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いや、人違いですから!

 闇に抱かれながら、ふと、昔を思い出していた。

 昔。兄に、家から少し離れた所にある小高い山の麓にある、大きな森へ連れて行ってもらった時のこと。




「お兄ちゃん、ここで何するの?」

 何でつれられてきたのかもよく分からないまま、私はそう呼びかけた。そういえば昔は「お兄ちゃん」と呼んでいたっけ。こっぱずかしい。

「ちょっとサバイバルを」

「さばーばる?」

 そのころは、兄がそういうの(・・・・・)に嵌りたてだったこともあって、よくわかってなかった。ただ、兄の眼がきらきら輝いていたから、とりあえず何か楽しいことなんだろうな、とだけ思った記憶がある。

 お父さんも母さんも出張が重なって、初めての二人で一日以上の留守番だった。兄は前々から計画していたのか、たまたま思い立ったのか、学校が終った後、私を連れて森へ来たのだ。私はお気に入りのハンカチ以外何も持っていなかった。兄はぺティナイフと鍋、マッチ、ビニール紐、一冊の本しか持って行かなかった。それで夜ごはんと朝ごはん、昼ごはんまでどうにかしようと考えていたらしい。アホだ。


 結果を言うと、ものの見事に失敗した。

 食べ物が見つからなかったのだ。


 兄が持ってきてた本には食べられる雑草とキノコについて書かれていた。それを元に二人で探すのだが、全然分からない。どれも同じに見えるし、どれも違って見える。おまけに暗くてよく見えなくなってくる。

 最初は楽しんでいた私も、一時間もしないうちにつまらなくなってきた。疲れも出てきた。そのとき私はまだ小学三年生だ。無理があったと言うのが正しい。

 しかし兄はこんなときだけ諦めが悪い。そして、頑固だ。

 結局、帰ろうと言う私の言葉は受理されず、見つけた小さな川のそばで、食べられそうな雑草を少しと小魚を二匹だけ、どうにか起こした火で煮て食べた。雑草は青臭くて噛み切れなくて、全然おいしくなかった。魚も骨が硬くておいしくなくて、お腹が空いていたけど残してしまった。兄は私が残した分も全部食べた。

 水を掛けないで火を消して、寝っころがった。地面はじとっとしていて、少し気持ち悪かったけど、それよりも何より、私は木々の間から覗く黒い空に釘付けになった。


 キラキラと一面に星。


 ちょうど開けていて、空がはっきりと見えるところだった。

 いつもはもう少し紺色な空は真っ黒で、いつもは空にポツポツとしかない星はわっさりあった。天の川を初めて見た。流れ星をいっぺんに三つも見た。今まで名前しか知らなかった星座を教えてもらった。土は温かくて、風はひんやりとして、川と草のさらさらとした音や、虫や鳥の遠くで鳴く声が気持ちよかった。私の森の記憶は、黒だけど優しい、心地いい所になった。

 よく考えたら野生動物に襲われなかったり、毒虫にかまれたり、毒物を食べたりしなかったのは運がよかったとしか言いようがない。朝には大人しく家に帰った兄もそれは分かったらしく、それ以降、サバイバルの知識を仕入れては「修行」と称して一人で試しに行くようになり、私を連れて行くことはほとんどなかった。私は、安心すると共に少し寂しさを感じ、夜の森への憧れも捨てきれなかったのだが、一人で夜に出歩くことに抵抗を覚え、ベランダや庭で星を眺める程度だった。


 闇に抵抗はなく、むしろ心地いいものとして私を包んでくれる。

 しかしさすがに……


「いきなりはひどくない?」

 そうつぶやく自分の声で、目が覚めた。気を失っていたらしい。

 白が目を刺す。

 いきなり闇から明るいところに連れてこられて、目がついていかず瞬きをする。うう、しばしばする……ん?


 ガバッと身を起こす。人、金、白、青、緑……目に飛び込んでくるのはありえない色、光景。

「ここ、どこ?」

「勇者様!」

 意味が分からない。



◆◆◆



 白い石畳の、神殿のような所。広さは二十畳くらい?人が多くてよく分からない。そう、人がたくさんいる。十五人くらいかな。しかもなぜか全員外国人だ。顔立ちからするとイタリアとか、そのあたりだろう。ところで金髪、銀髪、茶髪以外に水色とピンクがいるんですけどどういうこと?染めてるの?染めてるにしては自然な色なんですが。あとオッドアイ?ってやつの人が二三人いるんですが。服装が時代遅れもいいとこって言うか、絵画とかでしか見たことないような服ばっかりなんですが。その人たちが私をガン見してるんですが。はっきりいってめちゃめちゃ怖い。いったいどういうことなの?


