因縁の対話
ゴクッ……唾を飲み込む音ってこんなに響くんだっけ? 今までのこと含めて何か罰を受けるのかも。あ〜もうどうにでもなれっ!
授業が終わって帰り支度してたら、まさか突然……ラディ第一王女殿下の使いの者っていう女の人に呼び止められるなんて思いもしなかったから、心の準備なんて出来てないんですけど。とにかく失礼の無いように粗相をしないように――って今更だって私でも分かるよぉ〜。
「どうぞお掛けになって」
一歩踏み込んだそこは、郊外のこじんまりとしたカフェテラス。もっとこう、お城の一室でお説教されて罰を受けるもんだとばかり……。
「ここのオススメはシフォンケーキなの、お好き?」
「はっ……はい、あの……」
「美味しいケーキと紅茶はそれだけで心を満たしてくれるのよ。今日呼んだ理由を伝える前にお互い心を満たしたいと思うのだけど良いかしら?」
「……シフォンケーキ大好きです……。失礼します」
ふわっふわのスポンジにとろーりかかった生クリーム、彩りで添えられたラズベリーが映える!! スマホがあったら今すぐSNSに上げるのに。
しかも口に入れた瞬間の口溶けっ! この世界でこんな美味しいケーキが食べれるなんて……。
「どう? 美味しいでしょ? ヴィオに教えてもらってからわたくしのお気に入りなのよ。その顔は満足って感じね」
「とってもおいひいですぅ〜んん〜幸せですぅ」
「貴方もそんな顔できるのね、安心したわ」
ヴィオってヴィオレティ様のことだよね、良いな〜……私もいつか愛称で呼べる日が来たらなぁ。悪役令嬢ってだけで毛嫌いして散々睨んできたけど、今では私にとって欠かせない大切な人だもん。あれだけ嫌な思いさせちゃったのに魔法学の講師をつけて私を思いやってくれたり、今も叔父様の屋敷に帰れない私のために寮を手配してくれたりヴィオレティ様がいなかったら今頃どうなってたんだろう。
「わたくしはね、ヴィオが可愛くて可愛くて仕方ないの。だからヴィオを害する者は誰であろうと許さないわ。今の貴方からはヴィオを信頼してるって感じるから今日呼んだのよ?」
「はい」
「一つお願いがあるの。ヴィオが魔力を失った件にフリオスって言うアホ王子が関わってる可能性があるわけ。あのアホ王子を避けてるのは知ってるんだけど、どうしても情報を引き出したい。証拠が欲しいのよ……協力してもらえないかしら」
……フリオス様がどうしてそんな事するの?
ヴィオレティ様から魔力を奪って何がしたいんだろう。もしかして私のせい……?
「私その……フリオス様が怖くて……」
「もしこちらに協力してくれるなら、貴方の身を守る魔法を付与すると約束するわ。たった一回の接触で良いのよ、この真実薬を飲ませて記録してきてほしいの」
「真実薬……」
実際ゲームに出てきたアイテムだ……。
でも使用用途は全然違う。だってゲームの中でこれを使うのは悪役令嬢であるヴィオレティ様で、色んな悪事を洗いざらい吐かせられてたもん。
まさかフリオス様に使うなんて、一体何を話すのかしら。どんな真実があったとしても逃げ出さず記録出来るのかな。
「分かりました……ヴィオレティ様に関する話しを聞いてくれば良いんですね?」
「……えぇ。ごめんなさいね、でもこれでヴィオを救えるかもしれないの。もちろん成し遂げてくれたら相応の御礼をするわ」
「おっ御礼なんていりませんっ! 罪滅ぼしのつもりで頑張ります」
「一人では不安でしょ? もし嫌じゃなければ……」
スーっと現れた姿にパチパチ目を瞬かせて驚いた!
