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⓪???
発表を終えた女生徒が、右の袖へと消えていく。入れ替わるように、左から別の女生徒が登壇した。待ちに待った、陽莉の出番だ。彼女は、壇上の明かりの下で、目を瞑って深呼吸をしているみたいだ。呼吸を整え終えたのか、今度は辺りを見渡し始めた。
そして、ある一点に顔を向けて、微かに頷く。
満足そうに口角を上げて。
彼女の視線の先には、一体誰がいるのだろう? こちらからは確認ができない。
浮かんだ疑問を上書きするように、頭に司会者の声が流れ込む。
『弁士番号二五番。【あなただけの旋律】と題しまして、福岡県、桜田高等学校、望月陽莉さん。発表をお願いします』
司会者の声が止む。陽莉は、右手の原稿を演台の上に広げている。それを済ませると、的確な角度を保った一礼を披露してから、一歩前へと踏み出す。広げられた原稿には目もくれない。正面を向いたまま、マイクに向かって一声を発した。
――ありのままでいいんだよ。
それは、どんな傷をも癒す、優艶な彼女らしい声色だった。