 あ、そうか。

「夢か」

「え?」

 目の前に座っている小さな少年が何かつぶやくが、聞こえない。

「瑞希が変なことばっかり私に教えるから、こんな変な夢をみたのね」

 ということは……もっかい寝れば次目覚めたときは現実かなあ?夢の中で寝るってのも変な話だけど。

「ミズキ?夢?えっと、あの……」

「とりあえず寝よう」

 隣にあったトランクを引き寄せて頭を乗っける。ごつごつする。寝づらい。リアルな夢だなあ。どうせならふかふかの布団の上で寝たいよ。

「ね、寝ないで下さい勇者様!!お願いです!私たちを助けてください!!!」

 耳元で叫ばないでくれますかボク。寝れないでしょう。

「寝ないで下さいって言ってるんです!ほら、起きて!僕の話を聞いてください!!」

 ぐわんぐわんと肩を揺すられる。ちょ、見た目以上に力強い……!

「ちょっと、きついからやめて……」

「話を聞いて下さるならやめます!」

 卑怯な……!

 しかしこのままじゃあどうしようもない。私はしぶしぶながら体を起こして、その場に座った。少年も揺するのをやめてくれた。それでもちょっと頭のぐらぐらは残った。

 う~、さっさと聞いてさっさと寝よう。

「で、話って?」

「あ、はい!勇者様に、私たちを救ってほしいんです!」

 まさかの電波さんですか。

「人違いです。私はゆうしゃなんて名前ではありません。初めてあった人を助ける義理もありません」

 とりあえず早口でそうまくし立てる。こういう相手には、とりあえず自分の意思をしっかりと伝えておくことが肝心だ。実体験に基づく確信。まあ、なぜか無視されることも多いのだけど……「ツンデレはいいから」とか「紗那の気持ちは分かってるよ」とか、意味不明な言葉で押し切られるのはどうしてだろう。私の人権はどこに?

 少年は目をぱちくりさせた後、首を傾げる。かわいらしいのに背筋が寒いのはどうしてかな?

「いえ、あなたは勇者様です。この召喚陣によって呼び出されるのは"勇者"となれる人物だけですから」

 ああ、曇りのない目。そして私が勇者じゃない、と言った部分にしか反応しないのか。後半は無視ですか。そして召喚陣って、それは私が座り込んでいる青い線で書かれたよく分からない模様の羅列のことでしょうか。

 聞きたいことが多すぎて、何から聞いたらいいのか分からない。しかしコレだけは譲れない。

「だから、ゆうしゃじゃありません。私は結崎(ゆうざき)です」

「え?ああ、ユーザキ様と仰るのですね。

 申し遅れました。私はリーン・トマ・ツヴァルでございます。此度は突然御呼び立てしたこと御容赦下さい。勇者様」

 膝立ちで両手を胸の前で組み、頭を下げ、かなり丁寧な口調でそう述べたマツバ君(仮)。

 ゆうしゃは否定してくれないのかい。ってか……ゆうしゃって、やっぱり勇者か?瑞樹が常日頃話題に出してくるRPGとかラノベとかでよく出てくる単語の、あの勇者なのか?


「実は今、私たちの国は滅亡の危機に瀕しております。魔王と呼ばれる者が収める西の国から侵略を受けようとしているのです。

 相手の力は強大であり、我々だけの力では到底太刀打ちできません。

 そこで、勇者様にはその素晴らしい御力によって我が国を救っていただきたいのでしゅ」


 あ、噛んだ。

 マツバ君の耳が真っ赤になってふるふる震えている。周りの人間も一部、肩を震わせている。あ、一人後ろ向いてる。

 ちょっと絆されそうだ。

「あのう」

「はい!引き受けていただけますか勇者様!!」

 ぐ。キラキラとした目を向けやがって……負けるな私!

「私にはそんな大層な力はありませんので無理です。喧嘩が強いわけでも超能力があるわけでも悪知恵が働くわけでもなく、ごくごく普通の女子高生ですので」

 そういうのは兄とか瑞樹とかフジツボとか理子とかに任せてほしい。きっとどんな相手でもどうにかしてしまうから。

「大丈夫です。勇者様が気づかれていないだけで、勇者様には素晴らしいお力があります!僕たちを救って下さい!お願いします!!」


 ああ、もう、まったく。

 どうして私の周りは人の話を聞かない連中ばっかりなんだろうね?

マツバ君登場。ショタ好きにはたまらない感じです。

何でマツバなのか。彼の名前を一息に口に出してみると分かってもらえると思います。

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