裏エンディング
「今頃ダンデリオンに着くかな〜ヴィオレティ様」
「さぁどうだろうな……って、いつまでここにいるんだよ」
「いいじゃんっ、どうせ来週から魔法士団に入団するんだから」
「あのな〜……言っとくけどここは厳しいぞ? 平和な国だからって戦闘に行くことだってゼロじゃない。いくらヒロインだからって――」
私は今、魔法士団の士団長室で優雅にお茶を飲みながらリオス様と雑談中。だって無事に卒業パーティーも終わったし、ヴィオレティ様のおかげで魔法の才能も開花して魔法士団に入団も出来たからっ!
何年掛かっても良いから立派な魔法士になって、いつかヴィオレティ様のそばで活躍するのが夢なの。まぁ〜……ヴィオレティ様って何でも自分で出来ちゃうから、一体どれくらい強くなれば役に立てるのか分からないけど。
「で、ちゃんと裏エンディングは伝えたのか?」
「………………忘れた」
「やっぱりな。お前に託した俺がいけなかったか……」
「でもさっ知ってても知らなくても、ぶっちゃけ関係なくない? 最後に一つ願いが叶うっていうヒロインにはない終わり方なだけで、ゲームみたいな選択肢もないし。ヴィオレティ様の願いって絶対に欲無いよね」
「いや、俺そもそも悪役令嬢のエンディングとか見た事ないから詳しくは知らないけど、要するに悪役令嬢版ハッピーエンドだろ?」
「まぁそんな感じ? 超〜〜難しい選択を潜り抜けないと辿り着けない幻のエンディングだからねっ」
私の親友は悪役令嬢攻略のためにずーっとゲームしてた。隣でヒロインをやる私に、色んな報告をしながら進めたゲーム終盤……悩みに悩んだ選択を間違えることなく裏エンディングを迎えて1%しか拝めないレアスチルをゲットして死ぬほど喜んでた。
あんなに喜んでたのに、翌日私のせいで私と一緒に死んだの。声を掛けられた男の人たちにまさか襲われて、泣き叫びながら――
「…………」
「大丈夫か?」
「えっ、あ……ごめんなさい。昔を思い出してて」
「昔って?」
今までなかった声に驚いてパッと見上げた方向にいたのは、和かな穏やかな笑顔を向けるロード様だった。
「ロード様っ!? なんでこんな所に?」
「アヤネ嬢を探してたんだよ」
「なんで? 私なにかしました?」
「いや〜……これ、良かったら舞台観に行かないかなってチケット渡そうと思っただけ。入団前なら時間あるでしょ?」
「時間はあるけど、でも私友達もいないし一人じゃ……」
「僕と観に行くんだよ」
「またまた〜俳優さんは舞台でしょ……じゃないの?」
「ぶっ、お前も案外鈍いんだな」
「リオス様! 横槍入れないでくださいよっ」
これは……私を誘ってくれてるって事で間違ってないのかな? 割と嫌われてたと思うんだけど。
「卒業祝いって事で、僕が出演してない舞台なら観に行けるかなって思ったんだけど……やめとく?」
「やめないっやめないっ! いつ? え……明日!?」
「そうだよ、明日寮の前に迎えにくるから支度しておいて? 遅刻したら帰るからね」
そっと首を縦に振って、嬉しさのあまりチケットを見つめてみた。「また明日」って手を振るロード様にお辞儀をして、大切にポケットにしまったけど……待って! 寮だから着替えも化粧も髪も全部自分でやらなきゃいけないの!? うわっ……終わった。
「お前って分かりやすいな。全部表情で読めるって、どういう淑女教育受けてきたんだよ。まぁ支度なら問題ないと思うぞ? ひとまずここにいても仕方ないんだから寮に戻んな」
「問題大アリなんですけど……」
渋々挨拶して団長室を出てきたけど、私本当に何も持ってないんだよ。叔父様のお屋敷から荷物を持ち運ぶ事は出来なかったし、必要な物はひとまずヴィオレティ様が用意してくれたけど、男の人と出掛けられるような服も靴も……持ち合わせてない。お金があるって当たり前じゃないのね。
出掛けるのもオシャレするのも何もかも全てにお金がかかる。これから稼ぐ私にとって、前世でアルバイトもした事なかったし不安しかないけど、働かないと何も出来ないんだから頑張るしかない。
「あらっお帰りアヤネちゃん」
「只今戻りました」
こんな気さくに私をアヤネちゃんって呼んでくれるのは寮母のアステルさん。人の機微にとっても敏感で、いつも私の相談に乗ってくれるお母さん的存在。
「アヤネちゃんに荷物を預かってるよ、自分で持って行く? あとで部屋に届けようか?」
「荷物? もしかしてこの箱ですか?」
寮の玄関に置かれた少し大きめの箱。
「そうだよ〜何やらイケメンなお兄ちゃんだったね、あとで何が入ってたか教えてよ!」
ハッ! として箱を抱えたまま小走りに部屋に入った私は、息を切らしながらドキドキしてた。勘違いでもいい。予想と違っても残念って思わない。でも、もしそうなら!
