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指輪に込めた魔法

閑話にするつもりが、長くなってしまいました!


 今、私の隣でスヤスヤ眠る愛しい姫は一体どんな夢を見ているのだろうか。時折ぎゅっと掴まれる腕に、変な意識を起こさないよう耐える私は……まるで試練でも与えられているようだ。


 細い指に存在感を放つ流星の指輪。

 我が国にとって、これ以上の名誉はないという程の代物ではあるが、どうも気に入らない。

 それはなぜか。流星を助けるとされるその指輪は、守られることと引き換えに願いを叶える……つまり、四六時中ヴィオから片時も離れず守られるなど羨ましい以外の何者でもないからに決まっている。


 そもそも子どもの読む絵本には描かれないが、文献が正しければ指輪を媒介にして魔力を得ているとされている。しかも魔力が貯まると指輪から出てくると示す文献も存在する、つまり指輪が外れることを意味するのだが……。ふとした時に私の送った指輪を愛おしそうに見つめるヴィオは、それはそれは抱きしめたくなる程なのに、なぜだか横取りされたような気持ちになるのは私の心の狭い部分か?


 しかし常に一緒にいて魔力を有するならば使わない手はない。

 馬車の中でヴィオに内緒で魔法を掛けた。

『主人の変化を知らせよ』

 たったそれだけだ。

 プロステートでの出来事も含めて、もう二度と守りきれない事がないようにするにはどうしたら良いかずっと考えていた。片時も離れない、なんて事が不可能な事は私にも分かっている。だから指輪が感知した変化を私に知らせるよう仕掛けただけ。有する魔力量もわからないから複雑な物は避けたかった。


「んん……」

 愛しい姫のお目覚めだ。昨日も随分無理をさせてしまったからもう少し寝かせてやりたいのが本音だが。

「おはよう、ヴィオ」

「おはようございますレヴィ……」

「今日は休みの日だと覚えているだろう?」

「もちろんですわ。しばらくお休みが合いませんでしたから」

「良かったら私と王都にデートへ行こう。半年に一度、各国のマルシェが集うイベントがあるんだ」

「まぁ! それでしたら動きやすい格好で宜しいですか? たまには国民の皆様に混ざって楽しみたいものですから」

「そうしよう、朝食の間に準備して貰えばスムーズだろう。さぁそうと決まったら急いで朝食だ、おいでヴィオ…………ヴィオ?」


 ベッドから立ち上がるのを躊躇うヴィオが赤面し「先に行ってください」と言う。それを察すれない程、愚かな男ではない。立ち上がりにくい原因の発端は私なのだから、労らない訳にはいかないだろう?

「すまなかった、朝食の前にまず湯浴みからだな」

 そう言ってヴィオを横抱きに風呂まで届けて私は退出した。はぁ、どこまで欲張りになれば納まるのだろうか。だから昨日も止められず――。


 無事に朝食を終えた私たちは、普段着ることの殆どない王都に溶け込めるような自然な装いに、お互い手直しを加えて馬車で城下町へ向かった。

 各国から集まるとあってとても賑わいを見せている。ゲートのおかげで取り締まりを厳しくしなくとも比較的安全に開催できるようになったからか、以前にもまして規模が大きくなっていた。

「ヴィオ、安全とはいえど決して私のそばから離れないように。いいね? 可愛い雑貨や美味しそうなデザートに釣られて一人歩いて行ってはいけないよ?」

「レヴィ!! わたくしはそんなにお子様ではありませんわっ」

「ふふっ冗談だよ、しかし心配なんだ。町娘とか言うその格好で気品もダダ漏れの君を見失ったらとてもイベントを楽しめる気がしない」

「ずっとレヴィと手を繋いでるから大丈夫、行きたいところを見つけたら相談しますから」


 顔を傾けて「ねっ」って……可愛い!

 いざ、馬車から降りると客を引き寄せるための声があちらこちらから聞こえてくる。嗅いだことのないような香りに、見たことない飾り、これは誘惑が多いな。

「レヴィ、わたくし全部見たいので端から見て回りましょ? 早く早くっ」

 いつもと違って少し高い位置で一結びにする髪が揺れ、たまに私の手を掠める光景が心をくすぐる。

 こんな時でさえ、その触り心地と上気したヴィオの姿を見たいと男の欲望が顔を出す。いや、今日はヴィオに楽しんでもらうために来たのだ。そんな邪な願いなど捨てて全力で楽しんでもらおう。