だってそこに現れたのがロード・デズモズ様だから。
「彼と一緒に記録してきて頂戴」
「やぁレディアヤネ、話はラディ様から聞いてるよ。僕はね、どうしてもレベンディスの力になりたいんだ。ラディ様に相談したら君のことを聞いてね、良ければ協力させてほしい」
「ロード様!? すっすいません……その驚いて……あの、でも私と一緒にフリオス様のところに行ったら……たぶん……」
「アヤネ様大丈夫よ、彼は役者だもの。女性役だって出来ちゃうんだから」
「えっ、あ……女性役! すごい……」
「二人で少し計画を立てていらっしゃい。ロードは記録出来たら私のところへ、いいわね?」
「お任せを」
◇◇◇◇
「良いね? 計画通りに」
「分かりました」
フリオス様に訪問するお手紙を出してから三日。
今日が約束の日。学園が早く終わった今、前によく来てたフリオス様の執務室を訪れてた。
「フリオス様っ」
「アヤネ! よく来た! しばらく来ないし、俺のことを避けてるようだったから不安だったんだ。こっちにおいで」
「はい……あの今日は私が作ったクッキーを持ってきたんですけど、うちの侍女を招き入れても良いですか?」
「アヤネが俺のために? 最高じゃないか、その侍女にお茶も用意させろ」
扉を少し開いて合図すると変装したロード様が大人しそうな侍女姿でテーブルセットを始めた。
香りの良い紅茶に、アーモンドを散りばめたクッキーを添えてロード様は部屋の隅に控えた。
「今日はねアーモンドのクッキーにしてみたの」
「美味い、さすが俺のアヤネだ。この紅茶にもよく合う」
減っていく紅茶を見て、恐る恐る口にする。
「フリオス様はヴィオレティ様と婚約中でしょ? やっぱ婚約破棄なんて無理だよね?」
「なんだ、そんなこと心配してたのか? アヤネのために俺がどれだけ頑張ったと思ってるんだ、安心しろ」
「えぇ聞きたい聞きたいっ、教えて?」
「ここだけの話しだぞ? 父上の褒めるアイツの魔力を奪ってやったんだよ」
心のどこかで違ってて欲しかったのかもしれない。真実薬がきちんと効いてると証明できたけど……まさか私と一緒になるためにヴィオレティ様から魔力を奪うなんて……。
「本当お前の叔父が裏路地で違法薬物の売買してくれてて助かったよ、じゃなきゃヴィオレティから魔力を奪う計画も成り立たなかったからなっ。まさか魔力を枯渇させる程の薬が出来上がるなんて思いもしなかったが……城の人間で実験出来たことが何よりだったよ」
叔……父様……?
「それに、カフェアとヴィオレティが同時に魔力を失えば俺の王太子の道が開かれる計画だったのに、カフェアの奴……回復しやがって」
「ねっ……ねぇ、ヴィオレティ様からどうやって魔力を奪ったの?」
「簡単だよ、気を失って運ばれた先で点滴に繋いでおけば後は自然に奪われるだけだ。じっくり奪われたんだよ。ざまぁみろ。これで俺たちを邪魔する者はいないだろ? 俺の知らぬ間にアヤネは魔法レベルを格段に上げてくれたし、あとは俺が裏から手を回しておくから心配ない。俺たちは結ばれる運命なんだから」
ゾクっと背筋が痺れた。
なにそれ……誰も死んでないだけで殺人未遂だよ。横目に見たロード様も手が震えてる……。
「アヤネ、卒業パーティーの時は必ず隣にいろよ? 終わりの始まりに俺たちが揃ってなきゃだろ」
「…………はい。叔父様はどこ?」
「郊外の別邸に身を潜めさせてるよ、上位貴族を狙うって言ってたから今頃計画を練ってるんじゃないか? 勝手にさせておけ」
そ……そんな事絶対させない。
魔法学の授業だと嘘をついて部屋を出た私は、ロード様と共にラディ殿下に全ての記録を渡した。郊外の別邸に向かってもらったラディ殿下の部隊も静かに鎮圧してくれる思う。
私はフリオス様のために魔法を頑張って来た訳じゃない。確かに最初は魅了魔法とか使いたかったし、ヴィオレティ様から言われた様に身を守る事に意識が向いてたけど今は違う。私なりの方法で私の魔法で誰かの役に立ちたい。だってヒロインは愛されてなんぼでしょ!
愛されたいなら、ヴィオレティ様みたいに頑張らなくちゃいけないんだ。
「ラディ殿下、私は卒業パーティーにフリオス様と出ます。ヴィオレティ様を私も守りたい。私に出来ることはありますか?」
「ありがとう。貴方ならそう言ってくれると思ってたわ。それならあのバカ王子にとって最高の卒業パーティーになる様なシナリオを作りましょう。そうね、丁度良いところにロードっていう一流の役者がいるから、アヤネ様、貴方にも一芝居打ってもらうわ」
「お任せください、得意分野です」




