誓い
「――お二人の未来に祝福を。それでは誓いのキスを」
ダンデリオン王国に赴いて早くも半年が経った。
傷物と言われても仕方ないと覚悟して国王夫妻に挨拶した時は、全く気にする事なく受け入れ毎日気遣う言葉を掛けて下さって本当に感謝しかない。
覚える事も多かったけど、プロステートでの王子妃教育と勉強好きが講じて問題なく進み、あっという間にレベンディス様の政務のお手伝いまで任せて貰えるようになれた時とても嬉しくて……。
王族の結婚となれば準備に一年は使うであろう慣例も覆し、聞けば半年後には挙式を挙げると言うレベンディス様に皆が焦ったのは言うまでもない。
教育を受けながらドレスの採寸とデザインから縫製、招待客の皆様へ招待状作成、お料理の計画に使用人の手配など多くの準備を経て今日を迎えた。
教会の神聖な空間に映える真っ白な純白のドレス、長く階段を彩るレースのベール。向かい合うタキシード姿のレベンディス様がそっとベールを上げ、噛み締めるように私を見つめてくださる。
「生涯この手で守り抜くと誓う……ヴィオ愛してる」
「私もレヴィを……愛しています、いつまでも」
誓いのキスと盛大な拍手。
この幸せを……どうしたらレベンディス様に伝えられるんだろう。悪役令嬢として始まったわたくしの人生に、断罪や追放ではなく溺……で、溺愛が訪れるなんて想像つくはずもないでしょ。
列席の方々へ小さく手を振りながら、結婚指輪と別にわたくしの指から全く外れない流星の指輪がいつも以上に輝いて見えた。
この指輪に込められた、流星の祝福。
指輪に迷い込んだ流れ星が、叶えてくれるたった一つの願い。国王夫妻もご存知のはずなのに、急かす事もなくその話題には触れてこない。きっとレベンディス様が言って下さったんだろうけど……この気持ち、感謝と敬愛の気持ちをお返しするなら――
「レベンディス様……この指輪の願い、今ここで込めても良いですか?」
「……もちろんだ。ここにいる全員が証人になろう」
指輪を握りしめてキスを落としたわたくしは、一体何が起こるのか固唾を飲む会場の方々へ向き、そっと瞳を閉じた。
願いなんてやっぱり迷信かもしれない。指輪に願いを込めたところでなにも変わらないのかもしれない。それでも、わたくしのこの気持ちは変わらない……指輪に託した決意表明。
「わたくしの願いは、ダンデリオン王国に住まう全ての人々の幸せ……どうか幸せが降り注ぎますように――」
スンッ! と消えた全ての光を覆うような漆黒に、一瞬悲鳴とも取れる叫びが聞こえたけど、瞬く間に現れたまるでプラネタリウムのような星空にここが教会だと言う事も忘れるほどの光景が目の前に広がった。
流れる星、煌めく星、今にも消えそうな六等星が入り混じる夜空は幻影とは思えない。
その願い、叶えよう。ヴィオレティに愛を込めて
一筋の光がわたくしを照らしたのを境に、星空が消え、再び教会へと戻った。
教会を埋め尽くす拍手と歓声。
和かに手を振るが驚きを隠せないレベンディス様。
次代の安寧を喜ぶ国王夫妻。
宴席も滞りなく終え、ステフに湯浴みをお願いして着替えた夜着。
わたくしの部屋とレベンディス様の執務室の間に設けられた夫婦の私室。同じタイミングで相互の扉から入ったわたくし達は、きっと同じ気持ちだ。どこかぎこちないのに、やっと二人きりになれた高揚感。
「これからヴィオは益々忙しい日々を送ることになるだろう。でもどうか、これだけは忘れないで。私は必ずそばにいる、この手を二度と離すことは絶対にないから……何かあればまずは私に教えてくれ。ヴィオの想いも苦しみも喜びも、全て受け止めると誓うから」
「わたくし……こんなに幸せになれるなんて、本当に……あの、ありがとうございます」
「礼などいらない。私を選び掴んでくれた、ただそれだけで十分だ。ただ……今日あんなに綺麗なウェディングを着て……星々を照らされたヴィオを見て……これ以上は我慢出来そうに、ない。十分だと言いながらまだヴィオを欲するこの哀れな男を、どうか呆れないでほしい」
重なった唇から香るお酒と、そっと枕に沈められた頭を支えながら角度を変え何度も何度もキスをした。
「でしたら……はしたないわたくしを……どうか呆れないでくださいね」
呆れるわけないだろう、耳元で心地良くもドキッとするその囁きに脳が痺れる感覚さえ生まれる。
露わになる肌は最早隠しきれないし、触れられる場所に籠る熱の行方を知らないわたくしは……自分の感情のままに応えた。
「痛かったら……ごめん……」
痛みよりも一つになれた悦びが勝る。
刺激が押し寄せるたびに、幸せが増していく。
時折笑い合い、キスをして、溺れていくだけ。
差し込む光に目を開けた朝、重い腰に驚きはしたものの隣で安らかな寝息を立てるレベンディス様に愛しさが溢れ、前髪をそっと撫でながら小声で「旦那様……」と呟いてみた。
想像以上に、照れるっ! でも言いたい……。これは世の結婚を夢見る女性にとって憧れでもあるのだ。照れた自分を布団に隠し、一人噛み締める……はずだったのに。
「もう一回言って?」
「おっ起きてらしたんですか!?」
「早く」
こうなったらレベンディス様は、わたくしが言うまで粘り続ける。それがお決まりのパターンだと知ってる。
「旦那様」
「なぁに奥さん?」
奥さん! これもまた……嬉しい。
「奥……さん……ふふっ、くすぐったいですね」
「朝から可愛い事する奥さん? うん、夜の続きしよ」
シーツの乱れ具合に羞恥心が爆発したわたくしが、レベンディス様こと旦那様の願いを全力で回避したのは言うまでもない。
結婚式の様子を載せた新聞によって流星の祝福が報じられ、しばらくの間その話題で持ちきりとなり国中がお祝いムードに包まれた。国王夫妻には「もっと自分のための願いでも良かったのですよ、でも……ありがとう。この感謝をどう表現すれば良いんだろう」と賛辞を頂いたばかりか、流星の女神という称号を賜ったわたくしには国内における行動の自由が約束された。
お城に閉じ籠るんじゃなく、ダンデリオン国内でしたい事を実行に移して行くための専門部署も設立されレベンディス様も最大限に協力してくれ、プロステートでも行ってた幼い子供たちの集える場所を作り始めた。いずれ、読み書きや前世でいう保育園のような仕組みも構築していきたいと思ってるの。
働くお母さんたちの助けになりたい。
保育士っていう仕事の枠も確保できる。
やりたいことだらけだわっ!
「ヴィオ、ちゃんと私も見てね?」
なんていつもレベンディス様は仰るけど、わたくしの世界にレベンディス様がいないことなんてもう考えられない。貴方がいるからここにいられる。
こんな物語の締めくくりでも良いのかしら。
わたくしという存在はこの世界でこれからも続いて行く。皆様の見えないところで一生懸命働いて、全力でレベンディス様を愛して、次のステージに向かえるように頑張るとしましょう。
―END―
これで本編終了となります。
たくさんの閲覧ありがとうございます!
小話を2話ほど投稿して完結を予定しています。




