか確認する癖をつけるのが一番だけど、怖いならスプレー吹き付けておくと良いんじゃないかな。宅配とか置き配経由でも入ってくる可能性あるし」
そうこうしている間に部屋に到着。鍵だけ開けてもらって私が様子を見ることに。とりあえず目撃情報を元に探してみようと思ったら――――普通に遭遇。
「ね、ねこ……? 大丈夫?」
「うん、もう捕まえたから逃がしてくるね」
「へ? ぎゃああああっ!?」
素手で持ったわけでもなく、ちゃんと袋に入れたのに大袈裟な……まあ……ビニール袋だから少し見える――――いや音が駄目なのか。
「両方だよっ!?」
友人宅からそれなりに離れた森にリリース。土や落ち葉がある場所に逃がしてあげれば、彼らはそこで森の掃除屋さんとしての本来の使命(生態系を支える仕事)に戻ることができるかもしれない。
「ありがとう、助かったよ。でも気持ち悪いからやっぱり不動産屋さん行こうかな……」
「どこに逃げても100%遭遇するから無駄だよ。それにゴキブリじゃ解約の理由にならないし、違約金やら引越し費用やらで数十万かけるくらいなら、数千円で防衛対策した方が絶対良いって」
引越しのデメリットを熱弁したら、とりあえず引越しはやめることにしたらしい。絶対その方が良いと思う。今の部屋、結構イイ感じだから勿体ない。
でも、毎回呼ばれるのは……正直面倒くさい。
「っていうかなんでゴキブリそんなに嫌いなの? わりと可愛いと思うけど」
「逆に可愛い要素一ミリもないと思うんだけどっ!?」
はあ……まったく、これだから一般人は。
「仕方ないな、そこまで言うなら聞かせてあげるよ、彼らのことを」
「いや、まったく聞きたくないんですけどっ!? ご飯食べに行こうよっ!?」
そんな彼女の都合など無視して、私はゴキブリの魅力を語りだす。
「そもそも不潔なイメージだけどね、実は昆虫界屈指のキレイ好きなんだよ。
暇さえあれば毛繕いするんだから。 ゴキブリは1日の大半を、自分の触角や脚をペロペロと舐めて掃除しながら過ごす。これってほぼ猫じゃん?」
彼女が何か言いたそうな顔をしているが、無視して続ける。
「たとえばクチキゴキブリなんかは、オスとメスが出会うと、お互いの羽を噛みちぎり合って、もう二度と他のところへ飛ばないという誓いを立てて、一生を添い遂げるんだよ、めっちゃ一途だよね。夫婦で協力して巣を作って、生まれた子供たちに自分の腸内細菌を分け与えながら、大切に育てる。まるでペンギンみたいにね!!」
なぜかとても嫌そうな顔をしているので、さらに追加する。
「犬は飼い主の手からおやつをもらうのが大好きでしょ? ゴキブリも人間に慣れると、手のひらの上で完全にリラックスして、手から直接エサを食べてくれるようになるんだよ。敵意がないと分かると、犬がトコトコと近寄ってくるように、人の手に向かって歩いてきてちょこんと座るのが結構可愛い。実質、ミニチュア犬って言っても良いと思う」
少し涙目になっているね。もしかして感動しちゃった?
「犬は嬉しいとシッポをちぎれんばかりに振るじゃん? 彼らも触角をフリフリするんだよ。ゴキブリは昆虫の中でも脳が大きくてね、学習能力と記憶力がめっちゃ優れてるの。優しく話しかけるときの声のトーンとか、敵意のない穏やかな空気の振動を、彼らはセンサーでちゃんと受け止めているんだよ。だから触角を「ピコピコ」「フリフリ」と小刻みに動かすのは、空気の振動や匂いを一生懸命に嗅ぎ取ろうとしているサイン。犬が耳をすませて、飼い主の言葉を聞こうと首をかしげる姿にそっくりでしょ? それに、犬はお互いのお尻のにおいを嗅いでコミュニケーションを取るけど、ゴキブリも仲間を識別するだけじゃなくて、大好きな人間のにおいも記憶するんだよ。犬が飼い主の靴下のにおいで安心するように、彼らも大好きな人や家族のにおいがする場所にいると、非常にリラックスして落ち着くことが研究で分かってる」
ヤバい、いつもの悪い癖で喋り過ぎた。そろそろまとめないと。
「実際に、世界中でペットとして飼われているゴキブリもいるからね? マダガスカルゴキブリとか名前もなんか可愛いでしょ。こうしてみるとさ、ゴキブリって人気ペットの可愛いところを凝縮した究極の生き物に思えて来ない?」
「……いや、全然」
「えっ!? でも好感度少しは上がったでしょ?」
「う、うーん……マイナス1000がマイナス980くらいにはなったかも」
少しは効果があったらしい。
その後――――サイゼに行き、ラムのステーキとティラミスをご馳走になりながら、ゴキブリが居なくなったら一日で地球が危うくなるとか、食糧危機を救う可能性とか大切な話を聞かせました。近くの席にいた方、食事中にごめんなさい。
余談であるが、彼女の登録名はGちゃんである。バレたら発狂しそうなのでもちろん秘密だけれど。
「ねえ、カレー味のゴキブリとゴキブリのカレーどっち食べたい?」
「どっちもゴキブリじゃんっ!?」
「チッ、誤魔化されなかったか」
ちなみに、お味の方ですが……エビやカニなどの甲殻類と分類学的に近いため、油で揚げると川エビの唐揚げとかフライドチキンに似た香ばしい風味になるそうですよ。私は全力で遠慮したいと思いますが。
願わくば彼女とゴキブリさんの平安のためにもう出会うことがありませんように。
勢いだけで書いたエッセイを読んでくださりありがとうございました。というわけで、明日の連載更新はお休みです。良い週末をお過ごしくださいね。それではおやすみなさい~。