涙が溢れるなんて……私の涙腺どうなってんのよ。汚したいわけじゃないのに、手に取った黒のデイドレスへ涙が落ちてしまったじゃない……! だって、私こんな素敵なドレスを贈られる理由が全く思いつかないもの。初めての舞台鑑賞では廊下で醜態を晒して、フリオス様へ真実薬を飲ませた時だってきっと呆れてただろうに。
ロード様ったら、楽しみにしてるよ、なんてメモまで付けてくれてさ……。髪も化粧も自分で出来るけど、こんな素敵なドレス果たして私に合うのかな――。
――――――――
直接渡せば良かった。
…………ような気もする。ただ自分の休みに会って「あれから大丈夫か? 困った事はないか?」そう聞きたかっただけなんだ。でも、ただお茶するにしても会話に困ったら嫌なわけで、元気になってもらうなら舞台が打って付けだと思った。
僕が交代で出演する演目で、女戦士を描いた勇気と希望の物語だから丁度いい――勇気を振り絞った彼女にピッタリだと座長にチケットを融通してもらったけど。
誰か特定の女性を気に掛けたことなどない。
レベンディスと違って情熱的な部分も持ち合わせていない。かと言って遊び人でもない。……要するに僕は役者として中途半端なんだ。演技はもちろん得意だけど、それが私生活となると話しは別。だからお前は一流になれないんだよってビタス先生にも言われたっけ。
「この気持ちの正体が何かくらい……確かめてもバチは当たらないだろ?」
自分のチケットに話し掛けてはみたものの、あるはずもない返答を待って虚しくなってみたり。
思えば最初の印象が最悪だっただけに関わる事もないと思ってたけど、レベンディスのために協力したあの時からずっと気掛かりだった。
アホ王子しかそばにいなかった環境で友達もいない、強がって我慢するのに手が震え、最後は仲間を救う一人となった。気になるだけで妹みたいな気持ちならそれまでだろう。
しかし舞台に誘い、挙げ句の果て服まで贈るなど思わせぶりな態度を見せておいて「妹みたいだから」など最低極まりない。
結局、アヤネ嬢に振り向いて貰えなかった時の自分への言い訳だと知るのは少し先のこと。
翌日、約束の時間に寮の入り口へ向かうと寮母と見られる女性とロングコートを羽織り向こう側を向くアヤネ嬢を見つけた。
「あらぁ昨日荷物を届けてくれた方じゃない、ほらねっ私の言ったとおりだろアヤネちゃん」
フッと振り返って見つめるように視線がぶつかった僕は、自分の贈ったドレスを着て頬を染めるアヤネ嬢に思わず笑ってしまったんだ。
「あの……おはよう……ございます。変、でしたか?」
「おはよう、とても似合うと思うけどコートが邪魔だね。天気も良いし寒くなったら僕のがあるから置いていこう?」
「あっ、じゃすぐに部屋に置いてきま――」
「良いって良いって! 私が預かるからさっ! 早く行っておいで。帰ってきたら取りに来てくれればいいからさっ。気をつけて行ってくるんだよ」
気の良い寮母さんに申し訳なさそうにコートを渡した後、僕と馬車まで来たけど……まじまじ見たその装いに改めて嬉しさが込み上げてくる。
「よく似合うよ」
シースルーの袖に、上から形の良いワンピースを重ねたデイドレスと、侍女もいない状況で朝から支度したであろう髪と化粧も良く似合っている。
「こんな素敵なお洋服を贈って頂いてありがとうございます、ロード様」
「卒業パーティーを頑張った君への褒美として受け取ってもらえるなら嬉しいよ」
僕は今日この一日で思い知らされるんだ。
どれだけ君にハマって、妹のようじゃないと気付かされ、他の男が君を見る視線がどれほど嫌なのかを。
いつかヴィオレティ様のそばで働きたいと願う君に、一緒にダンデリオンへ行こうと告げる日が楽しみだ――




