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想像以上

 隠れキャラのダンデリオン王国レベンディス第一王子が、魔法を使えないなんてあり得ない。

 

 だって、悪役令嬢がヒロインに向かって魔法を仕掛けようとした所を、逆にレベンディス様に魔法で攻撃されて、それはそれは憎々しい顔をヒロインに向けていた……っていう話しをネットで見たもの。わたくしは専ら悪役令嬢ルートしかしないから、ヒロインを庇うレベンディス様のスチルなんて拝んだ事ないけど。


 いつか、わたくしが教える魔法でわたくし自身がレベンディス殿下から魔法によって排除をされるかもしれない。けど……それでも今、目の前で苦しむ殿下を放っておくなんて出来るわけない。

 


「それでは殿下、まず中級魔法から始めましょう」

 図書室から屋敷の裏側に回り、中庭で始めたのには訳がある。

 もしも、魔法が使えた場合……測定器でも測れない魔力量が想像を超えていた場合の影響。それと、測定器で出ない通り本当に魔力が存在しない場合、殿下の期待を裏切る事になる上に心の傷を増やしてしまう可能性もある。だから人目は極力避けた方がいいと考えたけれど。さて、どちらに転ぶかしら。

 

「魔法を使ったことがないと思いますので、わたくしの手から殿下の手へ魔力を流します。それを感じる所から始めましょう」

「…………」

 そっと殿下の手を握り、わたくしの魔力を微量ずつ送って様子を見ているけど目を閉じたままの殿下に反応はない。手のひらを見つめながら少しずつ強めた所で、ふと強く握られたのが分かって顔を上げると……殿下の瞳から一雫の涙が流れた。

「大丈夫ですか……?」

「…………これが魔力……」

「何か感じ取れましたか?」

「……あぁ……」

 

 手を離し、ステフからナイフを受け取ってそのまま自分の腕に思い切り傷を入れたわたくしを見て、殿下の顔色が明らかに変わった。

「な、なにを!?」

「殿下がこれを治すのです」

「……無理に決まっているだろう?」

「わたくし、今とても痛いのです。殿下の先ほど感じた流れに意識して、治癒魔法を詠唱してください。あれだけ本をお読みになっていたんだから覚えているんでしょう?」

 

 ちょっと強引かもしれない。でも、殿下に魔力がある事を知っているわたくしだから覚悟を持って出来るの。それに、いざとなれば自分で治せるもの。これくらいの傷なんてことないわ。

 ポタポタ滴る血に青ざめながら、手をかざし始めた殿下に少し焦りも見えるけれど……敢えて口出しはしない。こういうのは自分で掴む事に意味があるの。それに攻撃魔法と違って治癒魔法を爆発させたところで被害はないのも計算のうちよ。


「……なにも起きない。なぜ…………詠唱しているのに、やはり僕は……。頼む、発動してくれ…………ヒール!!!」

 眩い光がわたくしの腕の傷を最も簡単に癒し、元通りの腕になった。

 突然の出来事に腰を抜かした殿下のそばへ屈み、頭を撫でて微笑みかける。

 

「傷を治して頂き、ありがとうございます殿下。そして、おめでとうございます」

 わたくしの言葉を聞いた殿下は、ボロボロ大きな粒の涙を流しながら静かに泣いた。ずっとずっと溜め込んできた期待と不安は、この涙で少し軽くなるんじゃないかしら。今だけは、そっと頭を撫でても咎められないでしょう。


 一頻り泣いた頃にはすっかり陽が落ち、屋敷の窓に見えるお父様が微笑みながら頷いてるのを見て殿下を立ち上がらせた。

「初めて魔法を使うと、身体から魔力が抜ける感覚が掴めますでしょ? むやみに練習してもダメですよ? まずは抜けた魔力を養うためにも夕食へ参りましょう」

 コクンと頷いて涙の跡を拭いながら、一旦自室に戻る殿下を見送ってわたくしも着替えに戻った。それにしても……やっぱり殿下の魔力はかなり強いわ。傷を付けた腕を見ながら思い返しても、初心者のヒールではせいぜい血を止めるか傷が塞がる程度で完全に傷を消し去る事は不可能。

 魔力が強いからレベルの高い魔法が使える……というわけではないの。魔力があって、きちんとその魔法を理解していないと正しく発動されない。だから、学園で教養と訓練を行うという訳。殿下の場合は、使えないと諦めながらも魔法と向き合って勉強してこられたからこそ、ヒールを最大限に発動させることが出来たんだとわたくしは思う。


 今夜は殿下の歓迎も兼ねて控えめのドレスに着替え食堂へ向かう事にした。扉を開ければ、すでにお父様と殿下がお待ちで急いで席に座ったものの……相変わらず口数の少ない殿下と、代わりを務めるかのように軽快に話すセリノス様。不意にこちらへ向いたかと思えば……

 

「そういえば、ヴィオレティ様はご婚約されていらっしゃるのですか?」

「いいえ、しておりません。婚約者候補の方を集めた夜会を行いましたが、毒を盛られまして」

「……毒?」

 今まで黙っていた殿下が驚きのあまり復唱しながら凝視しているわね。それもそうか……。

「犯人は未だに分かっておりませんが、わたくし婚約に焦っておりませんし毒の耐性にもなりますから」

 

 本当は犯人探しもしたいのだけど、なんせ前世を思い出した出来事の方が強烈で犯人探しどころではないのよね。

「それは大変でしたね。ですが婚約されていらっしゃらない、なるほどなるほど」

「…………」

 殿下が、こちらに話を振るなと言わんばかりの顔で残りの食事を口に運ぶと、ナプキンで口元を拭って席を立った。

「先に失礼する」

 頭を下げて食堂を後にしたけれど、セリノス様一緒に行かなくていいの!? 呑気にワインを飲みながらお父様とお話しされてますけど……大丈夫!?


「さて、殿下もいなくなったところで。この度は、マクリス公爵に打診を了承して頂き本当にありがとうございました。失礼ながら、ヴィオレティ様と殿下の様子を覗かせていただきました。半信半疑でしたが、まさか本当に殿下が魔法を使える日が来るとは……このご恩をどうお返しすればいいのか」

 

「わたくしと同じ状況だったから、お父様は殿下を我が家へ受け入れたのね?」

「そうだ、突然魔法を使えたお前が魔力測定器では反応を示さなかった。殿下ももしかしたら同じ状況じゃないかと。逆に魔力が大きすぎて初級魔法が使えないなんて誰も思わないからね」

「ダンデリオンで、たまたまヴィオレティ様の事を耳にした私は内密に陛下へ相談し、今日に至ります。実は……時を同じくして、殿下の姉君であるラディ王女がこの国の王城に滞在されております」

 ……ん? ラディ第一王女……どこかで聞いたような……。


「それが、昨日王城に到着された際、どこかのご令嬢と少々揉め事があったようで……。なんでも開口一番『レベンディス様はどこ!? シナリオより先に出会う予定なんだから』と叫ばれて、気の強いラディ王女が不敬だと訴えられたとか……」

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