おいしいけどもっとリラックスして食べたい。
……すみませんでした。
がんばります。
若い……かな?
それが、第一印象だった。
「ようこそ異界の者よ。余はイルシェーメ・アヴェ・ユクス・トリスティア。トリスティア国第20代国王である。此度は突然の召喚により不自由をさせたこと、申し訳なく思う」
堂々とした、力強い言葉だった。なるほど、この人が王様なんだな、と相対するものに納得させる力がある。いわゆるカリスマってやつだろうか。深い青の上着がそれを増している気がする。
「私からも謝罪を。突然の御呼び立て申し訳ありません。私はアリステル・ユール・トリスティア。当国の王妃ですわ。よろしくお願いいたしますね」
こちらは儚げな美人だ。この人が王妃様……お姫様、といった方が雰囲気には近い気がする。アベさん(陛下)の薄青よりも更に透明な色。アベさんが冬の空ならテルさん(王妃様)は凍った川のような髪の色をしている。その色が、儚さに拍車をかけているのかもしれない。おっとりとした顔が、わずかに緊張で歪んでいた。おそろいの深い青のドレスが印象的だ。
「お初にお目にかかります。私は結崎紗那と申します。ええと、その……可能な限り早く送り返していただけたら、それで結構です」
オブラートに包もうと思っても包みきれず、本音が駄々漏れになってしまった。いやー、まあしかたないよね?諦めたはずだったけど意外と不満が溜まってたみたいだし。ワタシワルクナイ。
私の言葉にアベさんが「努力しよう」と政治家のような答えを返したところで、席に案内される。こうして、三人の食事会が始まった。
食事会はまずまず平和な始まりだった。見た目と味がそぐわないことは多いけど、味はどれもおいしい。さすがは王様の食事って感じだ。……毎日こんなの食べてたら太りそうだけど。赤身魚のカルパッチョにじゃがいも風味のスープ。ローストビーフ(牛じゃないかもしれないから、ローストミート?)にナッツの入ったドイツパン。肉汁さいこー。クルトンうまー。パンかてー。そんな感じ。でもやっぱりちょいと塩気が足りない。ひょっとしたらあんまり塩が取れない国なのかも。
食べている間は、アベさんがこの国の特産品がクルージュ(スープの材料らしい)だとか口に合うかとか不自由させて申し訳ないとか当たり障りのないことを話していた。テルさんはそれに時々微笑んで相槌をうっていた。私はクルージュおいしいですねとか大丈夫ですとかいえまあいいですとか当たり障りのない言葉を返した。
そしてイチゴ的な味のフルーツがはさまれたクレープと紅茶的な飲み物が出されたとき、とうとう本題が出てきた。
「ところでユウザキ殿は向うではどのような生活を?」
一瞬だけ、場が静まった。
すぐに元に戻ったけど、何が聞きたいのかはそれだけでうかがい知ることができた。ようするに見極めたいのだ。使えるのか使えないのか。どうしたら言うことを聞かせられるのか。
とりあえず当たり障りのない答えをと思って、私はそんな意図にまるで気づいてない風を装って答えを返した。聞き流すのとか得意なんですよねこちとら。
「そうですね……私の国では多くの人が18になるまで学生として過ごします。私も、毎日学校に行って言葉や歴史を習っています」
「18まで?それはすごい。我が国では学校に行くものはあまり多くない。せめてもう少し敷居を低くしたいとは思っているのだが、なかなかうまくいかぬ」
「そうですね。私の世界でも、他の国では学校に通えない子が多くいます。私は恵まれているのでしょうね。普段は意識しませんが」
「当たり前のことを意識するのは難しい。ユウザキ殿が気にされることではあるまい」
「そういっていただけるとありがたいです」
「学校に行かれる以外は、どんなことをなさっているのですか?」
突然、テルさんが話しを振ってきた。今までほとんどしゃべらなかったからちょっとびっくりした。こっちの世界の話に興味があるんだろうか。
「そうですね……友人やペットと遊んだり、旅行に出かけたり、物を作ったり、ですね。」
「物を作ることがお好きなのかな?」
「ええ。木の板を掘って色々なものを作ります。といっても、素人の独学なので大したものは作れません」
「あの、ペットとはなんですの?」
テルさんが困り顔で聞いてきた。ひょっとしたらこっちにはペットっていう概念がないんだろうか。
「家畜はいますよね?動物を、食べるためでなく、一緒にいるために飼育するんです」
「まあ。伯父が伝書鳩を我が子のようにかわいがってらっしゃるけど、似たようなものかしら?」
「ええ。それであっていると思います」
たぶん。役立てるために飼うわけじゃないからちょっと違う気もするけど。
テルさんは「まあ、そうですの……」と目を瞬かせた。しかし意外と話すなあ。最初の印象は静かに佇んでる人だったのに、今は好奇心旺盛な女の子だ。猫かぶってたのかもしれない。猫、いいなあ。ウサギの次に好きだなあ。にゃー。
癒しを求めて意識が逸れる。よく考えたらしばらくアリスと会えないんだよなあ……あれ?死亡フラグじゃない?私アリスなしで生きてられるのかな。かなり自信ない……
エクトプラズムを発しそうになった。ぎりぎりの所で踏みとどまれたのは、気を抜けない場面で緊張が一応続いていたからだ。危ない危ない。いきなり死ぬのはさすがに失礼だよね(そういう問題じゃないけど)。
その後もいくつか質問され答えを繰り返したけど、そんな精神状態だったから、どんな話しをしたのか、どんな答えを返したのか、部屋に帰りついたときにはほとんど記憶がなかった。まあでも多分、当たり障りのない答えを返したんだろう。私のことだから。
部屋に戻って一人になって、ベッドに飛び込む。ふかふかでやわらかい。ほのかに暖かいのは、湯たんぽでも入ってるのかもしれない。あるいは魔法というやつなのか。
「結崎殿には魔法の才があるのですから、想像するだけでいいのですよ」
テルさんのそんな言葉が、頭を過ぎった。
さっきの食事会で言われたのだろう。ぼけっとしてた私はその言葉になんとなく誘われるように、右指を一本立てて、そこに何かが集まるイメージをする。
「火」
ボッ
こぶし大の大きさの赤い火が一瞬で立ち上った。
「あつっ!?」
驚きで身を起こすと、また一瞬で火はなくなってしまった。でも、今起こったことが夢ではない証拠に、私の前髪の一部が、ぷすぷす焦げ臭いにおいを発していた。
イメチェン、決定。
ということで数ヶ月ぶりの投稿となりました。
卒論書いたり卒業したり就職したり引越ししたりいろいろありましたが元気です。これからも月1目指して頑張ります。