帰魂譚【忘れられたと思っていた】
掲載日:2026/02/02
夜の公園。
ブランコと砂場のある、小さな場所だった。
制服の男は、自販機の前で缶コーヒーを取る。
視線の先。
昼間、ここで遊んでいる少女の姿を、さっき見かけた。
その横に、半透明の少年が座っている。
「あれ、妹」
少年が呟く。
「俺が死んでから、あんまり笑わなくなってさ」
少し間が空く。
「でも最近は、普通に遊んでる」
寂しそうに笑う。
「……俺なんか、忘れて」
制服の男は缶を開ける。
「忘れてねぇよ」
少年が顔を上げる。
「は?」
男は、公園を見る。
「さっき、あの子」
「泣きながら言ってたぞ」
沈黙。
「あの子、この前」
「兄ちゃんの夢見たって」
少年の表情が止まる。
「会えた気がするって」
「また泣いてた」
風が吹く。
少年の姿が揺れる。
「……そっか」
小さく笑う。
体が、少しずつ夜に溶けていく。
「ありがとな」
声だけ残る。
制服の男はポケットに手を入れる。
「忘れたんじゃねぇよ」
「抱えたまま、生きてんだ」
公園は、また静かになった。




