十九章 頭を巡る過去 其一
もう、こいつからは不死の力しか感じない。
きっと、剣神の神核は既に砕けているのだろう。
薄々気が付いていたであろうモニークはそれが確信に変わったようだ。
「お前を・・・せめて道連れにッ!!」
モニークが揺れながらゆっくりと動いたその瞬間、隠れていたグリードリヒのネックレスが表に出た。
「ッ!剣が・・・動かないッ!!」
モニークはピタリと止まって動かなくなった黄金騎士剣を見て驚きながらそう言った。
「なぜだ・・・なぜ私を拒絶する!?クラウス!!」
モニークが大声でそう言った瞬間、黄金騎士剣が輝きを取り戻した。
「拒絶されて当然だ!今までなぜ拒絶されて来なかったか不思議なくらいだよ!!」
グリードリヒはモニークを見て怒鳴った。
「力・・・がッ・・・力が抜けていくッ・・・!!」
モニークが苦しみ始めたその時、モニークの内部にある模倣されし黒き魔女の権能が消えた。
「終わりだ、モニーク」
着地したグリードリヒはモニークから最上大業物朝陽輝霧を引き抜いた。
(なんて・・・ことだ・・・)
急速に体が崩れ始めるモニークは目を見開いた。
「モニーク!!なぜお前は木刀すらまともに振れぬのだ!?」
黄金騎士を務める父上は長女である私を黄金騎士にしようと奔走していた。
一流の剣士に剣術を教えられ、お抱えの先生たちに騎士としての礼儀や食事の作法を教えられ、良い食事を与えられながら幼少期を過ごした。
しかし、私には両親が望むものは何もなかった。
親不孝者としてメイドから陰口を言われることも日に日に増えていった。
そんな私の心の支えになっていたのは一つ年下の弟、クラウスだった。
クラウスは一人のメイドと共に下級市民程度の貧しい生活をしていた。
硬いパンの味すら知らず、味のない芋だけを食べて生きていたクラウスは私よりも力があって私よりも賢くて私よりも世間を知っていて優しかった。
そんなクラウスは私の不満と悩みを黙って笑顔で聞いていた。
私が十歳になる頃、クラウスが私の隣で木刀を握るようになった。
両親は領民からクラウスの評判を聞いたのだろう。
両親はクラウスに期待していた。
私に寄せていた期待よりも遥かに大きな期待だった。
しかし、クラウスはそんな期待をゆうに越えた。
先生を務める一流の剣士が振る木刀を全て見切り、弾き、その挙句その剣士を僅か四撃で倒してしまった。
「クラウス・・・お前は何て素晴らしい子なんだ!!」
「あなたは私たちの誇りよ!」
私はクラウスを褒める両親を見た時、生まれて初めて身を焼き焦がすような嫉妬心を覚えた。
そして、私はクラウスに八つ当たりをして突き放した。
「どうしてお前ばかり褒められる!!私はたったの一度も褒められたことがないのに!!」
剣術を習い、礼儀を習い、食事作法を習い、良い食事を食べる・・・次の日からも変わらない生活を送った。
クラウスもいつも通り領主邸の敷地内にある小さな小屋でメイドと共に生活を続けていた。
嫉妬心を抱く私にとってこの生活の違いは優越感になっていった。
そして、剣術もサボり、礼儀もサボり、食事作法もサボる・・・そんな生活が始まった。
両親はクラウスばかり気にかけて私には何も言わなかった。
もう、愛情はないのだと幼いながら理解したものだ。
しかし、クラウスだけは私を見捨てなかった。
「僕にできて姉上にできないことなんてありません。一緒に頑張りましょう」
木刀を二本持ったクラウスはモニークを見て笑みながらそう言った。
「できない・・・私には才能がないんだ・・・」
モニークはうつむいたままそう言った。
「父上の引退も迫っています。僕たちが頑張らないと領民は不安に陥るでしょう。剣を振れなければ大切なものも守れません」
「才能がある奴にはわからないだろうよ!!才能がない奴の気持ちなんて・・・!!」
モニークはクラウスを見て怒鳴った。
「お前さえいればいいんだ・・・父上も母上も・・・だから、もうやらない」
モニークは膝を抱えてうつむいた。
「では、僕もやりません」
クラウスはそう言いながら木にもたれかかった。
「え・・・?」
モニークはクラウスを見て驚いた。
「姉上がやらないなら僕もやりません」
クラウスは笑みながらそう言うと瞼を閉じた。
私は私を見捨てなかったクラウスから逃げた。
唯一愛してくれた家族から逃げた。逃げ続けた。
次回
二十章 頭を巡る過去 其二




