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始まりは闇の中

 今日は、いつもどおりの一日だった。

 朝起きて、学校に行って、授業を受けて、友達とおしゃべりして。いつもどおりの、普通の一日。ああ、なんて素敵な日だろう。普通万歳。普通最高。普通こそ我が人生。

 普通ラブ!と叫ぶと某普通でない人に被ってしまいそうなので言わないが、そう言いたいくらいに私は普通が好きだ。どうして普通がいいと思うようになったのか、と言われると、普通でない事情を話さなくちゃいけないので割愛。どうでもいいっしょ。うん。


 家に帰って、普通だった幸せな今日を振り返りながら自分の部屋に入る。ありふれている普通のセーラー服を脱いで、部屋着に着替える。白地に赤で意味の分からない英語がプリントされたTシャツの上に淡いピンクのパーカー、黒の短パンは、この間の誕生日に兄から貰ったものだ。兄はセンスがよくて、こういうかわいいけどかわいすぎない、私の好きな服装を熟知してそういったものを買ってくるのだから始末が悪い。貰ったからには着たくなるじゃんか。兄が買ってる姿は普通じゃないように思えてあまり想像したくないのに。

「おー、帰ってたのか。お帰り」

 リビングでは、兄がソファに座ってテレビを見ていた。膝には我が家のアイドル、アリス(ウサギ。母命名)がいた。ウサギにしては珍しいらしいが、アリスは膝の上が好きなのだ。いや、珍しくない。普通です。というか、可愛いからどうでもいい。うん。"可愛いは正義"とはよく言ったもんだ。

「アリスーおいでー」

 ソファに腰掛けながらアリスに呼びかける。ああ、可愛いなあ~……真っ白だけど、耳の先だけちょっと黒いところとかすごく可愛い。目がくりくりしてて、こっちをみてぱちぱち瞬きしてるところとかすごく可愛い。手とかふにふにであったかくてすごく可愛い。癒されるなあ……

「おーい。お兄さんの言葉は無視かー?」

「ただいま兄」

紗那(しゃな)、もっとこう心温まる呼び方をだね」

 あー、アリスは可愛いなあ。ラブだなあ。もふもふだなあ。

「無視ですか……」

 兄の膝から私の膝に移ってきたアリスにメロメロになっている私の耳に、兄の声は届かない。ちょっと眠そうな感じがまたいい。ちょこんとした尻尾がラブリー。幸せな暖かさが膝からじんわり伝わってくる。ちっちゃいなあ。可愛いなあ。


 アリスを撫でながらテレビに目を向ける。夕方のニュースが終わるところだった。この後のドラマは一応チェックしている。女子高生なら普通見ているドラマらしいから。大学生の女性が、同じ大豆製品研究会の仲間の男と、近所の"お兄ちゃん"である会社員の男に挟まれてどっちを選ぶか迷う、ありがちな三角関係のドラマ。恋愛がどうなるかは正直どうでもいいが、大豆製品研究会の動向は気になる。前回は大豆製品研究会がライバルである絹豆腐愛好会に勝負を挑まれて、苦戦を強いられているところで終わった。絹豆腐の素晴らしさを洗脳によって審査員に伝えていた相手に主人公たちがどう立ち向かうのか、今週はかなり興味がある。

 ニュースが終わった。森が映る。ミネラルウォーターのCMだ。森かあ。最近行ってないなあ。小さいころ兄に連れられてサバイバル訓練に……いや、森林浴に行ったときのことを思い出す。森、好きなんだよね。普通に行くのであれば。

「あ、そういえば」

 唐突に兄が口を開いた。

「紗那。旅行の用意しとけ」

「は?」

 いきなり何を言い出すのだこの兄は。どこかに行く予定なんて……ない、よね?多分。ちょっと自信がなくなってきたけど。

「いや、必要になりそうな気がすんだよね。何だかさ」

 意味が分からない。

 けれど、こういうときの兄の勘は当たる。ものすごく当たる。お母さんがいきなり「マダガスカル行くわよ!」と言って数時間後に連れ去られたときも、兄のおかげで事前準備が出来ていた実績がある。それから、抜き打ちテストも予言してくれる。おかげで赤点を免れたこと幾数回。無視できないんだよね。