「ん〜……でも、こちらの色の方が――」

「そんなに真剣な顔してどうしたの?」

「レヴィに似合うのはどの色かなって、異国の珍しい柄で素敵なんですけどカラーバリエーションが豊富なんですよっ、この色も素敵だけど……こっちも捨てがたい」

「確かに珍しい柄だけど綺麗だね、では私はヴィオの分を選ぶからヴィオは私の分を選んでくれ」

「お……お揃い……」

「嫌?」

「まさかっ! そうだったら良いな……と思ってたものですから――」


 はぁ、たまらないな。


 揃いで買ったピアスを袋に入れてもらい、また歩き始めた私たちが見つけた怪しいテントには占いの文字が書かれている。どうやら異国の占いらしく、ちょっとした行列になっていた。

「並んでみないか?」

「レヴィは何か占ってほしいことでもあるのですか?」

「あるよ、まぁ試しみたいなものだ」


 しばらく並んだ後、踏み込んだテントの中は魔法が展開された異空間で、夜空に浮かんでいるような不思議な世界観だ。店主は顔を覆い、眼だけがこちらを向いて「ようこそ殿下、妃殿下」そう言った。


「これは驚いた、初対面のはずだが」

「ふふっ……なぜ? などと野暮な事は聞かないでくださいね。それでどのような事を占いましょう」

「…………」

「……レヴィ?」

「彼女の指から星が出るのはいつだ」

「妃殿下の流星が宿る指輪ですね。異国に住まいながらも、こうして耳にしている重要性はお分かりですね?」

「あぁ……」

「妃殿下、失礼ながら私の手に手を重ねて頂けますか?」


 この占い師が男なのか女なのかもわからないが、ヴィオの手に触れるのを目の前で見せつけられるのは少々居心地が悪い。あろう事か、上下からヴィオの手を挟んで目を閉じ何かを感じ取っているのか動きが止まった。

「おい、いつまで――」

「見えました……。指輪に入りし星の王子様は、近いうち二人の前に現れるでしょう。殿下、近いうちにライバルが現れるやもしれません。ご覚悟を」

「ライバル……ヴィオを狙うものが現れるということか?」

「そうですね、これだけの美貌を持ち才能にも恵まれ優しさの塊ですから。しかし微笑ま――」

「もうよい。行こうヴィオ、金は置いておくぞ!」

「はい、またのお越しを」


 手を引き、異空間から久々に解放された外の空気を吸い込んで気分転換しようにも一度開いてしまった醜い部分はそう簡単に引っ込んではくれない。

「おいでヴィオ」

 私はヴィオの事となるとどうしても小さい男に成り下がる……それが最近の悩みなのだ。さっきだって占い師に手を取られただけで切なくなり、ましてやライバルが現れるなどと不吉な占いまで飛び出したのだから……この気持ちの行き場を探しても良いだろう?


「レヴィここは……」

 手を引き、いかにも慣れた様子で入ってきた建物は昔から顔馴染みの宿屋だ。情報収集で酒場に行った帰りに使ったりしたが、最近はめっきり来ていないこの宿でいつもの部屋を借りヴィオと入室した。


 扉を閉めるなりキスをして、自分だけのヴィオだと確認するかのように腰を持ちながら何度も何度もキスをした。呼吸が浅く、ヴィオから溢れる吐息に今朝から必死に押さえつけていた欲望が一気に溢れ出した。

「レヴィ待って……」

「待てないんだ、ヴィオを誰にも渡したくない……占い師の手ですら――」

「大丈夫だから落ち着いて、ねっ?」

 私の頭を胸に抱き優しく頭を撫でたヴィオの温かさに、さっきまで溢れ出て止まらなかったはずの見苦しい感情が和らぐようだった。

「旦那様がどれほど私を愛してくださってるか、そしてわたくしがどれほど旦那様を愛しているのか……お忘れですか? だってわたくしにはレヴィしかいないんですから。レヴィがいるから幸せなの、だからそんなに苦しまないで」


 結局私は、初めて出会った時から今もずっとこうしてヴィオに救われてきたんだ。愛しい姫を漸くこの腕に抱き締める事が出来て、今度は自分の前からいつかいなくなってしまうだろうなど不用意な不安に押しつぶされそうになった愚かな私を……。

「すまなかったヴィオ……情けない私を見せた」

「わたくし毎日がとても幸せなのです、今まで知らなかったレヴィの一面がたくさん発見出来るから。嫉妬……もわたくしにとっては案外嬉しいものですから」


 抱きしめ返した私は、もっとその温かさに触れたいとキスをした。出来る事なら……。

「身体は辛くない? 昨日もあんなに……んっ!」

 私の口を慌てて両手で覆ったヴィオの赤面した顔。何を思い出したのかは一目瞭然なわけで、それは必死に私の口を塞いだが今の私にとってはその行為すら高揚感で満たされた。

 重ねた身体に感じる重みも温もりも、その甘美な刺激さえ世界を手にしたような気持ちにさせた。


 世界で一番幸せな妃であってほしいと願わずにはいられない……。

残り一話です。

最後までぜひお付き合い下さい!

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