「……今回は、どこかな」

「さあ。俺は連れてかれる心配ないけど、お前は確実に連れてかれるだろうから、まあ、頑張れ。お土産楽しみにしてるぞ」

 これだから受験生は。

「どうしてお母さんはいつも唐突なのかな。事前に連絡してって言ってるのに」

「まあ、母さんだからな」

 それで済んでしまうところが母の母たる所以だろうか。普通じゃなくて嫌なんだけど。

 仕方がない。ドラマは諦めよう。下手したら夜にでも連れて行かれるかもしれない。

「今日、お母さんいつ帰ってくるって?」

「九時過ぎるってさ。夕飯は俺だ」

「夕ご飯何?」

「とんかつだ。ミルフィーユ仕立て」

 又の名を貧乏仕立て。しかし安くてうまい。中心にチーズを入れれば、サクッとした衣の中からジュワリと肉汁が染み出し、さらにトロリとチーズが溶け出て最高である。想像したらよだれが出てきた。

「じゃ、ちょっと用意してくる」

「おー。ファイトー」

 人事だと思って。人事だけど。




 三日分の着替えとパスポート、お風呂道具一式に歯ブラシセット。暇つぶし用の本を一冊、趣味用に彫刻刀も。お金少々。一応ノートと鉛筆。そして忘れちゃいけない調味料一式とサバイバルセット(兄特製)。

 下手したらジャングルに連れて行かれる可能性もある。無人島の可能性だってある。調味料とサバイバルセットはこの旅行を無事終えるために欠かせない存在なのだ。使わないに越したことはないのだけど。確率は半々だもんな……

 大体の荷物をつめ終わったところで、ノックの音がした。

「紗那ー?」

 がちゃりと兄が部屋のドアを開けた。私は迷わず手元の石鹸をとって投げた。

「うわっ、いきなりものを投げるな。危ないだろう」

 そういって易々とキャッチしてるくせに。

「返事する前にドア開けないでよ」

「おお、悪い悪い」

 全然悪いと思ってないな。普通に石鹸返してくるし。むぅ。

「でさ、お前とんかつ何個食べる?」

「んー……三つ」

 今日は割とお腹が空いているので、一個多め。

「了解。じゃー七個だけ揚げて、残りは冷蔵庫に入れておくか」

 兄は四個か。さすが育ち盛り。

「あ、兄。今回の旅行先、なんの目星もついてない?」

 帰りかけた兄に声を掛ける。

 兄はちょっと難しい顔をして、すぐに首を横に振った。そりゃそうか。お母さんの行動予測なんてする方が無駄だった。でも半袖何枚持っていくか迷うなあ。

「まあ、半々でいいんじゃないか?上着も一枚持って行っとけば何とかなるだろ」

「そだね。それじゃあ……」

 とんかつよろしく、と言おうとした。でも、言葉が続かなかった。

 何の変哲もない普通の部屋の中。ちょっと雑多な感があるけど変なものはこれといって見当たらない。不思議なことなど起こるはずもない。


 なのに、私の体は浮遊感で包まれていた。


 な、何これナニコレ!?なんか青白い光が床からビカーッてなってるんですけど!!!いつの間にこんな仕掛けが私の部屋にできたの!?

「?紗那……って、へ?ど、どうなってんだコレ……?」

 あ、兄が呆然としてる珍しい♪ってそうじゃない!ちょ、気持ち悪い。逃げよう!

 慌てて立ち上がってその場から離れようとした。とにかく離れなくちゃ!こいつぁなんかヤバイ臭いがプンプンするぜ!

 てんぱった頭でよく分からないことを考えながら、とにかく立ち上がった。そのとき、

 私の足元に、黒い穴がぽっかりと開いた。

「へ?」

 浮遊感が増す。支えをなくした私はそのまま穴へと……ってヤバイ!

 近場にあった荷物満載のトランクに必死でしがみつく。ところがトランクは私を支えるどころか、スピードはそのままに、一緒に穴へと落ちてしまった。

「紗那?紗那っ!おい、どこにいった!?」

 兄の焦った声が遠く響く。ああ、兄よ。私は下にいます。


 部屋の明かりだろう白い光はぐんぐん小さくなり、あっという間に小さな点になってしまった。あたり一面真っ黒になる。それでも下へ下へと落ちていく私。トランクを胸に抱えたまま、段々上がどっちで下がどっちか分からなくなってくる。何がなにやら分からないけど、よく分からない落ち着きを発揮した私の口から、一言ポロリ。


「このままどっかにでたら、確実に衝撃で死ぬなあ……」


 せめてもと、トランクを下にして受身の準備を取る私だった。

はじめてみました。連載ものです。

ペースはおせじにも速いとはいえないとおもいますが、完結させるよう心がけます。頑張ります。いえ、やります。


しかし、テンポが悪いwww

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